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一応、隣国の王子いたってよ。


 

 

 最近、夢ばっか見てる気がする。

 

「また黒木さんの夢見ちゃった……」

 

 のそり、と私はぼんやりした頭で起き上がる。

 ベッドから降りて身支度を始める。

 

 今日は何の授業だっけ……あぁ、召喚術だ一限目。

 こりゃダメだわ。

 

 私はノロノロと教科書とノートと筆記用具をカバンに入れた。

 

「リア! 早くしなさい! 朝食の時間が終わるわよ!」

 

「そうだよぉ! 朝食なくなっちゃうよぉ」

 

 ヴィッキーとコレットに急かされて、私たちは食堂に向かう。

 朝はグロッキーな私は今日は夢を見たせいでさらにグロッキー✕2になっていた。

 油断したら半目になって立ったまま寝れそうな私の脇をヴィッキーが容赦なく突いてくる。痛い……。

 

「あんたシャッキリしなさいよ! 今にも倒れそうな顔しないでちょうだい」

 

 顔くらい自由にさせてくれー……。

 

 何とかトレイに朝食を盛り付け、空いてる席に座る。

 コレットは限界までトレイに朝食を盛り付けてた。元気だねぇ。

 

 モッシャモッシャと食べてると、「あらぁ、リアさんではございませんこと!」とよく響く声で言われて私はダルンダルンな状態で顔を上げた。

 

「ご機嫌よう、リアさん。隣宜しいかしら?」

 

 口の中の物を思わず吹き出しそうになったのを何とか根性で止めた私は偉い。

 

「ヴヴヴァ、ヴァレンテイナ様!?」

 

 朝から妖艶美女は心臓に悪い! やめて! 私のライフはゼロよ!

 

「ティナとお呼びになってと申し上げたはずよ、リアさん」

 

 はっ! そういえば昨日そんなことを言ってた気がする!

 

「てぃ、ティナ様、どうしてこちらに?」

 

 食堂は全ての寮の生徒が利用するが、高位貴族はお抱えのシェフを学園に連れてきてる率が高い。

 ということで、ティナ様もその例に漏れず、なはずだったのになにゆえ!

 

「庶民の食事を口にするのも貴族の役目ですわ。同じ学び舎で切磋琢磨する同志ですもの」

 

 なんか微妙にディスられてる気がするが気にしたら終わりだ。私は壊れた機械のごとく、ただティナ様のお言葉に頷けば良いだけだ。

 

「ティナ! おまえ、またしてもここにやってくるとは! そうまでして私とエルリア嬢の仲を引き裂きたいのか!」

 

 出たー! アルヴィン馬鹿王子だー! やだー!

 

「ティナに何かされていないかエルリア嬢」

 

 むしろ何故ティナ様が何かすると思うのか。

 何故、もう既に私と付き合ってる前提の恋人面してるのか。

 妄想癖でもあるのかこのアホ王子は。

 

「何を仰っているのか分かりませんわ。ティナ様は私の大切なご学友です。それなのにティナ様が私に何をすると仰るのですか」

 

 朝からグロッキーな私はいつものテンションが上がらず、至極マトモな事しか言葉が出てこなかった。

 ティナ様はニコリと微笑み、アルヴィン馬鹿王子は愕然としている。

 ちなみにヴィッキーとコレットは黙々と朝食を食べている。完全に私を助けない気満々ですがな。

 

「では私も共に食事をしよう。ティナが良からぬことをしでかさぬように見張らなければならんからな 」

 

 もう、ここまでくると病院に行って診てもらった方がいいぞアホ王子。別の意味で心配になってきたわ。

 

 私は疲れきってたから無視してもしゃもしゃパンを食べ始めた。今日のパンは口中の水分持っていかれる。

 

「そういえば、昨日はあれからどうでしたか? せっかくのドレスを汚してしまって申し分けありませんでしたわ」

 

 アルヴィン馬鹿王子が瞬時に反応する。

 

「なに? エルリア嬢のドレスをわざと汚したのかティナ!」

 

 お前さー! もうマジでいい加減にしろや! んなこと一言も言ってねーだろうがよぉ! テメーの脳みそどうなってんだファッキュー!

