人には言えないことの一つや二つあるもんです。
ザマァ死から解放された私は黒木さんことアル様とラブラブだ……と言いたいところだが現実は私に厳しかった。
「今日も政務しなきゃいけないわけ? まだ私たち16歳だよ!?」
アル様は髪を掻きあげながら溜息をつく。
「16だからだよ。オヤジが早い時期から国王としての政務がどのようなものか知っておけってうるせーんだよ」
「でも学園の宿題や課題もやんなきゃじゃん」
ぷうっと私は頬を膨らませる。美少女な見た目だからなせる技だ。
「それも熟してこそ国王への道に繋がるってよ。つーわけだから、今日の王都デート無しな」
「酷いー! めっちゃ、めーっちゃ楽しみにしてたのに! アル様のバカ!」
アル様から顔を背けると不意に顎を掴まれて額にキスされた。
「んなっ! なにを!」
「これで我慢してくれリア」
トドメとばかりにアル様が私を優しく抱きしめる。
ズルい! こんなんで私が許すとでも……。
「……今日だけだかんね!?次はないからね!」
チョロインです、どうもこんにちはこんばんは。
仕方ないじゃん! 私アル様にぞっこん(古の言葉)なんだもん! こんなのされたら許すしかないじゃん!
「いい子だリア。それじゃあ、また別の日にな」
そう言ってアル様は足早に去っていった。
ぐぬぬぬっ、次っていつなのよ!
イライラしながら私は自分の寮に戻った。
ヴィッキーとコレットは先に部屋に戻ってた。コレットはソファーでお菓子を美味しそうに食べてて、ヴィッキーは宿題をしている。なんという対象的な二人。
「あのさ! 聞いてくれるかな!?」
「何を?」
また二人の声がハモる。
「アル様が忙しすぎてデートできないの!」
「あっそ」と冷たいヴィッキー。
「それは残念だねぇ」と菓子を頬張りながら言うコレット。
「二人とも適当に答えてる感丸出し! あたしにとってはマジでガチで大切なことなんだよ!?」
「相手が王族ならしかたないわよ。割り切りなさいな」
ヴィッキー冷たい!
「王族って言っても私たちまだ16歳だよ!? 国王になるための勉強って言うけど早すぎない!?」
ベッドにダイブしながら私はふてくされる。
「そういう相手を選んだのはあんたでしょ。我慢なさいよ」
正論パンチはやめてくれヴィッキー!
「でも大変だねぇ。学園の宿題とか課題も同時にしなきゃいけないんでしょ? 私なら無理だなぁ」
サクサクとクッキーを食べながらコレットが言う。
「どうしよう、一生このまますれ違ったまま年寄りになって死んじゃたら」
「まるで悲恋ね」
カリカリとノートを鉛筆が走る音がする。時折サクサクという音も混ざる。
「私、ヴィッキーになにかしたっけ?」
「自分の胸に聞きなさい」
「え、聞くほどの胸の大きさじゃないんですがソレは」
「あんたが私とコレットにしたことを思い出しなさい」
え、えぇー……。いきなり難易度ベリーハードなこと言われましても。
パタン、とノートを畳む音がした。
私はそぉっとベッドからヴィッキーを覗き込む。
「ギャッ! びび、びっくりしたー! 音もなく近付かないでよ! 心臓ゲロるところだったわ!」
胸を抑えて深呼吸してると、ヴィッキーは私のベッドの横で仁王立ちしている。
「それで、答えは?」
「えっと、そのー…………分かりません!!」
「不合格」
ムッとして私はベッドの上で立ち上がった。
「何なのヴィッキー! 急にそんな事言われても分かるわけないじゃん! せめてヒントくらいちょうだいよ!」
「ヒントはアルヴィン様とあんたとヴァレンテイナ様よ」
これには鈍い私もハッとする。
「私とアル様とティナ様、三角関係とかじゃないからね?」
「馬鹿なのあんた!? そんなこと聞いてんじゃないわよ!」
「そしたら何なのよ! はっきり言いなさいよね!」
私もベッドの上で仁王立ちする。
「それはねぇ、アルヴィン様とヴァレンテイナ様とリナちゃんの三人がぁ、私たち二人に何か隠し事してるんじゃないかなぁ、ってヴィッキーは言いたいんだよぉ」
コレットが間に割って入って答えを言ってくれた。
私は仁王立ちの姿勢を解くと、流れるような動作で綺麗な土下座をした。
「すみません、マジで勘弁してくださいませ。それだけは私からは何も言えませんですハイ」
ヴィッキーが靴を鳴らした。
「私たち友達だよね?」
「はい」
「友達なら多少の隠し事は良いと私は思ってる」
「はい」
「でもあんたが隠してるのは、そんな些細なことじゃないでしょう?」
「えー……うー……んんー」
「私はそれが嫌なの! 歓迎会の時にヴァレンテイナ様が仰った事を私は信じてない」
ヴィッキーは賢い子だ。簡単には騙されてくれない。
「だってさー! 私一人の問題じゃないんだもん! 勝手にペラペラ話せないもん!」
「だったらアルヴィン様と一緒に話してよ」
「それが今はできないってさっき言ったでしょーが!」
バチバチと私とヴィッキーの間で火花が散る。
「そもそもヴァレンテイナ様が魔法の道を極めたいから婚約破棄に同意するなんて筋が通らないでしょ! 魔法学園にいるんだから魔法の研究なら家より学園にいた方が遥かに効率的でしょ!」
「そんなの本人に聞きなよ!」
「その本人がいないから、あんたに聞いてんでしょ!」
ぐぬぅっ……! エリック様なんでもっとマトモな言い訳しなかったのさー!
「まぁまぁ、二人ともプンプンしてたらお腹すくよぉ? ほらぁ、笑顔笑顔ぉ」
私とヴィッキーの口にクッキーを放り込みながらコレットが割って入る。
美味しいなこのクッキー。
じゃねーよ! 言いたくても言えない私の心苦しさも分かってくれてもよくね!? なんで私だけこんな詰められなきゃならんのさ!
「ヴィッキーなんてもう知らない!」
私は布団を被って丸くなった。
「あっそ、それなら私もリアなんて知らないわ」
ヴィッキーが私のベッドの側から離れていく。
うぅ……最悪だ! アル様と会えないしヴィッキーとも喧嘩するし、いい事なんもないじゃん!