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転生者です。よろしくこんにちは。

情緒が安定しない主人公に是非お付き合いくださいませ。




『エルリア嬢へ


 この想いを言葉にするたび、私は王太子という鎧を脱ぎ捨て、ただの一人の男になります。


 貴女を初めて見たあの日から、私の世界は変わりました。

 声も、仕草も、沈黙さえも、貴女のすべてが私の心を捉えて離しません。


 身分の差など、私には意味を成しません。

 どうか、この手紙が不躾でないことを願います。

 もし、私の気持ちにほんの少しでも応えてくださるのなら、次にお会いする時、どうかその瞳で、微笑んでください。


 それが、私にとって何よりの光となるのです。


 アルヴィン・ヴァン・ブレイズ』

 

 

 

 私はその手紙を何度も何度も、そりゃあ穴が開くんじゃないかってほどに読み返した。

 特に差出人の名前の部分だ。

 

 ――アルヴィン・ヴァン・ブレイズ

 

 この国の王太子の名前だ。いや、もしかすると同姓同名のアルヴィンさんがいるのかもしれない。

 そうだ。きっとそうだ。ていうかそうであってくれ!

 私は手の中の手紙を思わず握りしめてしまった。クシャッと呪詛が綴られた手紙――違った、情熱的すぎるラブレターが歪に形を変える。

 慌てて机に置いて私は手紙を何度も手でまっすぐになる様にと擦った。

 もしこんな状態の手紙を当の本人に見られでもしたら、私の頭は間違いなく体からおさらばするに違いない。


 私はまだ死にたくない。


 そう、死にたくないのだ。だがしかしである。

 もうタイトル読んだ人は分かるよね。うん、そうなんだ、今流行りのザマァ系なんだ、うん。


 あ、待って! このページを閉じる前に私の身の上話というか、この世界観を聞いていかないか!?


 ふぅ、思わず興奮してしまった。

 どこから話そうか。そうだな、先ずはこの世界について話そうじゃないか。

 この世界はいわゆるゲームの世界なんだ。剣と魔法の世界。そして私はお決まりの転生者で聖女だ。今のところ聖女らしいことなんもしてないけど。

 ゲームではザマァされる聖女だ。

 ちなみにゲームのタイトルは「悪役令嬢の恋〜勘違い聖女をザマァしよう! 〜」である。


 ……どうして誰も止めてやれなかったのか。サブタイトルがこんなあからさまにバカっぽいのに何故ゴーサインが出たのか。


 そのバカっぽいタイトルの聖女は私です、こんにちはこんばんは。


 って馬鹿野郎! 認められるかこんな世界! 前世の記憶を取り戻したときの絶望たるや! 若くして死ぬと決まってる人生を喜んで受け入れる馬鹿がどこにいるってんだチクショー!


 あ、いけね、ちょっと泣けてきた。

 それでだ、私の名前はエルリア・フェアウッドと申します是非覚えてほしい。覚えにくければリアで覚えてね。


 この国の名前はマギアナ、そして魔法使いの才能がある者だけが行ける学園がエルデリア魔法学園である。

 そこでは皆んな寮生活を送る。

 寮はリオン寮、アクイラ寮、オルカ寮、セルペンス寮の四つに別れている。私はオルカ寮に属してる。

 某ハリポタみたいに組分け帽子なんてなかったよ。普通に魔力測定と属性と面談で決まったよ。現実なんてそんなもんさ。

さっきの呪いの手紙の主、ブレイズ王子はリオン寮だ。ありがたや〜ありがたや〜!


