セカンドステージ、開戦①
※さすがに実際にあるバンドの名前で悪役を描くのはあかんかったなと思い直し、敵のクランネームを虎舞竜から虎武羅に変更しまんた!!
あと更新時間が安定しなくて本当に申し訳ないです!!
『みんな聞いて驚けぇええええっ!!』
中野の街に、DJカノーの声が響き渡る。
ビルの窓硝子や植樹の葉を大きく揺らすほどのその声は、遠く残響を轟かせて中野の全ての巡礼者の耳元へと届いた。
『セカンドステージ開始からまだ1時間も経っていないってのに!! ロワイヤル優勝候補の一角、〝虎武羅〟のフラッグが落ちたぁあああっ!! これはまさかの!! とんでもないっ!! 大番狂わせだぁあああああっ!!』
その一報に、巡礼者達の間に隠せない動揺が走った。
最大手クランの一つである〝虎武羅〟は、覇王傘下のクランの中でも最も武闘派で知られていた。
元々は中野駅前のアーケードにあった、少し古い音楽を愛するミュージックカフェの常連達で結成された、ちょいワルオヤジ達の集団。
そのクランネームも平成に人気を博したロックバンドの名前のもじりであり、主要メンバーがそれぞれハードロックのパンク衣装を身につけヘアスタイルをリーゼントで固めているのが特徴だ。
クランリーダーや幹部らは硬派と言われているものの血の気が多い舎弟メンバーが多く、略奪や暴行沙汰、果ては虐殺などでその悪名は中野の隅々まで行き渡っていた。
そんな凶悪なクランが、セカンドステージ最初の脱落クランとなるなど、誰が予想できただろうか。
『しかもしかぁあああああも!! 虎武羅の拠点に強襲をかけ、リーダー含めた主要幹部全員を殲滅したのはたった一人!! おいおい信じられるか!? 一人であの高層マンションを攻め落として、なおかつクランリーダーであるあの高橋を!! 誰が呼んだか通称【猛毒】高橋や16名の幹部を一撃で真っ二つにしたのは!! たった一人なんだぜ!?』
ちなみに〝虎武羅〟のリーダーである高橋の通称を広めたのは、本人だったりする。
『拠点到着から所用時間20分ほどでクランメンバーの三分の一を惨殺!! お前ら覚えておけ! これが! こいつが!! こいつこそが!! 東京ケイオスの常磐大河だぁああああああああああっ!!』
「……ってことは、DJカノーには俺や他の巡礼者の姿が見えてるって事か」
大河は一人、ビルの屋上で呟く。
「虎武羅を撃破してからだいたい5分くらい……そんくらいのラグがあると見るべきか。いや、言葉選びを考えて遅れたって線もあるか? どちらにせよ、覇王には中野にいる巡礼者の姿を捉える手段が確実に有るって事だ」
ぶつぶつと独り言を呟きながら、大河はスマホを操作して『ぼうけんのしょ』アプリのメッセージ画面を開く。
「よし、向こうも問題無し……じゃあ、次は……都立家政の方か……」
5分刻みで送られてくる第二小や周辺の防衛陣地の報告をざっと確認し、スマホをカーゴパンツのポケットにしまう。
「ふっ!」
短い呼吸と共に両足に力を込めて、跳躍する。
目指すは目算で10メートルはある先の、ビルの屋上。
大河ほどのレベルや身体能力の高さであれば、わざわざ地上におりて馬鹿正直に道路を征くよりも、こうして建物の屋上を経由してまっすぐ進んだ方が当たり前だが速い。
右肩に担いでいるのは、もうすっかり手に馴染み始めた【赤晶剣 ファング・オブ・カラミティ】。
赤い結晶で形作られた刀身には、まだ新しい血が滴っている。
「次の奴らは、無駄に襲いかかってこなけりゃ良いけど……」
そう呟いて、たった今陥落させたばかりの敵拠点をちらりと見る。
屋上に設置されていたフラッグは、破壊する事で相手チームの失格となる。
虎武羅の幹部らは何を考えていたのか、屋上に豪華なソファやビリヤード台に、バーカウンターまで設置して余裕そうに酒盛りをしていたが、誰一人として空からの敵襲など考えなかったのだろうか。
確かに高層マンションの屋上の、その更に上から敵が降ってくるとは想像しにくいだろうが、レベルが10もあればマンションの壁を登ることが可能なのが巡礼者である。
近隣に建物が無いならまだしも、虎武羅が拠点としていた高層マンションの近辺には同じような高さのビルが乱立していた。
大河であれば余裕で渡って来れてしまう。
「情報って、やっぱ大事だな……」
もしかしたら虎武羅のメンバーらは、大河が中野に訪れた初日にビルからビルを飛び移って逃げ回っていたと言う情報を知らなかったのかも知れない。
大河的には、あの日多くの巡礼者に目撃されていた事から、既に知れ渡っているとばかり思っていたのだ。
だからあの高層マンション近辺に到着した時、自分の感知能力をどんなに駆使しても近隣のマンションの屋上に誰も配置されていない事が不思議で堪らなかった。
罠かもしれないとまで疑った程だ。
本当ならセカンドステージ開始20分時点で到着していたのに、警戒して更に20分も周囲を調べる事になった。
結果として本当に誰も配置されおらず、しかも防衛戦力の大半がマンションの一階ロビーに集合していた。
油断。
慢心。
情報不足に、危機管理能力の欠如。
このクラン・ロワイヤルと言うイベントが殺し合いだという意識が、虎武羅の幹部らには全くと言って良いほど存在していなかったのだろう。
もしくは覇王の傘下に下った事で中野における圧倒的な強者と言う立場を手に入れた彼らには、自分達が一方的に殺戮されるという想像ができなくなってしまっていたのかも知れない。
「ちょっと上手いこと行き過ぎだな……気を引き締めていかないと……」
この成功体験で調子に乗って、退き際や攻め際を見誤っては目も当てられない。
ちょっとずつ背の低いビルに着地する事で高度を下げながら、そしてビルの陰を利用して姿を隠す事を意識付けながら大河は次の敵クランの拠点を目指す。
少しだけ虎武羅の言い分を聞くならば、まさかセカンドステージ初日の、しかも開戦40分弱で敵に攻められるとは思いも寄らず、さらには多少は軍勢を引き連れてくるだろうと一応用意していた様々な策は、まさかの単騎による隠密特攻によって全て無駄となったのだ。
第一回クラン・ロワイヤルの時のフラッグ争奪戦とは、巡礼者のレベル分布が違う。
時間が経過した事で巡礼者が持つ剣の種類も豊富になり、ジョブやスキルやアビリティの多様性も考慮しなければいけなかった。
中野の最大手クランの一角。
覇王傘下の中でも武闘派で知られる〝虎武羅〟の敗因は、刻一刻と変化する東京への適応力の無さである。