日記②
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8月16日
とんでもない思い違いをしていた。
時間が経つにつれて、『誰か』を理解し始めているなんて大間違いだ。
僕は徐々に、というよりもう半分以上。
アイツに浸食されいている。
同化しているんだ。
取り込まれているんだ。
吸収されかかっているんだ。
わかる。
アイツがどこから来て、何をしようとしているのかが、知識として。
アイツは別の宇宙から来た。
別と言っても、次元が違うとか、異世界とかそういうんじゃない。
僕ら人間が観測する事すら考えていなかった、桁外れの遠く果てしない宇宙のその先のずっと先。
考えるのも馬鹿らしいほど遠くから、考えるのも馬鹿らしい時間をかけて、アイツはやってきた。
僕らの地球がある天の川銀河、それを含む局所銀河群、さらにはおとめ座超銀河群なんかの更に更に外側。
そこにアイツらの文明は存在した。
どういう風にそうなったかは分からないけれど、アイツらは元は数百億・数千億からなる個別の生命の群体で、文明の発展と共に一つの人格を有する巨大な生命体へと変化し、更に途方も無い時間を掛けて自分の身体から解脱する事に成功した──概念生命体。
アイツ、いやアイツらは自分らの事をそう呼んでいる。
アイツらに取って個は全であり、全は一つの自分であり、自分とはつまり我である。
ダメだ。
もう何を書いているのか僕にも分からない。
ただ分かっているのは、アイツらが長い長い、それこそ地球がここに誕生し今に至るまでの時間の何百・何千・何億倍の時間をかけてここに来て、僕を見つけたのは、全て『暇つぶし』の為だ。
アイツらは生きる事に飽いている。
存在し永らえる事に絶望している。
悠久の時が退屈で埋め尽くされることに、憎悪している。
だから旅の途中で見つけた文明を、暇つぶしに潰して回っている。
アイツらの持つ永遠にも近いほど長い寿命でも、まだ三つしか見つけきれていない知性ある生命体を、イタズラに滅ぼして遊んでいる。
一つ目は直接滅ぼした。
二つ目はお互いを憎み合わせて、自滅させるように仕組んだ。
そして僕らだ。
今までの文明と違って、僕ら人類は想像力を持っていた。
想像し、創造し、0に肉付けして形にできる力を持っていた。
アイツらはそれを見つけて、喜んでいる。
たまたま見つけた僕の想像力を使い、人間達がどう滅ぶかを予想して予測して遊んでいるんだ。
個から全へと移り変わる段階で、高次予測ができるが故に自分たちの種が切り捨てた発想力と妄想力が、楽しくてしょうがないんだ。
個人としての人格を失ったアイツらが、未だ群れる事でしか生命を維持できない僕らを見下して、悦に浸っているんだ。
僕の人格を必要としているのは、僕が作り出したあの世界は僕──人間にしか理解できないから。
人類の感情への理解ができないアイツらは、僕を演算装置として使う事で、あの世界をできるだけ長く楽しめる世界にしたいんだ。
でもそれでも、全てが暇つぶし。
幾らアイツらでも、世界を一つ丸々、完全に造る事はできない。
だからまずは僕の妄想通り、東京から。
アイツらの持つ全ての権能を使って、まずは東京という都市を造り替えて、そしてじわじわと外に伸ばしていく。
それが『計画』。
打つ手が無い。
こうして日記に全てを記している僕が果たして本当に僕なのか、それすらも曖昧になってきている。
相手があまりにも巨大で、異質で、そして未知すぎて、なにをもってして太刀打ちしたらいいのかさっぱり分からない。
もう僕に出来ることはただ一つ。
それすら本当に意味のある事なのかも、わからない。
だけど、それしか無い。
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8月17日
死ぬことにする。
場所は僕の、僕らの思い出の場所。
家の近くの公園の、あの思い出の木。
僕と大河が、初めて会ったあたたあたあらたあたあたあたあたああたあたあたあ。
さいごくらい、ちゃんと、かかせて
いまぼくが眠らずニ抗えてイルのは、意識のほとんどをアイツらに持って行かれたおかがげでででで、少しだけこのチカラの輪郭をしったかららららら。
気をぬけば、またねむりに落ちてしまう
だからもうあんまりじかんがない
意識のあるうちニ、みんなの顔を見ておかないといけナイ。
お母さんと、お父さんと、お姉ちゃんに、先に死んでしまうコトをあやまって、アサがくるくるくるくる内に、死んでしまわないととととといけななない。
8月18日になれば、すべてがはじまってシマウから。
ああ、あと、大河。
約束、マモレナクテごめん。
大人になったら、って言ってた、なんだっけ。
大河と、何かを、約束したのに。
僕の大事な、約束。
僕の、大事な、親友、大河。
ごめんなさい。
何も分かってあげられなくて、ごめんね。
タイがが、辛いの、しってたのに。
たすけてアゲられなくて、ごめんね。
いつもそばに、居てくれたのに。
いつもそばに、いたのに。
さいごに、タイがの顔を見たかったナァ。
だいすきだよ、ぼくのしんゆう。
ぼくの、大河。
もし、きみがこの日記を、見たのなら。
どうか、良くやったって、ホメテほしいんだ。
ほんとうは、こわくて、こわくて、いまもずっとふるえていて、ペンもちゃんと握れないし、もう文字をモジとしてにんしきできていない。
おくびょうな、ぼくが。
こわがりで、よわむしな僕が。
さいごまでこの日記を書くことができたのは、大河があの日、僕をほめてくれたから。
おまえはいちど決めたコトを最後までやれて、えらいなって、言ってくれたカラ。
きみに褒められる、ぼくでありたいと、思えたから。
だから、ちゃんと死ぬから。
こんなコワいこと、ぼくだけでじゅうぶんだ。
ああ、もう時間が来る。
僕が僕で居られる、最後の時間。
気をしっかり張らないと、消えて無くなりそうだ。
ちゃんと最後の言葉、書けてる?
もう読み返す時間も無いんだ。
みんなの顔を、しっかり目に焼き付けてさ。
大河、僕は行くよ。
僕の友達で居てくれて、親友で居てくれて、僕を見つけてくれて、ありがとう。
言いたい事は、伝えたい事はまだまだたくさんあるけれど、ここでお別れ。
最後の最後まで、僕が僕で在り続ける為に、僕は死ぬ。
じゃあね。
楽しかったよ。
大河。
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