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笑顔は女の武器ですよ。


 

 

 あぁ……まただ。

 最近よく黒木さんの夢を見る。

 背が高くて広い背中、目つきがめっちゃ悪くてヘビースモーカー。

 街の騒音が嫌いでいつもイヤホン付けて音楽聴いてる。

 ヤクザらしく暴力に躊躇いがなくて、いつもどこかに返り血が付いてる。


「あぁ……黒木さんと話したいなぁ……」


 布団の中に潜り込んで胎児のように丸くなる。あの広くて大きな背中を見たい。バカみたいにしょうもない話がしたい。

 時折、息が詰まりそうになる。


 じっとしてても彼に会えるわけもなく、私はノロノロとベッドから這い出して今日の憂鬱なイベントへ思いを馳せた。


 ――ヴァレンテイナ様のお茶会の日。

 逃げ出したくなるけど、逃げたら事態はもっと悪化するに違いない。


 私は両頬を叩いて気合を入れる。


「しゃおらぁっ!」


 ふんす、と鼻を鳴らして憂鬱さを吹き飛ばす。


「コレット! ヴィッキー! ドレス着るの手伝って!」


 まだベッドの中にいる二人に話しかける。


「はぁ? 今何時だと思ってんのよ……」


 ヴィッキーが文句を言う。


「まだ眠いよぉリアちゃん……」


 コレットが眠さ爆発な声音で言ってる。


「私はドレスなんて着なれてないから二人の協力がないと無理なの! 分かってくれたら早く起きてちょうだい!」


 私の大声に二人がフラフラとゾンビみたいにベッドから這い出てきた。


「まずはドレスが先で、次は髪のセット、最後が化粧だよ!」


 クローゼットからドレスを取り出す。


 Aラインのそのドレスは改めて見ると、私に似合うと確信した。

 私の顔面偏差値は高い。めっちゃ高い。

 何せゲームしてた時と変わらんレベルで可愛いのだ。前世の記憶思い出した時に鏡を見て「2,5次元……」と呟いたほどには可愛い。深い緑色の瞳はエメラルドの様に輝くし、頬は薄く桃色に色づいてる天然のチーク、顔のどのパーツも完璧な場所に収まってるし、髪はゆるくウェーブがかかっていて薄桃色で陽の光に当たるとうっすら金色に見えたりする。


 要は完全無欠の美少女だってことだよ!

 どうだ!? 羨ましいか! だったら変わってくれ!


 私はヴィッキーたちに手伝って貰いながら、四苦八苦しながらドレスを着ていく。前世のキャバ嬢ドレスとは違い、本格的なドレスなんて着なれてない。コレットの怪力でコルセットを締め上げられた時は酸欠で意識が遠退いた。お願いだから力加減を覚えてコレット!


 ゼェハァ言いながらドレスを何とか着れた私たちは謎の達成感に包まれた。


 だが喜ぶのはまだ早い。ヘアセットとメイクが残ってる。


 部屋に一つだけある鏡台の前に座らされ、私はまずは乱れた髪を梳かす作業にかかった。


「あんた、本当に不思議な髪色してるわよね。それにサラサラなのにふわふわしてる」


 ヴィッキーがブラシで私の髪を梳かしながら感心したように言う。


 私は言いたくて口がムズムズした。

 ゲームのメインキャラだから美少女だし髪も完璧なんですよぉ! と。言えないけどな!


「とっても綺麗な髪だよねぇ。私の農作業で傷んだ髪とは大違いだよぉ」


 ブラシを手に自分の髪を残念そうに弄るコレットに「女の良さは髪なんかで決まんないから気にすんな!」と謎の励ましを送っておく。


 手先が器用なヴィッキーはサイドの髪を三つ編みにして頭に巻きつけていく。そして残りの後ろ髪にヘアオイルをなじませてアップにしてまとめあげる。

 こ、これが世にいうクラウンブレイドってやつか! すげぇ! 華やかでありながら清楚さも兼ね備えてる完璧なヘアスタイルじゃん!


「すげー……王冠被ってるみたい」


「でしょ? 私にかかればこんなの朝飯前よ! さ、次は化粧だけど……」


 鏡台の引き出しを開けてメイク用品と道具をヴィッキーが次々に取り出していく。


「え、ここに化粧品が入ってたなんて知らなかったんですけどヴィッキー様」


「女はいつでも綺麗にしといて損はないのよ。いつどこで商談になるか分からないからね。化粧は女の武器よ」


 まるで前世のキャバ嬢たちみたいなこと言ってるよ。お前さん、生きる世界線が違ったら銀座のナンバーワンホステスになってた器だぜ!


「とはいえ、あんたの顔は元がほぼ完璧だから、弄りすぎると厚化粧になるから注意しないとね」


 最早ヴィッキーの独壇場に、私とコレットはポケーっと見るしかなかった。


「幼さを薄める為にアイラインを少しだけ跳ね上げるの。そしてハイライトを頬と鼻筋に少しだけ塗る。仕上げはリップだけどあんたは元の唇の血色がいいから、輪郭だけ強調したらぼかして……完成よ!」


 ドヤァ! とするヴィッキーに私とコレットはただただ、驚くだけだ。


「ヴィッキー様、ありがとうございます〜! マジで助かるぅ!」


 そこにヴィッキーから鋭い注意が入る。


「それ! そのバカっぽい口癖直しなさい! お茶会でいつもの調子で喋ったら絶対に駄目よ! 分かってる!?」


「へ、へい、分かりやした」


「言葉選び!」


「はい、分かりましたわヴィッキーさん」


 ニコリと清楚さを意識して微笑むと、ヴィッキーとコレットが固まり、次の瞬間には歓声を上げる。


「やればできるじゃないのあんた!」


「わぁ、いつものリアちゃんじゃないみたいだぁ」


 おいおい、元キャバ嬢を舐めんじゃないよ。

 どんな客相手でも笑顔で接客してきた、手練手管を舐めんじゃないぜ!


 私はドレスの裾の捌き方に気をつけると、立ち上がって二人に改めて向き直る。


「こんなにしていただいて、心より感謝を申し上げますわ。ありがとう、二人とも」


「ぷっ!」


 あははははっ、と二人は笑う。なんだよー! 淑やかにしろっていったのそっちじゃんかー!


 ぷんすか(古のぶりっ子)しながら私は二人に抱きついた。


 あぁ、友だちがいるって、こんなに楽しかったんだ!


 

 

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