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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
パークレジデンス池袋(仮)
94/234

憧れ②


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 大河らによる湖底ダンジョンの救出行は、想像していたよりもかなりハイスピードで進行していた。


 行く手を遮るモンスターの強さは、普段相手にしているフィールドモンスターと大差なく、その攻撃方法や行動パターンも予測の範疇を出ない。


 なにより無限回廊のような特殊なギミックもなく、単純に縦穴を見つけることに集中できた事が大きかった。


 地下一階層から十階層まで駆け抜けるのは一時間も掛からず、フロア面積が急に広くなった十一階層以降も単純に走る距離が増えただけで、戦闘の難易度はさほど変化が無い。


 しかしこれはレベル18の大河とレベル14の朱音による突破力と殲滅力があってこその強行軍であり、剛志の目から見た二人の強さは想像を遥かに超えていた。


 自分では到底倒すことのできなさそうな、強力な水鉄砲を放つ大型の巻き貝型モンスター──シジミブラスターや、強烈な泥臭さを発し相手を麻痺させるゲル状の(ふな)──鮒イムなどのモンスターを、接敵してからものの十数秒で撃破するその姿。


 剛志の記憶にある調達班のメンバーは今の今まで最精鋭の凄腕揃いだと憧憬の念を抱いていたが、その上を見せられてしまっては憧れが上書きされてしまう。


 阿吽の呼吸とも言うべきチームワークや、悠理も含めた見事な役割分担。


 それらが揃って初めて、この湖底ダンジョン地下十五階層までの余りにも早い到達が成し得たのだと、すぐに理解した。


 やがて十五階層に到着するやいなや、フロア中を埋め尽くす勢いの(おびただ)しいモンスターの群れに遭遇した。


 剛志がその絶望的な光景に怯み、調達班が生存している可能性を諦めかけたその時、大河は即座に朱音に指示を飛ばした。


 隊列の先頭を大河に切り替え、眼前を阻むモンスターの群れに背後から単騎で突っ込み、そして蹂躙する。


 その間、朱音は悠理により瞬時に細かい怪我などを癒してもらい、数拍遅れて大河の後を追った。


 手数とスピードなら朱音に軍配が上がるが、一撃の破壊力と一回の攻撃による複数撃破という観点から見れば、大河が圧倒している。


 ならばこそ怪我を厭わない一点突破で敵陣を崩し、開いた隙間から朱音が突入し残された有象無象を片付けていく。


 群れの向かう先こそが調達班のいる場所だと察した大河は、斬り込みながらモンスターの数の濃い場所を選び進んでいった。


 朱音は残敵を掃討しつつ、悠理を護衛しながらその後を追う。


 剛志はと言えば、たまに群れから飛び出てくる既に致命傷を追った個体にトドメをさすくらいしかやることが無い。


 時間にして10分弱、大河とモンスターとの力量の差が余りにも離れていたため物量による飽和攻撃もその体を成さず、通路はあっという間に切り開かれていく。


 そして、大河は今まさに三叉の槍にふとももを貫かれる寸前の圭太郎の姿をその目で捉えた。


 伏龍の瞳が輝いていることに気づいたのは二つ上の階層だった。

 今モンスターたちは通路にぎゅうぎゅうに押しかけているため、ここで【龍咆哮(ドラゴンロアー)】を放てば射線を遮る敵を一掃できる。


 だがその先に圭太郎の姿が在るため、無闇に放てば圭太郎ごとあのプラズマの奔流で焼き尽くす恐れがある。


 大河は敵──サハギン・マフィアと圭太郎の戦いを注視しながら、周囲の敵を葬っていく。


 やがてサハギン・マフィアが圭太郎の腹を槍の石突きで殴打し、通路から姿を消した。


 大河は朱音に目であらかじめ打ち合わせしていたハンドサインで朱音に合図を送り、自身は曲がり角を曲がって瞬時に伏せる。


 大河が避難した事を見届けた朱音は、右拳を腰だめに構え、大きく深呼吸をして──。


「【龍咆哮ドラゴンロアァァァァァァァァァァ】っ!!」


 伏龍の瞳が輝いた時にしか使用できない、自身が持ちうる最強のスキルを発動させた。


