貴方は誰?私はエルリア・フェアウッド!
――気が重い。
「ついにぃ、アル様のご両親と会えるんだねぇ。良かったねぇ」
「良くねーよ! またもや生死をかけた闘いが始まるんだよ! 何一つ喜べるポイントがねーよ!」
朝食のオート麦粥をかき混ぜながら、朝からずっと私はグチグチネチネチ文句を言っている。
「まぁ、こうなるのも時間の問題だとは思ってたわ。恋人が王太子だものね」
「私はさー、前世の感覚が残りすぎててアル様と接してても、王太子殿下って実感沸かないんだよね……。アル様もいつもオラついてるし」
「オラつくってなによ」
「威圧感与えたり上から目線だったりすること……かな」
「なら王族としては自然じゃないの」
私はグッチャグチャになったオート麦粥を口に運んだ。
「そこなんだよ! あまりに自然すぎて違和感ないのが問題なんだよ!」
まだアホ王子のフリしてた時の方が王族感あった気がする。
「王族相手のマナーを教えてくれる人いねーかなー」
「いるじゃないエリック様」何言ってんだこいつとばかりにヴィッキーがいう。
「エリック様は学園に来られないでしょ! 見つかったら大騒ぎになるわ」
ヴィッキーは髪をかきあげ優雅にパンを食べた。
「じゃあアル様に直接教えて貰えばいいじゃない」
「この前も言ったじゃん! アル様、学園の勉強以外にも政務が山のようにあるって! そんな暇ないの!」
「私が言えるのは困ったときは図書館に行け、かしらね」
「ヴァー……そうなるよねー」
仕方ない、今日の放課後図書館行くか……。
今日も宿題+課題を各科目から出され、私はゾンビになりかけてた。
課題出されてる人ほぼイナイ。ワタシなぜか先生にメをつけられる。チョット失敗しただけで、先生キビシイね。
ノロノロ歩きながら私は広大な図書館を見て回る。
どこを向いても本だらけで、段々頭がクラクラしてきた。
気分が悪くなって私は近くにあった椅子に座った。目を閉じるとまぶたの裏が文字の羅列でチカチカする。
マナーに関連する本だけでも膨大な数だった。何から手を付けていいのかも、よくわからない。
「ヴィッキーに付いてきて貰うべきだったかー」
前かがみになって両手で目を抑えていると、涼やかな声が図書館に響いた。
「あの、御気分でも悪いのですか?」
顔を上げるとえらく整った顔の少年が私の側で立っていた。
誰だ、この顔面偏差値の高すぎる少年は。
「大丈夫ですか?」
水面のように淡い水色の瞳が私を見てる。髪の毛がゆるくウェーブがかっていて、後ろで束ねられている。その髪も流れる川を思わせる澄んだ水色だった。
「大丈夫です。文字の羅列を見てると気分が悪くなってしまって」
「何かお探しの本でもあるのですか?」
中性的な少年が尚も聞いてくる。
「あるんですが、どれから読めばいいのか分からないんです」
分からんのだよ少年。何から手を付けりゃあいいのか分からんのだよ!
あぁ、このまま溶けて消えたい。
少年は困ったように微笑む。すまんね、私がおバカなせいで君を巻き込んでしまって。もう私なんぞ放って置いてくれても結構ですゆえ。
「よければ僕も一緒に探しましょうか? ご迷惑でなければ」
「ご迷惑かけてるのはむしろ私の方で、申し訳ないから自力で探します」
よいしょ、と乙女らしからぬ掛け声で何とか立ち上がる。
さてと、果て無き探索の旅にでますかぁ!
「どのような本をお探しかを言っていただければおすすめの本を見つけられますが」
なに! そんな特殊能力持ってるのか君は!
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
私は深く礼をした。
「まず探しているのはマナー本なんです」
「はい。マナー本ですね」
少年が本棚を見ながら歩き出す。私は後を追う。
「下位貴族が王族に対してするべきマナーが知られる本があれば助かります」
少年が人差し指を唇にあてて少し考え込むと、あ、あれがいいかもしれません、と言ってまた歩き出す。
「これです! これなら貴方がお探しの本と合致するかと」
少年が私に人が殺せそうなほど分厚い本を手渡したきた。お、重い!
「王族相手のマナーってこんなに分厚い本になるほど大変なんですね」
私が本を持つのに悪戦苦闘しているのを見かねて、少年が代わりに本を持ってくれた。見かけによらず力持ちなんですね。ありがたい。
「マナーの本質は相手を思いやり、その場を円滑にする為だと僕は思っています。気負わずに貴方なりのマナーを身に着けてはいかがでしょう? 勿論、王族相手の最低限のマナーを覚えた上での話ですが」
「思いやり……そうか、それなら私でも覚えられそう!」
思いやりの気持ちなら任せておけ! 暑苦しいほどの思いやりをぶつけられるぜ!
私は少年から本を受け取り、「ありがとー! このお礼は絶対するからー!」と言って図書館を後にした。
そして自室に帰って本を開いた瞬間に気付くのだ。
「うああああっ! あの少年の名前とどこの寮か聞くの忘れてたああああっ!」
とまぁ、お決まりのドジっ子(古の言ry)っぷりをかましたわけです、はい。