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黒木高志と言う男(2)




 おっさんは「おやっさん」と男たちに言われてた。俺が「おっさん」というと頭を思い切り叩かれて、これからは「おやっさん」と言えと命令された。

 おやっさんはオレに様々な事をしてくれた。

 新しい服を買い与えてくれたし、箸の使い方も教えてくれた。簡単な算数さえできなかったオレに教育を施した。

 そうやってオレは世間の常識と知識を手に入れた。


 成長するにつれ、ますますオレの体はデカくなった。

 ある日、組の若いやつがオレに付いて来いと言って連れて行かれた。

 男は「シノギ」の仕方を教えてやる、と意地の悪い笑顔を見せた。

 街に出て色んな店に連れて行かれた。その度に男は金を巻き上げていった。

 金を払わない奴には脅しをかけた。

 それでも払わない奴には容赦なく暴力を振るった。それを見てもオレの心は何も感じなかった。

 それ以降、オレは「シノギ」に連れて行かれるようになった。男がやってたように金を巻き上げ、脅しをかけ、暴力を振るう。

 簡単な「仕事」だと思った。


 そうしてオレは気付けば誰もが恐れる「ヤクザ」に成り果てていた。


 頭の回転が早かったから、金庫番にシノギから帰ってくる度に「もう少しデカくなったらお前が金庫番になるかもな」と言われた。


 ヤクザはオレの性分に合いすぎていた。

 体はあっという間にデカくなった。威圧感を与える為の道具になった。

 力もあった。拾われた頃から近くで見ていた暴力の振るい方をオレは難なく吸収し、金を払わない奴に躊躇いなくそれを実践した。

 気付けば組で一番の稼ぎ頭になってた。


 おやっさんは「いい拾いもんをした」とよく言ってた。


 オレは拾われた恩義に報いるべく、存分に働いた。

 兄貴分も一目置くようにまでなり、気付けば舎弟の盃を交わしてた。そしていつの間にかオレより下の若衆がオレに付くようになってた。


 おやっさんの盾になることもしょっちゅうだった。

 おやっさんを守り抜くたびに褒められた。

 その頃からか。

 オレは自分がまるで機械の様に感じられたのは。何しても卒なくこなす機械。


 そんなオレに転機が訪れた。

 ケツ持ちしてやってるキャバクラへシノギに行った時だった。

 店に来る前に金を暴力で回収してたオレは、キャバクラの店長から今月の金を回収しに店を訪れたのだ。

 店長は店に来ておらず、黒服が汗をかきながら対応してきた。

 店長が休みだと聞いてオレは店のどこかに隠れてるのかと店の中に入って行った。

 キャバ嬢も客も皆俯いていた。

 彷徨いていると、突然キャバ嬢に話しかけられた。

 下を向くと女がオレにおしぼりを渡してきた。

 その女はオレを見ても平然としていた。怖いもの知らずなんかじゃないと直感した。


 女の顔は昔の俺のようにがらんどうだったからだ。


 俺はおしぼりを受け取ると血のついたままだった拳を拭った。

 それを女に投げ渡して店の黒服に店長の代わりに金を巻き上げた。

 

 

 

 

 その後の日々も変わらずだったが、時折あの女の顔が頭にチラつくのが鬱陶しかった。

 仕方なく俺は店に行くことにした。まだシノギの日ではなかったが、店の裏手に回って女が出てくるのを待とうとした。

 すると店の裏口の階段に女が座って何かをしていた。

 階段を登って女の前に立つと、女がようやく顔を上げた。またあのがらんどうな顔をしていた。

 

「こんな所で何してんだ」

 

 女は上げていた顔を持っていた何かの機械に視線を落とすと一言、「サボってる」とだけ言った。

 無性にムカついたオレは低い声で女に店に戻って働けと命令した。

 女は面倒臭そうにしながらも、渋々立ち上がって店の裏口から店に戻っていった。

 

 それからオレはまたいつものシノギをする日々に戻る。

 このオレから逃げようとした男を追いかけて、路地裏に引き摺り込んで死なない程度に痛めつけて財布を出させた。

 札を取り出して胸ポケットに入れると、弟分が歩道にいる誰かに絡んでいた。

 サツが来たら面倒だと思い近寄ると、聞いたことのある声が聞こえた。

 ボロボロのジーパンによれてシワだらけのTシャツ、手にはコンビニ袋を持っていた女だった。

 オレは弟分を無理やりどかせると、女の顔をよく見ようと顔を見つめる。


 ――あの女だ。


 すぐに分かった。化粧をしていなくても、あの女だとすぐに分かったのは、あのがらんどうの顔をしていたせいだ。

 女はあれこれ言った後にコンビニ袋から缶を取り出すとオレの胸に押し付けて去っていった。

 缶を見るとビールだった。

 騒ぐ弟分を一発殴って黙らせると、オレは次のシノギに向かった。

 

 

 

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