これが世界の強制力か。
放課後、私は校長先生の前に立っていた。
校長先生はハリポタの校長先生とは真逆で、体のラインにビシッと合わせたスーツみたいなのを着ていて、顔はダンディーだけどやっぱり年齢不詳感ありありで、髪は見事な七三分けだった。
髪の色は黒髪に白髪が混ざっててダンディーさに拍車をかけてる。
「ふむ。コレが光の精霊か。確かに魔力から感じられるな」
声までダンディー!
同席してるイザベル先生は「でしょう」と嬉しげに言ってるけど、私の心は瀕死状態だ。
校長先生は机の引き出しから方位磁石みたいなものを取り出すと、私にそこに手をかざすように言った。
私は目的も分からず言われるがまま手をかざすと、コンパスがぐるぐると忙しなく回っている。な、なんぞこれ!
「やはりそうか。ではこれを握ってみなさい」
今度は小さな木箱から二つのガラス玉みたいなものを取り出した。片方は淡い白色、片方は淀んだ黒色。
これ、もうやる前から結果が見えてるんですけど校長先生……。
おずおずと二つの玉を同時に握ると、白色の玉が強烈に発光した。いてぇ! 目があああっ! 目があああああっ!
「よろしい」と言って校長先生は玉を引き取るとまた箱の中に入れた。
あぁ……目が潰れるかと思ったわ……。
「君にいくつか質問がある。良いかね?」
ダンディー校長先生がダンディーに尋ねてくる。
「は、はい」
「君は確か元々孤児院にいたそうだね」
「はい」
「小さい頃に怪我をしたときに、他の人より治りが早くはなかったかい?」
言われて私は記憶を掘り返す。
確かに転んでできた傷も三日もありゃあ治ってたな。
「はい」
「では今から言うことを実践してみてほしい」
校長先生はペーパーナイフを手に取ると、それを左の手のひらに走らせた。
当然、血が溢れ出て来る。
「ぎゃああっ! 校長先生! なにやってんですかー!」
「落ち着きなさい。この傷に手を当てて治るようにイメージしてごらん」
いやいや、そんなことより救護室で手当てしてもらったほうが、確実にいいと思うんですがぁ!
「さぁ! やってみるんだフェアウッド!」
煽らないでイザベル先生!
ぐぬぬぬっ! こうなりゃあヤケだチキショー!
校長先生の傷口に手を当てて私はひたすら祈った。
――傷口が塞がりますように、血が元通りに体に戻りますように、痛みがなくなりますように……!
「おぉ! 凄いぞフェアウッド!」
イザベル先生が感嘆の声を上げている。
私は恐る恐る目を開けて、校長先生の左手を見た。
さっきまでまっすぐにぱっくり割れてた傷口はどこにも無くて、ダラダラスプラッタ並に溢れ出てた血も綺麗に無くなってた。
頭の中がはてなマークで埋め尽くされる。
「君が治したんだ。私の傷口に血を戻して傷口を塞ぎ、痛みも取った。エルリア・フェアウッドくん、君は正しく聖女だ」
いやあああああああ!!
そんなの一ミリも求めてませんけどぉ!
私の唯一の希望だった「聖女ではない」を返してえええ!!
私はあまりの出来事にその場で失神してしまった。