第3話 例のニュース
「奏多様!わっちを一晩、ここにおいてはくれませぬか!!」
「え..........」
(えぇーーーーーー!?)
◇◇◇
——————3時間後。
「な、なる....ほど‥‥‥そんなことが......」
お仙を暁堂に泊めることにした俺は、それから3時間ほどかけてお仙の話を聞き出した。何でこんなに時間がかかったのかというと、江戸時代と現代では日本語の表現や発音が違いすぎて、まるで外国語なのだ。時代劇とかでイメージされるようなの喋り方とは全くの別物すぎて、お互い話し疲れてしまった。
ついでに俺自身の素性も話して、ある程度はお仙に理解してもらえたと思う。さすがに暁堂が危機的状況にあることは言えなかったが‥‥。
ちなみに俺がお仙から聞き出せた情報は以下だ。↓
<身分>
・名前:お仙
・年齢:20歳
・水茶屋で働いている。(カフェ的な感じか?)
・場所は谷中(おそらくこの近く?)
<その他>
①茶屋で仕事を終えた帰り、刀を持った男性数人に襲われた。
②そのとき鶴姉という親しい女性と一緒にいたが、生死不明。
③足の怪我はそのとき負ったもの。
④男たちから逃げている途中で気がついたらここ(現代)にいた
⑤そして最後に聞いた情報が特に不可解で仕方がなかった↓↓↓
「し....しかし奏多様、その黒鏡....えれえ不思議な使いようがあるんでごぜえますな。わっちも江戸でこれを手に取って目にしたけど、こんな器用には操れんかった故、ひょっとして奏多様は妖術使いなんでごぜえましょうか?」
「え、妖術....?」
———そう、それはお仙がこのスマホ(黒鏡?)を江戸で実際に手に取ったことがあるということだ。
つまりはお仙とは逆に、現代から江戸時代にタイムリップしている人間が存在するということではないだろうか?
「ちょ....ちょっと待ってくれお仙、これを一体どこで見たんだ?」
「そ、それが....元の持ち主はどうしても思い出せねえんでごぜえます。」
「元の持ち主は思い出せない......? 別の人から見せてもらったのか?」
「あい......店の馴染みのお客さんが黒鏡を受け取ったってえ話で、そしたらそのお客さんがわっちに預かってくれって頼みこんで....そしたらそん日の夜、こっちに来ちまって....。だからこの黒鏡が何なのか、ここがいずこなのか、知りてえんでごぜえます!」
残念ながら肝心な部分の記憶が抜け落ちているようだったが、要するにお仙は何者かが持っていたスマホを知り合いづてに預かったということらしい。
「うーん....」
このスマホのことを説明する前に、まずはお仙にここがどこ———いつの時代なのか理解してもらう必要がありそうだ。
「お仙、少し難しいかもしれないけど、まずここがどこか教えるね。」
「え、ええ‥‥教えてくだせえまし!」
ただ一つ問題なのが、江戸時代の人にタイムスリップの概念が伝わるのかということだ。なぜならこの手の話は、最近の時代になって映画や小説によって世の中に浸透したファンタジーみたいなものだからだ。
俺はダメ元で、その辺にあるものを使って丁寧に説明してみることにした。
「———つまり......ここはお仙のいたところより、ずっと‥‥ずっとあとの時代で、260年の時が流れた江戸なんだ‥‥!」
俺が説明をしている間、お仙はうんうんと頷いていたが、次第に反応が薄くなり、話終わる頃にはポカンとして黙り込んでしまった。
「‥‥‥」
「お仙......?」
「ま、まあ難しかったかな? 今は理解しなくても、そのうちわかる......」
「!!!」
しかしお仙は理解していたのだ。
お仙はその綺麗な瞳から静かに涙を流しはじめた。
「え、ごめん‥‥!どした?そ、そんなつもりじゃ!ティッシュティッシュ!」
「ご、ごめんなされ‥‥ご無礼を いいんでごぜえます」
お仙は突然涙を流したことを申し訳なさそうに謝ってきた。そして、俺に聞いてきた。
「奏多様、それはつまるとこ、ここ‥‥こん場所が、わっちの知ってえ江戸から、ずーっと時の過ぎた世で、その‥‥」
「わっちが愛いとしき人らは、もうこの世にいねえ——そういうことにごぜえましょう?」
「お、お仙.....わかったの....か?」
今の説明だけで、未来へタイムスリップをしてしまったことを理解するなんて、江戸時代の人だとか関係なく、お仙は俺が思っているよりスッと賢い女性なのかもしれない。
「うう‥‥おとっちゃん‥‥鶴姉‥‥みんな ああ‥‥ごめんね‥‥ごめんね」
お仙は声を出して泣き出してしまった。言ってしまえばこれは浦島太郎のような状態だ。そんな状況に陥ったら誰だって取り乱すだろう。これはSF映画のシナリオでも何でもない現実だ。タイムスリップしたら元の時代に戻れる確証なんてどこにもないし、俺にどうにかできる話ではない———そう思ったが‥‥‥。
俺はあの言葉を思い出す。
『暁堂を誰かの人生の助けや転機になる場所にしなさい』
———死んだ親父の言葉だ。やっぱりこれは親父が、暁堂をこんな状況にしてしまった俺へ与えた試練なのかもしれない。
(何か方法はないのか‥‥‥‥!)
そう思ったそのとき———
今起きているこの状況とどうしても無関係に思えない情報があることを思い出した。それは———
あのニュースだ....!
