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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
征服者の祭壇《アラ・ヴィクトルム》

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205/267

3対5①


『ファイナルステージのルールを説明するぜ!!』


 他の四名と共に祭壇の頂上からゆっくりと降りてきながら、DJカノーはその声を中野の全てに響かせる。


『最終決戦のルールは至ってシンプル! 俺ら〝覇王〟の五名と〝ケイオス〟のメンバー全員との乱戦だ!! 勝利条件は3つ! クランリーダーが敗北を宣言するか、クランリーダーが死ぬか、またはどっちかのメンバーが全滅したら負け! 制限時間も!禁止行為も無し! なおケイオス側は出場させるメンバーを選べるので、戦いに自信の無い奴は広場の隅っこにある場外応援席に避難させておいてくれよな! ただし!! 一度不参加と決まったメンバーは物理的に広場に侵入できなくなるので要注意だ! そこだけは俺らでもどうしようもならないんで!!』


 DJカノーの説明を聴き、大河は一度ケイオスのメンバー全員の顔を見る。


『んじゃあケイオスは誰を参戦させるか今から考えてくれよな!! ゆっくり目に歩くから、俺らがそっちに到着するまでには決めておいてくれ!!』


 強烈なハウリング音と共に、DJカノーの声が途切れる。


 大河はその間に必死に思考を回転させ、戦いに参加させるメンバーをピックアップしていた。


「全員参加可能って事か。何を考えてるのか知らねぇが、頭数の多い俺らに有利じゃねぇか」


「少なくとも向こうよりも多く戦闘メンバーを入れた方が良いのは確かだよね。僕、大河、海斗兄貴に……健栄さんに、悠理に……」


「千春も戦います!!」


 海斗と廉造の言葉に、千春が大きく右腕を掲げた。


 その目は普段の千春のそれと違い、どこか余裕を感じられない必死さが宿っている。


 周りのケイオスのメンバーは、そんな様子のおかしい千春に対して、不安そうな視線を向けていた。


「だ、駄目だよ千春ちゃん。酷いことを言うけど、千春ちゃんじゃ……」


 苦言を呈したのは瞳だった。


 千春の小さな肩にそっと手を置いて、優しく諭す。


「で、でも今戦わないと! 千春はなんの為に強くなったのか分からなくなるんです! ここなんですよ! 千春が目指してたのは、こういう時にみんなを守れる、そんな──!!」


「──ダメだ」


 千春の激昂を静止したのは、大河の冷たく低い声だった。


「──な、なんで! 千春だって戦えます! 確かにリーダーや海斗くん、廉造くんより弱いかも知れないけど! 千春だって、千春だって!!」


 大河はふるふると首を振って、その言葉を無言で否定する。


「ごめん千春。今回ばかりは、お前の我が儘を聞けない。お前はアイツ──祐仁さんと仲が良かった。気の合う友達……いや、まるで兄妹みたいな、そんな間柄に俺は見えた。だからきっと、お前にアイツは殺せない」


「そ、それは──!!」


 きっと自覚があったのだろう。


 千春は大河の言葉にぐっと息を呑んで、今にも泣きそうな表情をした。


「イメージできないと思うんだ。自分の手でアイツを、祐仁さんの顔をしたあの男を殺せるビジョンが、きっとお前には見えない筈だ。それに、俺は──いや、ケイオスの皆はお前に、人を殺して欲しくないって思ってる」


「ち、千春だって……千春だって人を殺せます……悪党を斬って、みんなを守るんです……り、リーダーみたいに……」


 その小さな身体を小刻みに震わせながら、ついに千春は涙を零し始めた。


 分かっていたのだ。

 強くなって、みんなを守る力を手に入れたとしても、きっと自分は人を殺すことに躊躇してしまう事を。


 誰よりも知っていたのだ。

 本当の自分が誰よりも臆病で、誰よりも弱い事を。


 だからこそ、あの時。


 祐仁(おうサマ)が自分の思想を強く語った時、千春は半分の共感と、半分の失望を感じてしまった。


「よ、弱いままの千春は、い、嫌なんです……み、みんなに守られてるだけじゃ、なにもかわらないんです、ひっく、ちはるは、ちはるだって……」


 弱者のままであろうとすることは罪。


 祐仁の顔をした敵の語るその言葉は、そのままかつての千春の事を言っているように思えて。


 そして大河や海斗、廉造に指導されながら力を身につけた今となっても、千春はまだ自分の事を弱者だと認識していた。


 罪を負う者であり、皆の足手まといだと、痛感していた。


 あのセカンドステージの最中、千春は結局誰も殺せなかったのだ。


 拠点へと侵攻する他クランの巡礼者(プレイヤー)の邪魔はできたが、その命を刈り取る程の攻撃は最後まで出来なかった。


 手が止まってしまったのだ。


 人を殺すイメージが脳内を駆け巡った瞬間、耐えがたい恐怖に竦んでしまったのだ。


 だからこそ、祐仁(おうサマ)の言葉に揺さぶられてしまった。


「千春……」


「千春ちゃん……」


 瞳と同じく、郁や愛蘭も千春のその小さな身体を優しく抱きしめる。


「……じゃあ、千春は戦闘メンバーから外すとして」


 海斗が場を仕切り直す。


 ここで揉めている場合では無い。


 本当ならもっと時間を掛けて千春を慰めてやりたいが、振り向いて見る〝覇王〟のメンバーらはすでに祭壇の中腹まで降りてきていた。


「戦闘に自信の無い人は参加しない方が良いよ。愛蘭さんもだし、瞳さんも……あとは──ん?」

 