 

「落ち着いてください、アルヴィン王子。昨日のお茶会でたまたま手がティーカップに当たって、カップが落ちたときに中の紅茶が溢れてドレスにかかってしまっただけですわ」

 

「どうせティナがわざとティーカップを落としたんだろ? なんと姑息な真似を!」

 

 いいから人の話をまともに聞けや!

 何で全部ティナ様が悪い方向に持って行きたがるんだよクソが!

 

「本当に違います! ティナ様は何もされてません! 話をお聞きになってください!」

 

「いいんだエルリア嬢。君が無理をしてティナを庇う必要はないんだ。君に惹かれてしまった私を見て、ティナは君を妬んでるんだ」

 

 だから人の話を聞けっつってんだろうが!

 こんなアホ王子がこの国の未来の国王とか、確実に国が滅びるの待ったなしじゃねーか!

 

「そ、そんなことはありませんわよね、ティナ様?」

 

 アルヴィン馬鹿王子を無視してパンを食べる姿は気品に溢れていた。パンのCMに起用されても違和感ないレベルだ。

 ティナ様はパンを飲み込み終えると、私の方を見た。


「アル様はリアさんの事となると、前が見えなくなってしまわれるの。面倒かもしれませんが、時折相手をしてくださいませ。そうすればアル様も満足なさるでしょう」

 

 まさかの放棄! 婚約者なのにアホ王子ついに見放されてしもとるがな!

 おいこれやべーぞ! ザマァ死コースが急加速し始めてんぞ!

 

 いやしかし待て! 隣国の王子とティナ様はハッピーエンドになるはずだよね?


 隣国の王子どこ!?

 

 いねーよ! 見たことも聞いたこともねーよ!

 この際だから探りを入れるしかねぇ!

 

「あのティナ様、少しお聞きしたいことがありますの」

 

「聞きたいことがあるなら私に聞けばいいエルリア嬢」

 

 お前いい加減しばき倒すぞ!

 私はアホ王子を無視してティナ様を見つめた。

 

「どんなことかしら?」

 

 ティナ様が優雅に聞き返す。

 

「話ならわたングッ!」

 

 パンをアホ王子の口にアーンしてあげた隙に私は尋ねた。

 

「この学園に隣国の王子はおられるのですか? 私は下級貴族故にそういう話に疎くて……」

 

 恥じらいながら聞いてみる。女でも可愛い女の子には弱いんだってアタイ前世の新宿で知り尽くしてんだからね!


 ティナ様が両手を合わせて顎に添える。


「そうですわね、お一人だけおられますわ」


 い た の か よ !


「どの寮におられるのですか?」


 ティナ様がニッコリ微笑みながら言った。


「アクイラ寮ですわ」


 アクイラ寮……あんま印象にねーな。


「エシュカーラからお越しになられたはずですわ。ねぇ、アル様?」


 思いきり噎せまくってるアホ王子が水を飲み干して何とか言葉を発した。


「あぁ、その通りだ。エシュカーラは我が王国と長年の同盟関係にあるからな。だがろくな奴ではないぞ」


 なにカッコつけてんだアホ王子が。お前まだ王子なんだから我が王国とかぬかすんじゃねぇ!


 そこでだ。私は改めて考えに耽る。隣国の王子はいる。主人公のティナ様もいる。アホ王子もいる。私もいる、が今のところ聖女じゃない。


 こ、これは勝つる!

 読者の皆んなー! 私は一発逆転ホームラン狙えるかもしれませーん!


 いいよ!いいよ! 私さえ聖女にならなけりゃあザマァ死から逃れられるはずだ!



 

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