心のお掃除は定期的にいたしましょう。
「昨日倒れたと聞きましたけど、大丈夫ですの?」
オルカ寮の食堂に当たり前のようにティナ様がいる光景プライスレス。
「大丈夫でしたか? エルリア嬢。私は心配で夜も眠れませんでした」
オルカ寮の食堂に当たり前のようにアホ王子がいる光景334。
「ご心配をおかけして申し分けありませんティナ様。もう平気ですわ」
ティナ様の前では淑やかにいると私は決めている。どんなことで不興を買うか分からんからな!
「良かったですわ。それにしても精霊と契約を結ぶなんて凄いですわねリアさん。わたくしは精霊を呼び出すだけで精一杯ですわ。それに聖女様であられたなんて、とんでもないことですわ」
「いえ、私はティナ様に比べたら道端に生える雑草ごとき存在です。たまたま運が良かっただけです」
「エルリア嬢、あなたが道端に生える草なら私はそれを守る存在になりましょう」
「ありがたいお言葉ですが結構ですわアルヴィン王子様」
「なんと謙虚な! 私はまたあなたに魅入られてしまいました」
「アルヴィン王子様はお疲れで視界不良のようですね。リオン寮に戻ってお休みになられてはいかがでしょうか?」
「なんと! 自分のことより私を心配してくれるなんて! あなたはどこまで私を魅了すれば気が済むんですか!」
してねーよ! さっきからティナ様との会話に一々割り込んでくんじゃねーよアホ王子が!
「ティナ様は今日の一限目の授業はなんですの?」
ティナ様がアホ王子の様子を気にした風でもなく笑顔で教えてくれた。
「武術ですわ。わたくし荒事には慣れておりませんから、いつも武術の授業では成績が悪いのです」
確かに武術でオラついてるティナ様は想像できない。
「リアさんは?」
「私は魔法史です」
苦手科目の一つである。
「まぁ、それでしたらわたくし得意ですのに」
「私は苦手科目です。過去の偉人のお話は面白いのですが、歴史や伝統の話になると頭がこんがらがるのです」
偉人のエピソード系は普通に面白いが、魔法がどういう歴史を歩んできたのか、誰がどんな魔法を生み出したのか、そんな事が話に絡みだすと途端につまらなくなる現象はなんなんだろうな。
「私はどの科目も得意ですよエルリア嬢。分からないところがあるなら、私に是非言ってください! いつでもお教えいたしますよ」
そのドヤ顔やめろ。めっちゃ腹立つわー。
「アル様、リアさんがお困りですわよ。少しお控えくださいまし」
ティナ様もっと言ってやれ!
「お前の方こそ図々しい。そんなに私とエルリア嬢の仲を引き裂きたいのか! 前も言ったが、お前とは単なる政略結婚だ。要らぬことをして邪魔をするな」
「邪魔なんてしておりませんわアル様。リアさんがお困りのご様子でしたから申し上げたまでのこと。それにわたくしは分を弁えておりますから婚姻のことはご心配なさらないで」
……なんだろう、二人のやり取りが凄く自然に思えるんだか。
長年連れ添った夫婦みたいな。いや、戦友みたいな、よく分からんけど仲がよく見える。
最初はあんなにアホ王子に怯えてたのに、近頃は笑顔で躱すことができてるし、ラスボスのティナ様も話すと以外に話しやすいしこちらを理解する努力をしてくれる優しい人だ。
あぁ、なんか私、今すごく青春してる。
「リアさん! いかがなさいましたの?」
「エルリア嬢! 何故涙を流されるのか!? なにか気に障るようなことを言ってしまいましたか!?」
あんたは常に気に障ってるわアホ王子。
てか涙が止まんねー、ははっ、おかしいの!
ティナ様がアホ王子をどかして私の隣に座る。そして綺麗な刺繍が施されたハンカチで私の顔を優しく拭いてくれてる。
なんなのこの人、なんでこんなに優しいの? こんないい人が私をざまぁするなんて信じられない。
「泣くのは心のお掃除だと昔母に言われましたわ。リアさんはずっと何かを我慢なさってきたのですね」
そんなこと言いながら背中ポンポンしないでくれ。余計に涙が止まらなくなるじゃん!
「す、すみ、すみません……! すぐに、涙を止めますから!」
「無理に泣き止まなくても良いのですリアさん。全て綺麗に洗い流しましょう」
あぁーティナ様の制服が汚れちゃう。いい加減涙止まってくれよぉ……。
「癪ですが、ティナの言う通りですエルリア嬢。辛かったことも全部吐き出してください」
私の頭を慰めるように王子がポンッて手を置いたとき、私は無性に懐かしくて余計に泣いてしまったのだった。