 腕を組んで考え込みながら話す廉造の肩を、神妙な面持ちの大河がぐっと掴む。


「大河、なんだよ」


 振り返った廉造は、大河のその表情から焦りや苛立ちが滲み出ているのを感じ取る。


「──戦闘に参加できるのは、俺とお前と、海斗さんだけだ」


「──はぁ?」


 突拍子の無い言葉に、つい声色を低くして聞き返してしまう。


「なんでだ? 俺らにとってのアドバンテージである人数の有利を、なんで捨てる?」


「捨てるんじゃない。それしか選択肢が無いんだ」


 キッと背後の〝覇王〟を睨み、大河は苛立ちを隠さず歯噛みする。


「アイツらには【催眠】スキルがある。たぶん特定の所作とか、条件を達成しないと効果を発揮しないタイプのスキルなんだろうけど、今からその条件なんかを探ってる時間は無い。唯一分かっているのは、スキル使用者よりも高レベルの巡礼者(プレイヤー)なら、その効果に抵抗(レジスト)できる事だけだ。仮にこっちが大勢で立ち向かおうにも、味方が催眠されて操られてしまったら、数の有利が一気に向こうに傾いちまう……仲間を、攻撃しなきゃならなくなる」


「ワシでもダメか?」


 割って入ってきた健栄の言葉に、大河は首を横に振った。


「廉造と海斗さんだって賭けなんだよ。確実に大丈夫って言い切れるのは俺だけだ。アイツの言葉を信用するみたいで心底嫌だけど、明確に俺には効かないって明言してたからな。俺に近いレベルで言えば廉造と海斗さん、そして悠理。だけど万が一俺以外には催眠が効くとして、悠理が操られちまったら俺が無力化されちまう」


「俺らなら攻撃できるって聞こえちまうが、まぁそうだよな」


「俺らが知っているアイツらのスキルは【催眠】と【擬態】……だけど他のメンツ、DJカノーとかあのとんでもない格好している女の人とかは全く情報が無いし、【催眠】だって誰がスキル使用者なのかも分からない。ルール自体は俺らに有利に聞こえるけど、実際はかなり不利だ。戦いながら探っていくしかない」


 大河の言葉に、ケイオスのメンバーの皆が黙ってしまう。


 重苦しい空気が支配する。


「……しゃあねぇな。ここが踏ん張りどころか。おい廉造。俺が操られたら遠慮は要らねぇ。躊躇せずに斬れよ」


 腰のハヤテマルをくいっと持ち上げて、海斗が舌なめずりしながら一団から一歩抜けた。


「馬鹿言わないでよ。僕じゃ兄貴の攻撃を避けるだけでも精一杯だっての。大河に任せるからね」


 海斗に続けて、廉造も両手首をぷらぷらと揺らしながら歩き出る。


「……廉造、海斗、大河」


 愛蘭の不安そうな声に、三人は振り向いた。


「心配すんな。そもそも今の大河の危なっかしい戦い方について行けるのは俺と廉造だけだったし、荒事は俺の領分だ」


「暴走しがちな二人をフォローしながら戦えるの、僕以外にいないでしょう? ほんと、貧乏くじだよね」


 そう言いながら、廉造と海斗は大河を見て不敵に笑う。

 

 頼もしくも少し茶化されている空気を感じながら、大河もまたふっと笑った。


「悠理」


「うん……」


 名前を呼ばれた悠理が、そっと大河に歩み寄る。


 両手を広げて待っている大河の胸に飛び込み、背中に腕を回し、力強く抱きしめた。


「信じてる」


「わかってる」


 柔らかな悠理の髪に鼻を埋め、思いっきり深呼吸をした。


 その甘い匂いが、大河の闘志と決意に力をくれる。


「中野を出れたら、次は吉祥寺だ。絶対にお前をあそこに帰す」


「うん。一緒に帰ろうね……」


 顔を上げて潤んだ瞳を向ける悠理の額に優しくキスをして、壊れ物を扱うかのように優しくその身体を引き離した。


 最後に振れた手と手すら名残惜しそうに離れていく悠理に、香奈や他のケイオスの女性メンバーがそっと寄り添った。


「んじゃあ行くぞ。小僧共」


 ハヤテマルの鞘をぐっと握りしめ、海斗は嗤う。


「【抜剣(アクティブ)】っと。あーあ、どうして僕はこんな血なまぐさいことばっかしてんだろうね」


 顕現させたエコーの柄を口元に寄せて、身体の色々な関節を解きほぐしながら、廉造はわざとらしくため息を漏らした。


「悪い二人とも。頼りにしてるから。【抜剣(アクティブ)】」


 その手に現れたファング・オブ・カラミティ──災禍の牙の赤い水晶の刀身が、太陽光を浴びて周囲をキラキラと照らす。


 大河はその光の粒の中から、今から殺しあいをする相手──祐仁を強く睨み付けた。

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