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虐められても堪えない女です。


 

 

 痛い……頭がガンガンする。

 寝返りを打って天井を見る。いつもの天蓋の天井。

 あぁ、気分は最悪だ。

 自分が殺される夢を見るとしばらく動けなくなる。

 黒木さんは今どうしてるかな。私がいなくなって、少しは悲しんでくれたかな?

 

「ニュー……」

 

「おはよう、スクイーズ」

 

「ニュー……ニュー」

 

「大丈夫。少ししたら起きれるから」

 

 重だるい体をゆっくり起こして、私はベッドの端に腰掛けた。

 頭がまだ痛い。

 

「リア! 起きたの?」

 

 ヴィッキーが私のベッドに顔を出す。

 

「体、どこか傷んだりしてない? 大丈夫?」

 

「ヴィッキーは大げさだなー。私なら全然平気だって」

 

 わざと笑みを作る。

 

「だってあんた昨日上着がボロボロの土まみれで帰って来たじゃない。話聞いたら暴漢に襲われそうになった、なんて平然と言うんだから肝が冷えたわよ!」

 

 私の隣に腰掛けて、ヴィッキーが私の額に手を当てる。

 

「うん、熱はないわね」

 

「あるわけ無いじゃん。暴漢に襲われたって言っても、すぐに助けてくれた人がいたから何にもなかったって言ってんじゃん」

 

「体は大丈夫でもぉ、心は大丈夫じゃない時もあるんだよぉ」

 

 コレットが右手にカップを握ってヴィッキーの反対側に座る。

 

「はい、これねぇ、私の母さんが体がしんどい時や風引いたときとかにぃ、よく飲ませてくれたんだよぉ」

 

 はい、といってカップを渡される。

 

 私はそれを受け取ってそっと口をつけた。

 

「あ、美味しい」

 

「でしょぉ? 美味しいだけじゃなくてぇ、ちゃんと効果もあるんだからぁ」

 

 飲み進めていくと、痛かった頭がクリアになっていくのを感じた。

 

「ありがとう、コレット。それにヴィッキーも」

 

 ヴィッキーが苦笑いをする。

 

「困った時は私たちを頼りなさいよね。あんたバカだけど、本当はめっちゃ気を使うタイプだから心配になるのよね」

 

「そんな繊細な人間じゃないよ私」

 

「ハイハイ、そうねあんたはバカやってる方が似合ってるわ」

 

 むむっ、なんという言い草。

 

「今日は術式から始まるから、早めに用意しなさいよ」

 

「へーい」




「あの方よ、噂の……」

「何もしていませんって顔をして、よくもまぁ」

「ヴァレンテイナ様、お可哀想に……」


 ヒソヒソ話は相手に聞こえてる時点でヒソヒソ話じゃねーんだよ!

 文句があんならかかってこいやぁ!


 って言えたら楽だよなぁ。


 下位貴族はこういう時つれー。

 下手に上位貴族に楯突いたらお家取り潰しとかになるし。

 全くクレイジーな世界に転生しちまったぜ。


 術式科の教室に入り、席につく。

 端の焦げた教科書を出しながら私は術式嫌いもあってローテンション。

 教室のあちこちで私への悪意あるヒソヒソ話という名の思いっきり聞こえてる話し声が突き刺さる。メンドクセー。


「授業を始める! 今日は呪文と術式の連携を学ぶことだ! 教科書を開けろ!」


 ソフトバンク先生相変わらずテンションたけーなぁ、おい。


 ダラダラと教科書を開いて様々な術式の図柄を見つめる。こんなん覚えるの不可能に決まってますやん。


 先生が指示した術式と呪文を混ぜ混ぜする。

 術式が淡く光ったと思ったらバフンッて気の抜けた音ともに何故かマカロンが召喚されてた。


「フェアウッド! 貴様また失敗したな! なんだそれは」


「ふぁふぁほんへふ」


「食べるな馬鹿者!」


 召喚術の時は上手くいけたのに、なぜ術式単体では上手くいかんのか謎。


 教室中のあちこちからクスクス厭味ったらしい笑い声が聞こえてくる。

 

「静かにせんか! 集中しろ!」


 ソフトバンク先生マジかっけー。


「フェアウッド! 貴様は成功するまで教室を出ることを禁じる!」


「え! でも次の授業どうなるんですか!?」


「私から先生に言っておく!」


「お、横暴すぎる……」


「何か言ったかフェアウッド!」


「何も言ってません!」


 私はげんなりしながら術式をノートに書くだけの機械と成り果てた。




 その日の食堂は私一人だった。全部ソフトバンク先生のせいだ。


「うぅ……右手が痛い」


 何度も同じ術式を書きすぎて、右手が痛くてプルプルしてる。

 クレイジーすぎるよソフトバンク先生。

 そりゃあ召喚術で書いた術式は、たまたま上手くいっただけで、いわば奇跡みたいなもんだからね?


「ニュ?」


「スクイーズも反省しろー!」


 グニグニとスクイーズの体をスプーンで押し付ける。ふわもち触感のスクイーズには何のダメージもない。


「あー……そういえば、明後日歓迎会じゃん。またドレス選びしなぎゃならんとか地獄かよ」


 クローゼットにぎゅうぎゅう詰めにされたドレスを思い出して気分が下がる。

 お茶会のは着れないから、別のにしなきゃなー。またコレットに選んでもらおう。


 私は憂鬱な気持ちで夕食を平らげた。

 ――世界の強制力がついに明後日発揮される。私はもう、抗う気力が無くなっていた。



 

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