普段穏やかな人ほど怒ると怖いよね。
「それでは術式の授業を開始する」
厳かな声で授業の開始を告げるのは、グウェンドリン・ホークス先生。(女性)
短く刈り上げた髪は白髪で青色のメッシュが入っている。
この先生は贔屓はしないけど、その分厳しい。
「前回、君たちが学んだ術式の発展形が今回の授業で学ぶ術式だ。教科書の二十四頁の式を参考にして術式展開してみろ」
いや、してみろ言われましても自分、前回の術式展開すらまともにできてないのに、どうすりゃいいんですか。
教科書に描かれている円形と角ばった形の組み合わせの隙間に細かい字がびっしり書かれている。コレを展開するとか本気でございますかホークス先生ことソフトバンク先生。いや、先生の名前が難しくて舌噛みそうになったから咄嗟に思いついたのがソフトバンク=ホークスという図式になっただけだ。深い意味はないからな!
「この式の中にこっちの式を組み込んで……いや、違う、こっちの式か? んー?」
ノートに式を描いていくが段々わけわからんようになってきた。なんかスッゲー不細工な形の術式が爆誕してしまったが大丈夫だろうか……。
私は恐る恐る魔力を術式に転写する――その時だった。
「ぎゃああああああっ!!」
も、萌え、ちげぇ! 燃えとる! キャンプファイヤー状態になっとるぅ!!
「エルリア・フェアウッド! 何をしている!」
ソフトバンク先生が近付いてくる。
「私は悪ぅございません! ちゃんと教科書通りに式描きましたー!」
「できてないからこんな事になってるんだいいから下がれ!」
ソフトバンク先生が右手を軽くかざすと燃え盛っていた炎が瞬時に消え去った。
残ったのは焦げまくってカッスカスになったノートと端が焦げちゃった教科書だけが残った。あの炎の勢いでよくこれだけの被害で済んだな、と自分に感心する。
「エルリア・フェアウッド! 罰として術式の基礎を百回復唱!」
「え、えぇー……せめて10回にしてもらえませんか」
ソフトバンク先生が私を睨みつける。視線で人が殺せるなら私は今、多分死んだ。
「わ、わかりました……」
他の生徒はやったー! だの惜しい! だのキャッキャ言っとるけど私だけ立たされたまま百回復唱だよ? これパワハラじゃね?
結局、術式の授業は散々だった。なにか、こう、上手くいく方法は無いんですか神様!
「あんたよく無事だったわね。下手したら死んでたんじゃない?」
「冷静に怖いこと言わないでヴィッキー」
「大丈夫! 私も結局失敗したから仲間だねぇ!」
そうだね仲間だね、コレット、あなたはそのままのあなたでいてくれ。
「次の授業は呪文科だねぇ。上手くできるといいなぁ」コレットがおっとり言う。
「私は試験にパスできる程度でいいわ」ヴィッキーがクールに言う。
「よっしゃあっ! 任しとけぇ!」私は張り切りまくってた。
呪文科の授業は外でする。実技訓練みたいなもんである。
ゲームでは上からノーツが降りてきて、それに合わせてボタンを押す方式だったが、現実はノーツなんて見えないしハリポタみたいな杖もなく、手を使って行う地味な科目である。チッ!
「は〜い、皆さん。前回の復習はしてきましたか〜? 今日は少し難しい呪文を覚えて行きましょうね〜」
呪文科の先生はタリア・グレンツマルクという美人な女の先生だ。見かけは30後半くらいに見えるけど、年齢不詳感もあってよく分からん。
「では感覚を開けて並んでね〜、はい、それでは火の呪文を唱えて火を出してみましょうね〜」
火はさっきのキャンプファイヤーでお腹いっぱいになってます先生ー!
とは言えず、右手をかざして壁に向かって私は高らかに叫んだ。
「天を焦がす業火!」
魔力の高まりを体の中で感じる。
それを右手に集中させると体の周りがチリチリと音と光に包まれる。
――いける!
そう思って私は魔力のうねりを更に高めようとした、その瞬間――
「グボッホッ!!」
右脇腹に強烈な痛みを感じると同時に体がズザザザザーッと地面を擦りながら転がっていく。
「は〜い、今ので一人死にました〜。いいですか皆さん、戦場で悠長に呪文を唱えてたら、あっという間に的になって死にますよ〜。今のフェアウッドさんが良い例ですね〜」
いってぇ! マジクソいってぇ!
ちょっ、先生せめて言葉で注意して!無言で空気の球投げつけるの止めて! パワハラどころの騒ぎじゃないっすよ! 私の肋骨何本か折れてない!?
「早く立って元の位置に戻ってくださ〜い、フェアウッドさ〜ん。あ、上級呪文は天才魔法使いでも結界術と術式展開してから発動するんですよ〜? これが授業で良かったですね〜」
この見た目がおっとりなタリア先生、めっちゃ怖いんですけどぉ! 私死にかけたんですけどぉ!?
フラフラしながら私はなんとか元の位置に戻った。あのさぁ、せっかくの転生物語なんだからさぁ、なんかチート的なのもりもりてんこ盛りにしてくんないかなぁ!
ザマァ死回避以外の楽しみが全然無いんですけどぉ!
私は土まみれの制服のまま、おとなしく初級呪文を唱える。
「火球」
魔力のうねりをまた感じて私は咄嗟にタリア先生の方を見て警戒した。何度もあんなの食らってたら本気で死ぬわ!
右手に集中しつつ警戒してると、タリア先生が右手を上げる動作をしたから、私は咄嗟に壁に向かって火球を投げてタリア先生からの攻撃に備えた。が、幸いタリア先生は右手を元の位置に戻してくれた。危なかったぜ……
「フェアウッドさん凄い! あんな大きな火球見たことないよ!」
「すげー! どんだけ魔力あんだ!?」
いつの間にか周りの生徒が私をワッショイしてくれてる。なに、今のは凄かったのか? タリア先生に意識が行き過ぎててあんま覚えてない。
火球を投げた壁を見ると、なるほどと言わざるを得なかった。
私の体の倍以上の大きさの焦げ跡が付いていたからだ。
え、私本当はチート持ってる? 何チート!? 呪文チート? 魔力チート? なんなんだよチキショー!
結局分からないまま私は呪文科の授業を終えた。ヴィッキーとコレットに褒められたが何故か素直に喜べんのはどうしてだ。グヌヌヌ。
そうして私の魔法学園での一日がどんどん過ぎていったのだった。
べ、別に他の科目の授業内容書くのが面倒くさかったとかじゃないんだからねっ!