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ドレスはご令嬢の鎧です。


 

 

 土曜日の朝、私はコレット様に土下座していた。


「今回もお願いしまああああす!」

 

「ふむふむぅ、良いじゃろぉ」

 

 新たに実家から送られてきたドレスは歓迎会のドレスとは違ってどれも一級品だと、ファッションに疎い私ですら分かる。

 そしてとんでもない数を送りつけられてきて、ベッドの上が満杯になっている。ねぇ母上、大丈夫? ドレス代で破産したりとかしないよね?

 

 悶々とドキドキとハラハラが混じる気持ち持ちを抱え、私はアル様の実家である宮廷に着ていく服をファッショニスタ・コレットに選んで貰ってる。

 

「うむむむぅ。相手が国王と王妃となるとぉ、変な選択はできないよねぇ」

 

「おねげーしゃす! コレット様が頼みの綱っす!」

 

 コレットは慎重にドレスを選んでいる。

 一着一着を手に取り材質や縫い方まで見ている。

 

「国王陛下だけならこのドレスだけど、王妃様もおられるからこのドレスじゃあ駄目だよねぇ。ヴィッキー、こっちに来て一緒に選んでくれないぃ?」


 ヴィッキーは窓辺に座ったまま黄昏れてる。


「ヴィッキー! 聞こえてるー!? 私の生死をかけたドレス選びを手伝って欲しいんだけどー!」


 ヴィッキーがノロノロとこちらを向く。


「大きい声出さなくても聞こえてるわよ煩い」


「だったら返事くらいしてよ! ほら! こっちに来て!」


 ヴィッキーは面倒臭そうにやってきた。


「で、あんたの希望はどれよ?」


「バカ言ってんじゃないよ! 私のセンスで選んだドレスを着ていったら国王にその場で斬り捨てられるわ!」


 ドレスの山を見てヴィッキーは顔をしかめる。


「どれも一級品だけど、全部系統が違うわね。あ、これうちが売ってるドレスに似てるわね……あぁ、やっぱりうちの商会のロゴが刺繍されてるわ」


「マジで!? ヴィッキーの家って何でも売ってんだね!」


 ヴィッキーは髪を掻きあげた。


「何でもってわけじゃないわ。でも貴族向けのドレスや装飾品に力を入れてるのは事実ね」


「てことは、ちょっと待って……あの箱どこに行った〜って、これだ! これ、見てみ!」


 宝飾品がぎっしり詰まった箱を開けてヴィッキーに見せてみる。彼女はその中からネックレスを指差した。


「これはつい最近うちが仕入れたものよ。このイヤリングとセットで。あとコレとコレもうちのだわ」


「ヴィッキーさんマジヴィッキーさん」


 今更ながらヴィッキーの実家の凄さを知る。


「ねぇ、ヴィッキー。このドレスなら派手すぎずぅ、地味すぎずぅ、上品な感じで良さそうじゃないぃ?」


 コレットが指差したドレスはエンパイアドレスで、肘までのゆったりしたパフスリーブに袖丈は手首まである。パフスリーブがスケ感のある刺繍が施されていて、とっても上品なドレスだった。


「あんたドレスを見る目だけは確かよね」


 ということは、このドレスでオーケーってことか?


「これなら派手な露出もないし、品位も感じられるから、両陛下が相手でも失礼じゃないと思うわ」


「うんうん、おすすめだよぉ」


「うあーん! 二人ともありがとー! マジで感謝!」


 感極まって私は二人に抱きつく。


「あとは宝飾品ね。ここで間違えると、とんでもない事になるわよ」


「こ、怖いこと言わないでヴィッキー」


 コレットとヴィッキーが宝飾品の箱を漁る。私はただ二人に委ねるだけだ。


「エメラルドがいいかもね。瞳の色に合わせるのよ」


「いいねぇ! それなら小ぶりの物がいいと思うぅ。ネックレスも細身でさりげない感じがいいかもぉ」


「コレット、あんた将来うちで働く気ない? 目利きができる人材は貴重だわ」


 コレットは頬に手を当てうーん、と悩んでる。


「ありがたい申し出だけどぉ、私は農家を継がないといけないからぁ、無理かもぉ」


「そりゃ残念だわ」


 二人がネックレスとイヤリングを箱から取り出し、ドレスに軽く当てる。


「うん、コレがいいわね」


「ピッタリだねぇ」


 二人は振り返ると私を見た。


「あんた、ドレス試着しなさい。サイズ合わなかったら悲惨だからね」


「わ、わかりやした」


 私は二人の手を借りながら、えんやこらとドレスを着た。


 そしてネックレスとイヤリングを身につける。


 鏡の前に立った私は感嘆の溜息をついた。


「凄い……私じゃないみたい」


 まるで神話の女神のようだ。中身はアレだと自覚してるが、外見が超絶美少女2.5次元なおかけで完璧な装いになっている。


「うん! コレがいいねぇ」


「そうね、コレが一番合ってるわ」


「二人の審美眼に感動して泣きそうだ」


 私は鏡の前でくるりと回る。ふおおおっ! 何だこの完璧超絶美少女は! 私だ! 私って凄かったのか!


「あと問題なのは陛下を前にして、いつもの調子で変なこと言わないように、しっかりマナーを叩き込まないといけないわね」


 ヴィッキーの言葉に我に返った。


「んああああっ! 忘れてた! 最大の難関が待ち構えてたの忘れてたー!」


 あの人を殺せそうな鈍器みたいな本を熟読して実践せねば!

 クソッ! 文字読むと一行目で眠くなる私への挑戦状か! チキショー!



 

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