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努力は裏切らないと誰が言ったのか。


 

 

 この一週間、私は頑張りぬいた。

 

 ヴィッキーの厳しいシゴキにも耐え、鈍器なマナー本を熟読した。

 その苦労が今日試されるのだ!

 

「どんとこい両陛下!」

 

「そんなこと言って大丈夫? 王家には密偵がいるから、あんたのことも見てるかもよ」

 

「すんません! 今のはナシでお願いします!」

 

 危ねー! 私の知らんところで斬首刑への階段登りかけてたわ。

 

「本当に私綺麗に見えてる? 変じゃない?」

 

 王家の馬車を待ちながら、私はヒヤヒヤドキドキハラハラしまくっている。

 ヴィッキーとコレットは馬車が来るまで付き添ってくれてる。

 

「あんたバカでバカなことしかしないけど、顔の作りと体は完璧だから安心なさい」

 

 ヴィッキーさんバカバカ言い過ぎじゃないっすかね?

 

「そうだねぇ。リアちゃん変なことよくするけど、性格はいいし一緒にいて楽しいから大丈夫だよぉ」

 

 コレットー! 私の救いの女神様!

 この完璧な飴と鞭の友人に感謝しかない。マジリスペクト。

 

 そんなことを言ってると馬車がカッポカッポやってきた。馬車の車体は深い紺色に金色の模様で縁取ってある。

 そして扉に王家の紋章であるグリフォンと炎に月桂樹、真ん中に黒い船が描かれていた。

 御者が扉を開けて私が乗るのを待ってくれている。

 

「それじゃあ二人とも、私行ってくるね!」

 

 濃い赤のビロードの車内に吸い込まれるように私は馬車に乗った。

 

 

 

 馬車は滑るように走っている。揺れもほとんど感じない。

 私は何度も頭の中で両陛下に会った時のシュミレーションをしていた。

 ヴァレンテイナ様(偽)に会いに行く途中の馬車の中より私は緊張していた。

 

 ゆっくりと馬車が止まるのを感じで、いよいよだと実感する。

 

 馬車の扉が開かれる。眩しさに一瞬目が眩む。

 

「さぁ、エルリア嬢、お手を」

 

 そう言う声は私を安心させる声、アル様だった。

 私はゆっくりと馬車から降りた。

  アル様に手を引かれて王宮の中を導かれる。アル様が途中で私に耳打ちする。

 

「馬子にも衣装ってヤツだな」

 

 私は肩に乗ったままのスクイーズをけしかけると、アル様の頭がスクイーズに体当たりされてた。ざまぁみろ!

 

 素直じゃない恋人を持つと苦労する、なんて思いながら一つの部屋へ通される。

 

「お呼びするまで、しばしお待ちを」

 

 侍従さんが言った。アル様も一緒に出て行くのを見てると、アル様が戻ってきて私にまた耳打ちする。

 

「さっきのは冗談だ。今日のお前は誰よりも美しい……最高にそそられる」

 

 そう言うと侍従さんと一緒にアル様は出ていった。

 私は時間差で言葉が脳に染み込んできて、あまりの恥ずかしさに身悶えたくなった。素直すぎる彼氏も問題だ!

 

 

 

 どれくらい経っただろうか。

 緊張しすぎて最近寝不足だった私は扉を開く音で夢現から現実へと引き戻された。

 

「フェアウッド様、どうぞお越しください 」

 

 私は緊張でガチガチになってる体をほぐすために深呼吸をした。

 大丈夫。私ならやれる!

 

 侍従さんに導かれて、大きな扉の前に立たされる。彼は一言だけ言った。


「こちらが謁見の間でございます」


 扉の両サイドに槍を持った衛兵さんが立ってる。

 

 視線を下に落としてフッと息を吐く。肩の力を抜かなきゃ。

 そうして遂に、謁見の間へと続く扉が開かれる。


 侍従さんが「フェアウッド男爵令嬢、エルリア様!」と高らかに宣言した。

 

 私は視線と頭を少し下に落としながらも、姿勢を正して一歩一歩を丁寧に歩いていく。何度も歩く練習をした成果が今試されてる。

 王家の紋章が床に描かれている。そこで私は足を止めた。

 深く片膝をつき、カーテシーをした。ヴィッキーの特訓が生かされた瞬間だった。

 

