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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
新宿→→→高田馬場
33/233

今の新宿の日常①

本編との間で『人物紹介とダンジョン説明』を更新しております。

読まなくてもストーリーには支障はありませんが、読むとより面白くなるので是非!


『もしもし大河! お前なぁー、仕事中に電話してくるなって、何度も言ってるだろ?』


「はぁ……ぐずっ、はぁあっ……はぁっ」


『……大河? おい、どうした大河。お前……泣いてんのか?』


「おじっ、おじさんっ……おおおおおっおれっ、おれがっ……ぐっ、うぇえっ」


『──どうした? 何があった。落ち着いて叔父さんに話してみろ』


『おれっ、とうさんを……ずずっ、とうさんを、包丁でっ……刺したっ』


『っ!? 大河!? お前今どこだ! 兄貴はそばに居るのか!?』


「がっこうからっ、帰ってきたら……うぇっ、父さんっ、また酒飲んでたからっ……飲みすぎるなって……ふぅううっ」


『ああっ! それで!?』


「父さんっ、急に怒り出して……ふぅっ、俺がっ飯作ってたらっ、殴られてっくくくっ、首っ、締められてっ……俺、怖くなって……包丁で、父さんの腹を……うぇええっ」


『わかった! 大丈夫だ! 大丈夫だから! 兄貴──お前の親父は、義姉(ねえ)さんの事でずっとおかしくなってた! お前は悪くない! お前が良い奴だって、叔父さんはちゃんとわかってるからな! 三島さん! 今から東京に行ってくるから後は頼む! ああっ!? んなもん適当に返事しといてくれ! 大河! 叔父さんが今行くからな!? 救急車とか、警察とか呼んだか!? まだなら叔父さんが電話するから、今お前の父さんがどうなってるか、わかる範囲で良いから教えてくれ!』


「はっ、腹に包丁が刺さったままっ、うううっうずくまってて、痛いって……ふぅううううっ」


『わかった! お前は怪我してないか!? 動けそうか!?』


「なっ、殴られてっ……ひっ、鼻から血がっ……出てるけどっ、くっ、首が痛いけどっうううううっうごける」

 

『よし! その包丁は絶対に抜くな! タオルとか近くにあったら、包丁を動かさないように傷を抑えておけ! 変な気を起こさずに待ってろよ! 良いな!? 叔父さんと約束しろ!』


「おじさんっおれ……おれっ、刺すつもりなんてなかったんだ……とっ、とうさんがっ、くくくっ、くび締めるからっ怖くなって、ほんとうなんだっ、おれ、おれっ」


『大河! しっかりしろ大河! おい! 俺の声が聞こえてるか!? 大河! 大河──大河っ!』


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「────大河! 大河ってば!」


 肩を揺り起こされて、大河は目を覚ました。

 いや、まだその意識は朦朧としていて、今見た夢と現実の境目にいる。


「大丈夫? ねぇ、凄いうなされてたよ? 寝汗も凄いし、顔も──」


 心配そうに顔を覗き込む人物が悠理(ゆうり)である事も、まだ理解できていない。


「あ、あああっ」


 飛び起きて、周囲を見渡す。

 天井の照明がチカチカと明滅し、赤茶色のレンガを模した薄汚れた壁で囲まれている。


「──あ、ああああっ」


 顔を両手で覆い、身体がガタガタと震え出す。


「あああああっ、あああああ」

 

 長い時間をかけて封じてきた記憶が、夢の形を取って現れた。

 そのあまりの(おぞ)ましさに、恐怖に、まともな思考が働かない。


「っ大河!」


 そんな様子の大河を見かねて、悠理はその頭を胸に寄せ力一杯抱き締めた。


「ふーっ! ふぅうううううーっ!」


 指の隙間から見える目の焦点が合っていない。

 奥歯が小刻みに揺れ、カタカタとぶつかっている。


「大丈夫、大丈夫だから! ほらっ、私が一緒にいるから!」


 悠理は大河の頭を撫で、背中を摩った。

 小さな子供にするように、その身体を包み込んで優しくあやす。


「ふぅううううっ、ふぅうう……ふぅ、ふうぅーっ」


 徐々に、ゆっくりと大河の様子が落ち着いていく。


「ふっ、ふぅっ……すぅ」


 そして気絶したかと思うほど唐突にその目を閉じて、また眠りに落ちた。


「大丈夫……大丈夫だよ……大河」


 壁に背を預けて大河の身体を引き寄せ、悠理は大河を抱き続けた。


 やがて大河は安らかな寝顔を見せ、悠理は一息つく。


「……場所が悪いのかな。昨日まではこうならなかったし」


 大河の頭を膝の上に乗せて、目を閉じる。

 なんだかんだで疲れていたので、そのまま眠れる気がした。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 大河たちが今いる場所は、新宿アルタ前広場に程近い雑居ビルの、7階の非常階段。

 薄汚れた赤茶色の、タイルを模したデザインの壁に囲まれた狭いスペースだった。

 近くの寝具店から持ってきたベッドマットを床に敷いて、道に置いてあったゴミ箱や看板をバリケード代わりにして、ここを二人の仮のねぐらとして使っている。

 

 あの無限回廊を抜けて、すでに四日が経過していた。

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