第1話 着物姿の美女
「もうこの店はダメかもしれない‥‥‥」
「このまま潰れるのか......?」
俺の名前は工藤奏多 27歳。
死んだ親父の経営していた古民家風カフェ——"暁堂"を3年前に継いでこれまで頑張ってきたのだが、両親が生きていたころの活気はなく、客足は減り、倒産まであと数ヶ月持つかどうかまで追い込まれていた。
若くて経験の少ない俺が不甲斐ないせいもあるだろうが、大きな原因は別にある。
◆Go◯gleマップ 口コミ◆
★☆☆☆☆ 2ヶ月前
なんか色々残念。二度と行かない
★★☆☆☆ 4ヶ月前
うーん、雰囲気は好きなのですが
店員の態度が無愛想というか 残念でした
★☆☆☆☆ 3ヶ月前
飲み物に髪の毛が入ってた。
衛生面疑ってしまいます
★☆☆☆☆ 2ヶ月前
注文してから出るまで30分もかかる
★★☆☆☆ 1年前
谷中の観光ついでに来たけど
チェーン店の方がいい
★★★★★ 2年前
とってもおいしかったです 古民家風の雰囲気が好き
★★★★☆ 2年前
家族連れできました 落ち着きます
◆◆
「クソっ‥‥‥!!」
大体1〜2年前くらいからだろうか?それ以前はむしろ良い口コミが多かったのだが、徐々に低評価の口コミが増えてきたように思える。
俺は一度だって接客に手を抜いたことはないし、親父の築き上げてきたものを守ってきたつもりだ。じゃあなぜGo◯gleマップにこんな酷い口コミが書かれているのか?
———そう、この口コミは嫌がらせで意図的につけられたものだった。
黒幕はもちろん知っている。あの会社以外ありえない。
"松葉屋グループ"———飲食店や複合施設などを展開する江戸時代からの老舗企業で、ここ最近特に事業拡大を促進している会社だ。この松葉屋グループからの圧力と嫌がらせを受けていることで、俺の店は潰れる直前まで追い込まれているのだった。
松葉屋グループの現オーナーは、松葉春香 25歳だ。
先代のオーナー(彼女の実の父親)から、幼少期より経営ノウハウを叩き込まれたやり手女社長———とでも言えば分かりやすいだろう。
見た目は誰もが認めるであろう美貌の持ち主で信者も多いが、性格はキツく、事業拡大のためなら他人を蹴落としてでも結果を出す系の恐ろしい女だ。
ではどうして暁堂のような小さな店が嫌がらせを受けているのか?
———考えられる理由は2つ。
【1つ目】
俺の死んだ父親と、松葉屋の先代オーナー(松葉春香の父)との因縁だ。
詳しくは知らないが、2人が若い頃に互いに事業協力をしていたそうだが、あることが原因で揉めて恨まれてるらしい。
【2つ目】
1年半ほど前、暁堂がある台東区谷中の近辺に、松葉屋グループが新しく事業展開をするにあたって、オーナーである松葉春香が視察のついでにうちの店——暁堂に来店したのだが‥‥‥
1年半前——
◇
ガシャン!
「た、大変申し訳ございません!」
「キャッ!!」
その時に俺は誤って松葉春香の服の上に熱いコーヒーをこぼしてしまったのだ。彼女の高いであろう服にはシミができ、火傷をさせてしまった。
俺は謝罪して対応したが、俺の対応に不満があったらしく、その時彼女は鋭く睨みつけながらこう言った。
「あなた誰に何をしたかわかってるの?‥‥覚えときなさい。」
プライドだけは高いのか、お釣りはいらないとお金を置いていきそのまま帰った。
◇
それからというもの、Go◯gleの口コミに留まらず、SNSなどのメディアで遠回しに暁堂の評価が下がるような印象操作をしてきたり、仕入れ先の業者に入れ知恵をしたりなど、踏んだり蹴ったりの有様だ。
それに伴って客足も遠のき、現在は閑古鳥が泣いている状態になってしまっている。
俺がこの店を継ぐときに親父が言っていた。『この店——暁堂を、誰かの人生の助けや転機になる場所にしなさい』と。
あれから3年。店の借金も膨らむ一方。今の暁堂はそんな親父の意思とは真逆の状態だ。こんなんじゃ誰かを助けるどころか、自分の人生すら助けられずに終わってしまう。
———(俺はこれから一体どうすれば‥‥もう店を畳むしかないのかな...?)
俺は店のシャッターを閉めて、現実逃避のために外の空気を吸うことにした。
暁堂のある谷中は、東京の中でも浅草や上野に次いで下町情緒あふれる雰囲気が人気となり、近年は海外からの観光客も増えて盛り上がっている地域だが、夜になり、賑やかだった通りも人が少なくなる。
(俺の店は昼間も夜みたいに静かだけどな....)
俺はスマホを片手にぼーっと歩いて、更新の途絶えたSNSを開く。
SNSのタイムラインを何となく見ていると、あるつぶやき(投稿)が目に入った。
◆ライ◯ドアニュース◆
【オーパーツ】
台東区の寺院で古びたiPh◯neらしきものが発見される。
日本大学の研究チームが調査した結果
iPh◯ne発見された蔵の箱は、推定1700年代末から1800年代初め(江戸時代中期)頃のものとみられ、少なくとも100年以上開けられた形跡がないとのこと。
◆コメント◆
"これガチだったらすごくね?
江戸時代に誰かがiPh◯ne持ち込んだってことでしょ?"
"誰かがiPh◯neボロボロにして箱に入れたんじゃねえの?ww"
"人生で一番ワクワクしてるわ俺w"
"こんなこと現実にありあるん?フェイクじゃないの?"
"信じがたいけど本当だったら胸熱すぎる"
◆◆
「ふーん‥‥」
面白そうなニュースだが、今の俺には素直に喜べる元気も余裕もない。
台東区の寺って、もしかしたらこの近くか?——なんてことを考えて、寺通りの路地を歩いていると、俺は奇妙な女性を目にする。
———「‥‥!?」
その女性は縞模様のきれいな着物を身につけていて、髪型は少し乱れた日本髪的な見た目。
———と、ここまではただの"着物を着た女の人"なのだが、おかしなのはここからだ。
その女性は裸足で壊れた黒い下駄を抱えており、息を切らして挙動不審な雰囲気だったのだ。
(なんだあの人‥‥?何かあったのか?)
またうまく説明できないのだが、異様なオーラを纏っている感じで、人ならざる雰囲気も持ち合わせていた。
(もしかして幽霊じゃないよな‥‥)
近くには谷中霊園もあるし、本物だったら嫌だな——そんなことを思っていると。
ブウゥーーーーーーーン!!
奥から一台の車が大きなエンジン音を鳴らしながら走ってきた。
その女の人は避ける気配がないので、俺は咄嗟に走ってその女の人の腕を引っ張った。
「あ、危ない!!!」
バッ....!!
パーーーーーーーーー!!
車にはクラクションを鳴らされたが、何とかぶつからずにすんだ。
「お姉さん大丈夫!? てか危ないですよ!」
俺は焦りながら言った。
つかんだ女の人の手は冷たく、ゆっくりと俺の方へ振り返る。
「え‥‥‥」
———そのとき俺は言葉を失った。
無理もないだろう。
何故なら振り返ったその顔は———その顔は‥‥‥
「!!!!!!」
言葉を失ってしまうほどに——————
あまりにも美しかったからだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます!!
この着物を着た女性は一体何者なのでしょうか?
これからどんどん更新していきます。
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