 私はその姿勢のまま低めの声で言う


「このたびは、謁見の栄を賜り、誠に光栄に存じます。フェアウッド男爵家の長女、エルリアにございます。」


 私は片膝をついたまま、ひたすら待ち続けた。

 

 重低音のよく響く声が重々しく言った。

 

「面を上げよ」

 

 私はカーテシーをやめてまっすぐ立ち、ゆっくり顔を上げて両陛下を見た。国王陛下の左隣りにアル様が立っている。


 国王陛下が「フェアウッド男爵か。父は健やかであるか」と尋ねられたので、私はしっかりとした口調で返答した。


「はい、陛下。父は変わらず領地の政務に励んでおります。」正確には慈善事業だけど(二回目)


 今度は妃殿下が話しかけてくる。


「あなたが噂に聞く娘ね。100年ぶりの聖女であると。素晴らしい」


「身に余るお言葉でございます。すべては師の導きによるものにございます」

 

 独学で無理やりスクイーズを呼び出しただけでイザベル先生は何もしてないけど、そんなことを言える空気でもないし、言ったら両陛下の側に控えてる衛兵さんの腰の剣の錆にされそうだから、余計な言葉は飲み込んだ。


 侍従に国王陛下が何やら意味有りげな視線を送っている。


「よい。そなたの家に変わらぬ忠誠を望む」

 

 私は深く頭を下げ「はい、陛下。命に代えましても」と言っておいた。正直、私の父は中央の政治に興味のない人だから、有事になっても数少ない領地の人々と経営してる孤児院や施設しか守らないだろう。沈黙は金なり。


 私は再びカーテシーをして、三歩下がって謁見の間から出ようと背を向けた瞬間だった。


「しばし待たれよエルリア嬢よ」


 心臓が過去一でバクバク鳴ってる。私、何かやらかした? ここで試合終了ですか安西先生ぇ!


 国王陛下は一人の侍従だけを残し、部屋にいる全ての人間を謁見の間から退出させた。


 \(^o^)/<オワタ


 馴染みのある顔文字が脳裏によぎる。オワタよ私。国王陛下が帯刀してる剣で首を跳ねられるんですね分かりますん。


 背後から何やらブツブツ言う声が聞こえたと思ったら、魔力のうねりを感じて「ん?」と思いながらもその場で固まってた。


「ふむ、これでよかろうエルリア嬢よ」


 私に話しかけてくる国王陛下を見たくない。私まだ生きてたいっす!


「大丈夫だリア」


 私が一番落ち着く声が聞こえてきて、私は思わず振り返った。


 アル様がこちらに来いと手招きしている。

 いや、来いって言われましても行ったら人生終了なんですけど。


 しかしアル様は私を犬か何かか勘違いしてるのか、今度は両手を叩いて私を呼んでる。


 私は渋々、両陛下へ再び近付いた。

 紋章の前で止まると、国王陛下が「もっと近う寄れ」とか言ってくるし何なのこの親子怖い。


 王妃陛下なんて、さっきから怖いほど笑顔なんですけどそれは。


 恐る恐る私は一歩を踏み出す。


「もっと近う寄れ」


 まだ駄目なの!?

 私はさらに忍び足で一歩を踏み出す。


「なかなかに控えめな令嬢であるな」


 親子揃って手招きやめてぇ!

 えいやぁっ、と私は国王陛下にかなり近付いた。


「見たかセラよ! 子犬のようではないか!」


 国王陛下がルンルンで王妃陛下に話しかけてる。


「えぇ、見ましたわ! 本当に愛らしいこと!」


 え、えぇー……ちょっと何言ってんのか分かんないッス。


「リアをからかうのも、そこまでにしておいて下さい、父上、母上」


 アル様が私の唯一の頼みの綱! 助けてアル様ー!