SNSを開くと、早速あのニュースの続報が目に入って来た。数時間前、お仙と遭遇する直前に見ていた、オーパーツのニュースだ。
俺は記事を開いてみた。
◆Yah◯!ニュース◆
【速報】
台東区の寺院で発見されたiPh◯ne、本物と判明。
本日4日の朝に発表されたこちらのニュース。
さまざま議論がされる中、報道直後は『偽造工作』『フェイクニュース』などと、批判的な声も多かったが、今日22時ごろ、日本大学の研究チームの再調査により、『経年劣化の状態から少なくとも150年以上前のものである』と結論づけられた。
つまりこのiPh◯neは、世界で初めて公に"完全なるオーパーツ"として証明されたことになる。
この発表は世界で報道される予定で、歴史に残る大ニュースとなることが予想される。
◆◆
(や、やっぱり本当だったのか‥‥!)
現実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。
お仙は確かに江戸でスマホを見たと言った。そしてそれを持っていた人間が存在した。このニュースとの関連性を調べることによって、お仙が江戸に戻る方法は、見つけられるかもしれない。
「お仙!!」
「‥‥?」
「大丈夫だ! 俺が‥‥俺が何とかしてやるから!」
「奏多様‥‥誠にどうにかなるんでごぜえましょうか?」
「時間はかかるかもしれないけど、お仙の大切な人にもきっと生きてるし会わしてやるから‥‥だから、泣かないで!」
俺は勢いでお仙の肩をつかんでカッコつけたことを言ってしまった。———しかし....
ガバッ
「うおっと!?」
「ありがとうごぜえます ありがとうごぜえます‥‥このご恩はいつか必ずけえします‥‥!」
お仙は俯いていた顔を上げて、勢いよく俺に抱きついてお礼を言ってきた。
「お仙‥‥」
気がつくと時計は24時を指していた。先のことはこれから考えるとして、お仙をお風呂に入れてあげることにした。
俺は店の奥にある浴室の使い方を教えてあげた。お仙にとっては、水道もシャワーも浴室にある道具全てが生まれて初めて見るものなので、驚きの連続だったのは言うまでもない。
初めて知ったことだが、当時の女性は男の前で髪を解くのにかなり抵抗があるらしい。
お仙もはじめは躊躇っていたが、髪を洗いたくて仕方がなかったらしく————
「か、髪を解くので見ねえでくだせえ」
——と恥ずかしそうに言って浴室前のドアをピシャッと閉められた。
(気が回らなかった....!)
それからしばらくしてお仙が浴室から出てきた。
「......!」
長い髪をタオルでぐるぐる巻きにして男物のグレーの浴衣を着た姿はあまりにも妖艶で、俺はつい見惚れてしまった。
(いやいやいや....可愛すぎるだろ....!)
「あの‥‥わっち、何か変でごぜえしょうか?」
「あっいや‥‥!何でもない 湯加減はどうだった?」
「あい、とっても こんな気持ちのいい湯は初めてごぜえした」
「そ‥‥それなら良かったよ! 風邪ひかないように、髪乾かそうか」
◇
「け.....!?か、風が!!奏多様‥‥やはり妖術が使えるんで!?」
「妖術って....ドライヤーだよw」
髪を下ろした姿を見せたがらないお仙を説得したあと、ドライヤーで髪を乾かしてあげた。もちろん家電を見るのも初めてなので、完全に妖術か何かと思い込んでいた。
(なんかこういうの彼女感あっていいな....)
最後に歯磨きを一緒にしたのだが、お仙の時代にも歯ブラシや歯磨き粉的なものがあるのを初めて知った。調べてみると江戸では専門の店もあるそうで、楊枝屋ようじやというらしい。
「ようけ磨けるでごぜえますなあ。 お藤ちゃんに見せてやりてえ。」
「お藤ちゃん....?誰....?」
歯磨きも終わり、ようやく寝ることができる。時計は2時10分を指していた。
明日は暁堂の定休日なので、朝に軽く仕込み作業をした後に、お仙が元の時代に帰れる手がかりを探すことにした。
「さあ、もう遅いから寝よう。お仙はこっちの部屋を使っていいよ。俺は向こうの部屋で寝てるから。」
俺は客間に布団を広げてお仙を案内した。
「これが電気‥‥灯りで、こうすると消えるから。火じゃないから消さなくて大丈夫」
「へえ、何と便利な!これも奏多様の妖術でごぜえましょう?ありがとうごぜえます。」
正座をしながらうんうんと頷いて話を聞いてくれるお仙が無邪気で可愛すぎるし、俺を完全に妖術使いだと思い込んでいる。これは後で訂正しなければ。
「——他に何かわからないことはある? 俺は隣の部屋にいるから何かあったら‥‥」
「いえ、ありがとうごぜえます。」
「よかった!そしたらおやすみ」
「けれどひとつ‥‥」
「!?」
お仙は正座をしながら俺の手を掴む。
「ど、どうしたの?」
「そ、その‥‥てえへん厚かましいお頼みにごぜえますが」
部屋を出ようと立ち上がりかけていた俺は、お仙に手を引っ張られた勢いで、向かい側にぺたんと正座させられる。
「ええと....」
「わっちは大事な友と逸はぐれ、遠い旅をしてしめえました それで‥‥どうにも心穏やかならぬ思いにごぜえますゆえ、今宵は‥‥」
ゴクリ‥‥
「今宵はわっちの横にいてくださらねえか?」
(え‥‥‥?)
工藤奏多27歳、潰れかけのカフェ店長。
俺は今日、江戸時代からきた謎の美女"お仙"と出会い————
一夜を共にすることになった。
ここまで読んでくださりありがとうございます!!
お仙と一緒に寝ることになってしまった奏多。
奏多は誘惑に負けてしまうのか...!?
次回の展開もお楽しみくださいませ!
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