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聖女になりかけてるとか冗談はよしてくれ。


 

 

 召喚術は複雑だ。四元素に基づいた精霊や召還獣を召喚する。

 どれだけ術式が完璧でも、精霊がやる気じゃなかったら、こちらの世界に来てくれない。

 ゲームでもリアルタイム制を取り入れてて、時間によって召還される精霊が違った。オマケに精霊に勝たないと術者と契約してくれないというヘビーさ。

 私はゲーム機の時間を操作して、何度この召喚術のミニゲームに挑んだことか……。

 術式を完璧にするだけでも難しいのに、毎度ランダムなQTEのせいで何度心を折られたことか。

 

 そんな鬼仕様の召喚術、それが今日の一限目の授業だ。

 

「ハーイ、みんな! 準備はしっかりしてきたかしら? 術式間違えると、とんでもないものを召喚しちゃうから気をつけてね! 今日は水の精霊を召喚してちょうだい! それじゃあ、始めて!」

 フランクに言うのはイザベル・モランテ先生。彼女はオリーブ色の健康的な肌に薄緑色のウェーブがかった腰までの長い髪、淡いベージュの瞳で快活そうなイメージを与える人だ。ちなみに典型的なボンキュッボン! である。

 

 私はノート広げて術式を今度こそマトモに書こうと四苦八苦していた。式の成り立ちなんて考えず、ひたすら教科書の術式通りに描いていく。空欄には来てほしい精霊の特徴を書き入れる。

 

 出来上がった術式は、教科書に載せても違和感ないレベル、私史上最高の出来栄えだった。

 だが本番はこれからだ。魔力を術式に転写し、精霊にこちらに来てくださいとひたすらお願いするのだ。

 これだけは賭けの要素が強すぎる。

 

 私は手をかざして、ひたすらお願いし続ける。

 ――水の精霊さん来てください。こちらの世界は良い世界です。どうかお越しください。

 

 魔力を込めて最早祈りの境地になっていると、術式が光った!

 よし! そのままお越しください!

 

 どんな精霊かとワクワクしながら待っていると、術式からズモモモッと何か細いもやしみたいなのが出てきた。

 お越しくださいー!

 全力の祈りに答えるように、ゆっくりその精霊は姿を表してきた。

 頭はつるんっとしていて頭頂部にモヤシみたいなのが一本生えてる、瞳は金色に輝いている。首は短めで胴体は赤ちゃんみたいにぽっちゃりしている。

 最後に足が……あれ、足じゃなくね? なんか幽霊の足みたいにクネクネしてんですけど……

 飛び出てきた精霊の背中には小さな羽が付いていた。なんだコイツは。

 ま、まぁ、とりあえず成功したって事でオーケーだよね?

 

 私は勢い良く右手をあげた。

 

「先生ー! 精霊が召喚できましたー!」

 

 久しぶりにドヤァとしていると、私の席に来た先生が首を捻ってる。え、失敗?

 

「フェアウッド。これは水の精霊ではないぞ」

 

 嘘だと言ってよバーニー。

 

「え、じゃあ何ですかこれ」

 

 先生は精霊に手をかざすと、目を瞑る。少しして、「おぉ!」と驚きの声を上げた。

 

「フェアウッド! 凄いそ君は! これは光の精霊だ! 滅多にお目にかかれる精霊ではないぞ!」

 

 教室がにわかにざわつく。私は困惑する。精霊は私の周りをパタパタ楽しげに飛んでいる。

 いや、なんでやねん。

 思わず突っ込んでしまった。

 

「先生、私ちゃんと水の精霊が来るように術式を書いたんですが」とノートを差し出すと、先生は半目になって術式を検分している。

 

「フェアウッド! 君は字が壊滅的に下手だな! これでは水の精霊ではなく光の精霊という意味になってしまってるぞ!」

 

 あはははっ、と豪快に笑われても私一ミリも笑えないんですけど!?

 

「君は魔力が特殊なようだな! ついでにこの精霊と契約してみるがいい! 失敗したら元の世界に戻るがな!」

 

 お、おう……やってみるか。

 

 精霊さん精霊さん、こちらの世界は楽しいですか? 良ければ私と契を交わしてください!

 

 一か八かで祈りを捧げると、「ニュッ!」と気の抜けた鳴き声を精霊が上げ、私の胸から光る紐を取り出した。

 

「先生ー! 私の中から精霊が光る紐みたいなの出してるんですけど、これ私死んだりしませんか大丈夫ですかどうなんですか先生ーー!!」

 

 私がパニクりまくってる間にも紐は出続けて、精霊が自分の胸に紐をヌルっと入れた。瞬間、精霊の声が聞こえた気がした。


『よろしくな! 人間!』

 

 元気いっぱいの少年の声が聞こえてビビりまくった。なんだ今のは!?

 

 精霊はパタパタ私の周りを相変わらず漂ってる。契約成功したって事でいいのか?

 

 その時先生が「おぉ!」と驚く。

 

「フェアウッド! 君の精霊が消えないということは、君の魔力の量が多いのと光の精霊との相性が非常に良いということだな!」

 

 そんなん言われましても……。

 私は漂ってる精霊をガシッと掴むと、嫌がる精霊の体を触ってみた。

 

 ――ムニュ。ムニュムニュ。

 

 あー……これアレだわ。なんだっけ、前世で百均とかで見たアレだ……あぁ! 思い出した!

 

「スクイーズだ!」

 

 試しに精霊の体を思い切り両手で引っ張ってみると、ムニューンと精霊の体がスクイーズみたいに伸びた。これ、ストレス発散にいいかもしれん。

 

「しかし光の精霊を召喚した生徒は私が知る限りでは100年ぶりくらいだぞ! フェアウッド、君は聖女の素質があるのかもしれんな!」

 

 ビキッ――私は先生の言葉に凍りついた。

 いやいやいや。たまたま光の精霊召喚できただけですやん。

 それだけで聖女の資格って先生、大げさな――

 

「フェアウッド! 放課後、校長室に来い! そこで校長先生に判断してもらう!」

 

 話がデカくなってるー! なんでだよ! 私が万が一聖女だったらザマァ死直行便に逆戻りじゃねーか!

 

 不安すぎて私は精霊を手の中でひたすらモミモミし続けた。なんか「ニュッニュッ!」って言ってるけど気にしてる余裕ないです……。

 

 

 

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