 放たれる龍の咆哮はプラズマと化した高温の雷球となって眼前の通路をあっという間に直進する。


 進行方向のモンスターたちは一瞬の内に蒸発し、通路の壁が赤熱化していく。


 大河は【龍咆哮(ドラゴンロアー)】が放たれてから数拍置いて瞬時に立ち上がり、圭太郎の姿があった部屋に向かって盾を構える。


「【シールドチャージ】!!」


 十数メートルはあったであろうその距離をスキルによる加速で一気に詰めて、部屋の前で急制動をかける。


 そして入り口を塞いでいた一際大きなサハギン・マフィアの背中を、盾で横殴った。


 これはスキル使用による硬直時間を利用した、敵と距離を取りたい時に用いる、いわゆる裏技である。


 一度スキルを発動すれば数秒間身体が硬直し、動けなくなる。


 しかしスキルの種類によっては、在る程度の『遊び』のようなアクションが取れた。


 盾を用いた突進技である【シールドチャージ】であれば、技の終わりから再び動けるようになる間だけ、スキル効果のオーラを纏いながら身体の向きを変える事ができる。


 つまり盾を前面に構えながら横一閃に──その場限りの横殴りができるのである。


 背後から『剣』で斬りつけた方がよっぽど手っ取り早いが、ハードブレイカーを持つ方の手はスキル使用による硬直でピクリとも動けない以上、このような手法で隙を潰すしか方法がない。


 事この場面に於いては、その選択は間違っては居なかった。


 硬直時間から解放されるまで待っていれば、その間に圭太郎の顔面は三叉の槍によって貫かれていただろう。

 万が一間に合っていたとしても、サハギン・マフィアの背中を斬りつけた勢いでその身体が前に倒れ、同じ様に圭太郎の顔面が貫かれていたかも知れない。


 盾により横から殴った事で槍の矛先がズレ、結果圭太郎は九死に一生を得る事が出来たのだ。


「待たせたな! 助けに来たぞ!」


 事態の急変に思考が追いつかず、惚けた表情の圭太郎に笑いかける。


 そしてすぐに吹き飛んでいったサハギン・マフィアへと視線を移して、ハードブレイカーを構えた。


 すでにスキル使用による硬直から解き放たれており、自由に動ける。


「俺が相手だ! デカブツ!」


 サハギン・マフィアの目が大河を捉える前に地面を蹴って距離を詰め、そして斬りつける。


 だがサハギン・マフィアはすんでのところで三叉の槍を両手に持ち、ハードブレイカーの撃ち下ろしを柄の部分で受け止めた。


「おおおおおぁああああああっ!」


 大河が腹の底から裂帛の気合いを発し、ハードブレイカーを握る右腕に渾身の力を込める。


 その『剣』の持つ特性はその名の示す通り『硬い物(ハード)壊す(ブレイク)』こと。


 サハギン・マフィアの持つ三叉の槍は、特性により向上した攻撃力と切断力により一撃の元に断ち折られる。


 そのまま勢いは衰えず、その刃はサハギン・マフィアの出っぱった腹部に食い込み、そしてかっ捌く。


 臓物がまろび出たサハギン・マフィアは、自身の身に何が起こったのかさえ判然としないまま苦悶の悲鳴を上げた。


「うぉおおおおお!! 【アッパースラスト】っ!」


 ハードブレイカーの刃が、サハギン・マフィアの足元から天井目掛けて上昇してくる。


 オレンジ色のオーラを纏った大河の身体が物理法則に反して浮かび上がり、急上昇する。

 

 サハギン・マフィアは股間から脳天までもを掬い上げられ、縦に真っ二つに両断された。


 圭太郎は、その光景を涙で滲む視界でしっかりと見続けていた。


 あまりにも鮮やかで、あまりにも力強いその剣閃に、眩さすら幻視する。


 口を大きく開け広げ、側から見れば間抜けにも見える表情で、スキルによって宙を舞う大河を見続けている。


 そしてそれは、剛志も同様だった。


 【龍咆哮(ドラゴンロアー)】使用後の虚脱感に苛まれる朱音と、その身体を支える悠理と共に大河に追いついた剛志は、見たこともない巨大なモンスターを一撃で葬りさる大河の姿が、強く目に焼き付く。


 今ここで、二人の少年の心に強い憧憬が刻まれた。


 自分らとさほど変わらない年齢の、そして自分らよりも遥かに強く冷静だった青年の姿を、圭太郎と剛志はキラキラとした視線で見続けている。

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