 ちなみに私は男爵令嬢である。よくある養子だ。商人の家で父は爵位を金で得たが、父の名誉のために言わせてもらうが、父はバカがつくくらいの善人である。爵位があると慈善事業を手広くやりやすいってだけで爵位を手に入れたくらい良い人すぎる父である。母も父に負けず劣らず善人だ。


 だから「娘を使って王族に取り入るぜゲヘヘ」なんて多分父は思いつきすらしないだろう。

 父は純粋に娘に魔法使いとして良い教育を受けさせたかっただけである。


 しかし私は断固拒否した。魔法学園に行く=ザマァ死、だからだ。


 あらゆる方法で私は父の遺志を翻そうと頑張った。時に不治の病を装い(健康優良児そのものだったせいで医師にすぐ見破られた)、時に両親の元を離れる悲しさを訴えて幾日も私室で涙にくれたり(メイドが嘘泣きだと両親にチクった)、時に屋敷から逃亡したり(領地に住む心優しき農夫が私が迷子だと勘違いして家に送り返された)etc.


 何をやっても魔法学園コースからは逃れられなかった。泣いていいっすか自分。


 これがいわゆる世界の強制力ってやつかと私は荷造りが終わった後に諦めの境地で窓辺でたそがれてた。見かけだけはめちゃくちゃ美少女だから絵になってたはず。


 出発の日。ドナドナを歌いながら魔法学園に向かった。売られていく子牛の気持ちがよく分かった。


 そしてゲームの舞台であるエルデリア魔法学園にたどり着いた時、私はドナドナしてる場合じゃねぇ! と当初の意気込みを思い出す。


 ゲームの中では王太子が聖女に一目惚れして、婚約者の公爵令嬢を蔑ろにして、最後は二人揃ってザマァされる。


 そう、この浮かれポンチな手紙の主も私と運命共同体。――と言いたいところだが、腐っても王族、塔に幽閉されて生涯を終えるルートだ。ずるい!


 公爵令嬢は隣国の王子様に見初められて嫁いでいってハッピーエンド。


 ……って何がハッピーエンドだゴルァ! 人が一人死んでんねんぞ! 公爵令嬢も大概じゃねーか!


 そんなゲームに何故私はハマってたのか。それはね、私がゲーマーだからだよ!


 ストーリーはクソだけどミニゲームがめちゃくちゃ作り込まれてて、アホほどハマったんだよね。


 据え置き型ではなくてポータブルでのリリースだったから、私は仕事の合間にこっそりひっそりとゲームをプレイしまくってた。グラフィックにも力が入ってて、2.5次元とか言われてた。3Dなのに2.5次元とはこれいかに。


 ただね、問題はミニゲームがあまりにも難しすぎて脱落者が続出したわけよ。


 某掲示板でもストーリーはクソだけどミニゲームはガチで楽しい、とか書かれてた。ただガチすぎてクリアできない脱落者たちがミニゲームもクソとか喚いてたけどね。


 私はガチ勢だったから、攻略方法を自力で見出し、何周もやりこんだ。メッチャ楽しかった。ストーリーは全部スキップ機能でスキップしてたけど。


 乙女ゲーをプレイしない私がどハマりしたこのゲーム。せめて私が公爵令嬢だったなら、どれだけ良かったことか……。


 私は魔法学園に入学したばかりで、王太子とも会ってない。ただし一年生代表で王太子がスピーチしてたけど、あれは会ったことにはならないよね? ね?


 なのにだ! 私はなるべく目立たないようにコソコソしてたのに、どうしてか! そう、どうしてか王太子から目をつけられてしまったのだ!


 その証拠がこの手紙という名のザマァ死への招待状だ。

 どうすりゃいいの? ねぇ、どうすりゃいいのかみんな教えてクレメンス。

 ドンッと机に突っ伏した。

 

「ちょっとうるさい! あんたいつまで起きてるのよ! 早く寝なさいよ!」

 

 私の隣のベッドから苦情申し立てがきた。

 彼女はヴィットリア・ロッセティ。しっかりもののお姉さんって感じだ。

 私は謝りつつ手紙を机の引き出しに封印した。成仏してくださいお願いします。

 ナムナムと両手を合わせて祈り終えたら、私はいそいそとベッドの中に潜り込んだ。


 天井を見ながら私は考えに耽った。

 ザマァ死から逃れる術を。

 

 

 

ストックが常に枯渇してます。すみません_|\○_

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