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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
水没都市池袋《ルーインズオブセイレーン》

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パーティー会議


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「えっと、ノームたちの話をまとめるね?」


 新宿で購入したリングタイプのノートと安物のボールペンを片手に、悠理が焚き火の前で頷く。


「頼む。俺はもう疲れて疲れて」


「アタシも……あのちびっ子ども、さんざんはしゃいだ挙句こっちを放り出して眠りやがって……」


 げっそりとした顔の大河と朱音が掠れた声で同意する。

 

 質問内容の答えがまともに返ってこない問答を続けた事で、三人の気力はもはや限界にまで達していた。

 

 今までの旅や道のりの険しさよりも体力を消耗している気すらしている。


「えっと、ここはノームたちが鉱山で遊ぶ為に作った集落で、本当のノームの村は別の所にあるけど、遠いからあんまり帰らない。それでこっちに来てるノームは四人で一組を組んで、ローテーションでお留守番をしている。その組が五つあるから、少なくても二十名のノームたちがここを利用している。鉱山はこの山の中腹とか、山を降りて少し歩いた先とか、他の山とかにいっぱいあって、ノームたちはそこで珍しい鉱石を掘って競っている」


 メモ帳に箇条書きにまとめたノームたちの情報を、淡々と話す悠理。

 焚き火の光が当たるよう身体の向きを逸らしているので、大河からは横顔しか見れない。


「ノームたちは山で遊んで暮らしている精霊種族で、山の中ならモンスターが出ても姿を消したり触れなくしたりして対処できる。他にも大工仕事が得意で、ここの小屋も自分達で組み立てている。小屋はどんどん増えてるけど、ほとんどが特に使うアテのない空室で、作るのが目的であって使うのは考えてない。家具も巡礼者用に作った色んなサイズのがあるから、好きなのを使って良い。掃除はしてないから、自分たちで掃除してほしい。ノームは掃除が好きじゃない。ノームはお腹は空かないけれど、おやつは大好き。お昼寝も好き。魚釣りも好き……ここらへんは飛ばそうか」


「そうしてくれ」


「ゴミみたいな情報がそこらへんからいっぱい出てきたわよね……確か」


 一を聞いたら二に辿り着く前に解読できない謎の記号が出てくる──ノームたちとの会話は終始そんな感じで進んでいくので、まともな会話を成り立たせるのに苦労した。


 終盤は悠理がコツを掴んだ様でトントン拍子に話が進んだが、それまでは朱音が頭を抱えて地団駄を踏んだり、大河が一度離れて集落の外の大岩を真っ二つにしたりと、苛立ちを抑えるので精一杯だったのだ。


「えっと、この湖の名前は『セイレーン湖』で、水深はかなり深く、どれだけ深いかはノームにもわからない。水底(みなそこ)にはたくさんの魚人(マーマン)がそれぞれの種族に分かれて集落を作っていて、一番多い種族が『水底都市』という国を持っている……これ、だいぶ重要な情報だよね?」


 ノートから顔を上げた悠理が、大河を見る。


「だな。あいつらみたいに友好的なら良いけど、そうでなきゃ水の中に引き込まれたら俺らじゃどうにもできない。注意しよう」


「それにしても、この湖どんだけ広くてどんだけ深いのよ。国ができる規模ってなに?」


 朱音の言葉に合わせて三人、月明かりと星明かりに照らされてキラキラと輝くセイレーン湖を見る。


 水面が時折風で波紋を広げる以外、静かで穏やかな湖だ。

 昼間は遠くに見えたビル群は、今は夜の闇に紛れて全く見えなくなった。


「ノームが言うには、この湖の何箇所かに巡礼者のコミュニティがあるって……」


 悠理が再びノートに視線を移して呟いた。


「島があるって言ってたな」


 ノーム(いわ)く、湖の上には大小様々な規模の島が幾つもあり、人間たちはその上で生活をしている。


 交流のある魚人(マーマン)たちと物々交換やオーブでの支払いで食料を購入し、他にも水棲モンスターを狩るなどをしてなんとか生計を立てているらしい。


「どうする?」


 ノートをパタンと閉じて、悠理は大河に問いかける。


「どうするも何も、その島へと向かう手段が無いし、行ってどうするかだ。こんな辺鄙な場所になっちまった池袋で、あの大断層を渡る手段が見つかるとは思えないし……」


 腕を組んで頭を捻り、大河は考え込む。

 この山の頂上からも、あの大断層は見える。

 そしてそれはまだ先が見えないほど続いていた。

 

 目的が大断層を越える手段である以上、こんな閉鎖的な環境に成り果てた池袋で、有益な情報が手に入るとは考えにくい。


「かと言って他に手がかりが無いからって、ここまで来て目白に引き換えすのも馬鹿らしいか。なにせ一ヶ月もあの草原を歩いていたわけだしね。無駄足になるのは気分的に嫌。アタシ的には、その島の人たちに会って話を聞きたいわね。もし引き返したとして、あの島に実はカラスのことを知ってる奴が居たとかだったらショックよ?」


 朱音がすっかり舌に馴染んだコーヒーを啜りながら、大河を見る。


「んー、まずは湖を渡る手段があるかどうかだ。ドワーフのおっちゃん達は、イッカクジュゴンってモンスターをテイムしたらいいって言ってたけど、そのモンスターが強かったらテイムどころの話じゃない」