「おぉ、そうだったな。エルリア嬢よ、今この部屋には防音の魔法と誰も侵入できぬ結界が張ってある。故にどんな話をしても誰に聞かれるでもないから、そう緊張するな」


 国王陛下、さっきは視線を陛下の目しか見てなかったけど改めて見ると、厳しい顔つきに左の頬と左眉の上に切られたような跡がある。

 髪は白髪混じりの暗褐色を後ろで束ねている。

 体つきはがっしりしててめちゃくちゃデカイ。見た目だけなら、どっかの山賊の頭とか言われても納得できるレベルで厳つい。


 チラリと国王陛下の右横に座る王妃陛下を見ると、ほんのり小麦色の混じった透き通る白い肌をしていて、ターコイズのような色のアーモンド型の瞳をしている。

 黄金色にわずかに白髪が混じってて、後ろで上品にまとめてある。あと私を見てめちゃくちゃ笑顔になってる。


「あの、正直なことを申してよろしいですか?」


「おう、なんだエルリア嬢」


 山賊の王……じゃない、国王陛下が興味津々で聞いてくる。


「私はこの日のためにマナーの特訓をしてまいりました。馬鹿なので頭に叩き込んだマナーは先程ので全部です。ぶっちゃけるともうすっからかんです。スミマセン」


 一瞬の沈黙の後、ドッと両陛下が大声で笑い出す。あれ? 王家の人ってもっと控えめにかつ威厳ある笑い方するんじゃなかったっけ? 私幻聴でも聞こえてんのかな?


「あらまぁ、素直なお嬢さんだこと! いつも無愛想なアルに恋人ができたと聞いて、どんなお嬢さんかと思ったら、こんなに愛らしい方だとは思ってなかったわ」


「いや、今の私の話聞いてました?」


「爵位は低いがフェアウッド男爵の話はよく聞くぞ? 身銭を切って貧しき民に恵みを与えているとな。なんと器の大きな男だ。我は気に入ったぞ!」


「あの……私の話……」


「将来結婚するときには信頼できる高位貴族の養子にして、爵位の問題なぞすぐに解決だ。そうだろう、息子よ?」


「えぇ、そう考えてます。てかいい加減リアの話を聴いてくれやがりませんか? 彼女混乱してるんですが」


 アル様の言葉に二人は突然私を見た。


「おう、我らの悪い癖が出てしまったなセラ」


「えぇ、レオン」


 ニッコニコの二人がワクワクしながら私の話を待っている。

 緊張の糸がブチ切れた私は我慢できなくなって叫んだ。


「何なんですか!? 私は不敬罪で死ぬのは嫌だから必死こいて一週間かけて人殺せるくらいの分厚いマナー本を読み漁り、友人に特訓という名の地獄のシゴキをされて、夜は膝の痛みに耐え忍び、その間に宿題や課題もこなさなくちゃいけなくて、もう何のために生きてんだろう私ってなって黄昏れたりしてね! そんで迎えた本番はあっという間に終わって気付いたらめっちゃ親しみやすい国王陛下と王妃陛下で、息ぴったりの何かラブ空間すら感じるし、私は一週間毎日胃に穴が開くかと思うほどの苦痛を味わってて、結果コレですよ! 誰か分かりやすくバカでも分かる説明してくれませんかねぇ!」


 全てを吐き出した私は肩で息をしてその場で仁王立ちする。


 両陛下はオロオロしてるし、アル様はやっちまったーみたいに額を片手で覆ってるし、全くなんなのよ!


「うむ、それはすまなかった。いやぁ、馬鹿息子の色恋沙汰なんて初めての事でな! ついつい浮かれてしまった」


「そうですわ。この子いつも無愛想で学園の話はしたがらないのに、最近になってエルリア嬢の名前ばかり話題に登るから気になってしまったの」


 そんな理由で私は王宮に呼ばれたのかよ!

 アル様も事前に報連相してくれよぉ!


 ギリギリと歯噛みする私の機嫌を取ろうと、アル様が滅多に見せない笑顔で私にディナーを誘ってきた。そんなので靡くほど私は安い女じゃないんだからね!

 ちょっとお腹が空いたからお呼ばれするだけだかんね! 勘違いしないでよ!


 そうして、この後のディナーでも私は両陛下に質問攻めされまくり、なんだかんだでいつもの百倍優しいアル様にうっとりしちゃって、腹いせにヴィッキーとコレットの分のデザートをお持ち帰りさせてもらったとさ! もう、信じられない!


 

 

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