聖女にさえならなければいいんですよ。
寮に帰ってきた私を見たヴィッキーとコレットは唖然としていた。
「何それ! あんたどうしたのよ!」
「せっかくの綺麗なドレスが汚れちゃってるぅ」
疲労困憊の私は手身近に説明した。
「じゃあわざと紅茶をかけられた訳じゃないのね?」
「むしろあの場でどうすればわざと紅茶をぶっかけられるのさ」
コレットにドレスを脱がせて貰いながら私は言う。
「しかしあんたにしては上出来だったんじゃない? あのヴァレンテイナ様のお友だちになれたわけだし。良かったじゃない」
「よかねぇよ! 明日から私はアホ王子とラスボスの二重苦が待ち受けてんだぞ!」
コルセットを脱ぎ終えて、ようやくまともに呼吸できた。
「あんたいっつもヴァレンテイナ様に殺されるって言ってるけど、なんで? 今まで冗談で言ってたんだと思ってたけど、違うみたいだし」
「今更かよ! てか冗談だと思ってたの? どんだけ私の信頼度低いんだよ!」
下着だけになった私はヴィッキーに猛抗議する。
「あんた、大体いつもバカばっかしてるから、何言ってもイマイチ信用していいか分からないのよね」
「私もぉ、冗談だと思ってたぁ」
「おいおい……友だちが私を全く信用してなかった件について」
ガクリと肩を落とす。毎日清く正しく美しく生きてる私の何を見たらそんなことが思えるんだかね!
普段着を着ながら私はふてくされた。
「だってあんた自分のこと聖女だって最初の頃言ってたじゃない。アレは中々言えるもんじゃないわよ」
ヴィッキーの言葉に私はハッと我に返る。
「そ、そうだった! ラスボスから逃れるのに必死で自分が将来聖女になる運命だって忘れてたわ……」
本当に今更すぎて笑える。ゲームタイトルにも聖女って書いてあるのに。
「聖女ってぇ、何十年だか何百年だかに一度現れるかどうかの凄い人なんだよねぇ、確かぁ」
私は腕組みして目を瞑る。
ゲームの中の聖女はどんなんだったか必死に思い出そうとした。
強制イベント以外はスキップしてたから分からんが、確か王国に忍び寄る悪しき存在を皆で退治するとかだったはず。
パーティーメンバーは入れ替え可能で、私はタンク役と尖兵にリオン寮から二人、ヒーラー兼屍人対策でオルカ寮から私一人、トリッキーで相手を撹乱するのが上手いヤツをアクイラ寮から一人、魔法に特化してるのをセルペンス寮から一人選んでた。五人が上限だったから、攻略法的にも鉄板のメンバーだった。
ヒーラー兼屍人対策の聖女は後方支援だったよな、確か。死なれたら困るから常にヒールかけさせてた記憶が。
ふむ。しかし他のメンバーの名前が思い出せん。基本的にキャバ嬢として仕事してる以外は、人の名前を覚えるのが苦手だったんよね。
勝ったら意気揚々と凱旋。そこでどうやったら聖女からギロチンに転落するのか謎すぎるんだが……。
「ヤバイわ私。聖女としての魔法やら何やら、何一つ行動してないんだが」
「そりゃあ、あんたが聖女じゃないからでしょ」
ヴィッキーが冷ややかに言い放つ。
「だから! マジで私は聖女になるんだって!」
「じゃあ具体的に聖女になる方法を言いなさいよ」
「ぐぬぬぬっ! 痛いところ突いてきやがって!」
ヴィッキーは鼻で笑い飛ばした。
きいいいいいっ! 悔しい! ビクンビクン!
「と、図書館に行って調べる」
「あんた本読んだら一分で夢の世界に旅立つじゃない」
「じゃあ、聖女について知ってる人に聖女のなり方教えてもらう」
「で、具体的に誰よ」
詰められた私は発狂する。
「もおおおおっ! そういうことばっか言う大人が育ち盛りの子供の可能性の芽を摘むんだよ! ヴィッキーのバカー! コレットお! ヴィッキーが私をイジメるよー! うえーん!」
コレットのマシュマロパイに突撃して、私は泣きつく。
「あのねぇ、私はあんたの為を思って言ってんの。この学園に死ぬまで居られる訳じゃないのよ? 今のうちからしっかり将来を考えておかないと、痛い目見るのはあんたなんだからね?」
ぐぬぅ! 正論すぎてぐぅの音もでぬわ!
いや、待てよ?
「そうだ。聖女にならなけりゃあいいんだよ! そうすりゃあラスボスからのざまぁをされる心配がなくなる!」
なぜ私はもっと早くにこの事実に気が付かなかったのか。そうじゃん! この方法ならイケるじゃん!
「そもそも聖女になんて簡単になれないけどね」
「私は明日から一層慎ましやかに生きていく事を誓います! そんでラスボスからの信頼を勝ち取ってザマァ死から生き延びるんだー!」
わーいわーい! なんだ簡単じゃーん!
――そう思っていたこの時の私をしばき倒したいと思うのは、また後の話である。