「ん、そうだね」


「リーダーに任せますよっと」


 身体を横にした朱音が、欠伸(あくび)をした。


「リーダーって」


「アンタでしょ」


 朱音は眠たい目を擦って、大河を指差す。


「やめてくれよ。そんなガラじゃない」


 大河はあぐらを掻いた脚に肘を乗せ、頬杖をついて憮然とした表情を浮かべる。


「でもこのパーティーの決定権はアンタが持ってるようなもんでしょ。アタシはただの便乗だし、悠理はアンタの決定を否定しないし」


「別に否定しないってわけじゃ無いよ。否定する理由が今までのところないってだけ。でも私も大河がリーダーっていうのは異論無いかな」


 ノートをアイテムバックにしまいながら、悠理が淡々と告げる。


「俺は異論しか無いんだけど」


「まぁまぁ、リーダーなんて言ってみたところで何か変わるわけじゃないから良いじゃない。今までみたいに相談しながら進んでいけばいいだけよ。それを最終的に決めるのがアンタってだけ。それにアタシはこの池袋にあのクソカラスが居れば、それで旅を続ける理由が無くなる。アイツを殺せるだけの力を身に着けて、殺してお終い」


 頭の後ろで手を組んで、朱音は満月を見上げる。

 

 秋空の雲は薄く空を張っていて、満月をうっすらと滲ませている。

 星の明かりも小さく、空全体にヴェールがかかったかのようだ。


「……言いたいことは結構あるけど、言うだけ無駄になりそうな雰囲気だな。わかった。明日からの事は──そうだな。聖碑があるって事は一旦街に戻って食料とか飲料水とか、生活雑貨の補充を先にしておいた方が良いと思う。ついでに高田馬場の大工房にも寄って、『剣』の強化とジョブオーブの合成も終わらせておこう。朱音さん、もう七種全部の熟練度溜まってるんだろ?」


「んー? ああ、『学徒』だけ手強かったけど、この山登る前くらいには溜め終わってるわよ?」


「素材も売ってオーブに換えとかなきゃね。レベル上げもしておきたいし。大河、だったら明日は高田馬場のあの宿に泊まろうよ。あそこなら二部屋取ってもそんなに高くないよ?」


「ああ、今日はもう遅いからこの集落で一泊しよう。もう店も閉まってる時間だしな。素材がどんだけの値が付くのかわかんねーけど、もし余裕がありそうなら新宿に戻って冬用の支度をするのも良いかもな」


「アタシ、東京がこうなってから一度も新宿や馬場には行ってないわよ?」


「パーティー登録はしてるから大丈夫だろきっと」


 そうしてこの先の予定を三人で話し合い、軽く夕食を取って眠ることにした。。


 大河と悠理は同室で、朱音は別の小屋のベッドを使う。


 湖畔の集落には電気が通っていないため、基本的に明かりは聖碑そばの焚き火とそれぞれの小屋に申し訳程度に設置されていた松明のみなので、夜の移動は少しだけ難儀をした。


 薪で沸かすタイプの風呂釜を発見したので、大河と朱音で湖から水を汲み、悠理が試行錯誤しながら火を起こして久しぶりの風呂に入ることにも成功。


 ベッドは硬さだけ少し気になるものの、広さや高さにはおおむね満足な出来で、風呂と共にノーム達に感謝しながら使用することにする。


「なんだかちょっと肌寒いね。大河」


「わかったよ。ほら」


「えへへ」


 草原では男女に分かれて夜番をしていたため、こうして寝所を共にするのは久しぶりだった。


 だからか、悠理は普段よりも甘えた声と口調で大河ににじり寄ってくる。

 

 大河も慣れたもので──まぁ、思春期男子としての性欲は非常にもてあましているのだが──厚手の布団を捲って悠理を自身の懐の中に招き入れる。


「んふふ。大河は暖かいなぁ」


 風呂上がりの上気した頬をピンク色に染めて、悠理は遠慮なしに大河の腕を枕にし、身体を密着させた。


 外の気温ももうじき冬になるかという寒さなのでさすがに前のような薄着ではないが、それでも大河の太ももに絡まった悠理の脚は柔らかくしなやかだ。


 なんとなく腰に回した腕から伝わる体温も、同じシャンプーやトリートメントを使っているはずなのに自分とは違うように感じられる匂いも、すべてが悠理が『女の子』であると言うことを大河に強く主張してくる。


「……もう寝るぞ」


 隣の小屋に朱音が寝てなければ、人肌の温もりという最高級の誘惑に負けてこのまま致していたかもしれない。

 大河はそう考えながら、ベッド脇のローテーブルの上に設置されていた蝋燭を息を吹きかけて消す。


「おやすみ大河」


 悠理はそう言って、大河の唇──の端にキスをした。

 言葉尻にハートマークが付いてそうなほど甘い声と、淫靡な水音を発したそのキスに一瞬頭が真っ白になる。


「──あ、ああ。おやすみ悠理」


 大河の胸板にぐりぐりと頬擦りをする悠理の頭を、枕にされている方の腕で撫で、そして鼻を埋める。


「……ああ、しあわせぇ」


 寝巻きに密着したこもった小さな声で、悠理がぼそりと独り言を溢した。


 その声を耳にした大河は、『もうそろそろ、覚悟を決めて悠理を抱くべきなのではないか』などと考えながら瞳を閉じる。


 湖畔の集落はとても静かで、風の音と水の音しか聞こえない。

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