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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
東中野ブロック
177/225

躍動②


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ほう! ほうほうほう! 『憤怒の赤水晶』か! 小僧、よくこんな珍しい水晶を見つけてこれたな!」


 中野駅前のアーケード街。

 その中程に、数人のドワーフが営む工房があった。


 高田馬場の大工房に比べて小規模なその工房の軒先で、大河は職人の一人と向き合っている。


 工房の中では別のドワーフと健栄が、盾やハードブレイカーを囲んでなにやら話し込んでいた。


 数日前に初期の『咎人の剣』からハードブレイカーへと成長させた健栄は、多少ドワーフたちに顔を覚えられていたらしい。


「合成条件は満たせていると思うんだ。レベルは30に到達したし、水属性の属性紋も持っているからさ」 


 そう言って大河は、自分の右手の甲に刻まれた『咎人の剣』の紋章を見せた。

 デフォルメされた西洋剣の周りに、2種類の文字が間隔を空けて刻まれている。

 日本語でも英語でもない楔形のその文字は、小さな物はあの湖畔の集落でノームたちから刻まれた物で、それより少しだけ大きい方は池袋の解放イベントをクリアした報酬で、地雷天使ラナから貰った物だ。


「どれ見せてみろ……ふむ、こっちは土属性の初期紋に……お前、これは〝水精の祝福印〟か!!」


 興奮気味のドワーフは、手に持った大型の槌を作業机の上の鉄板に振りかぶり、鈍い音を打ち鳴らした。


「良いぞ良いぞ! 独立してここに店を構えてから随分経つが、祝福持ちの巡礼者(プレイヤー)なぞ初めて見るわい! なぁ小僧、この仕事ワシに任せてくれんか! 我が工房の持てる全ての技術を使って、最高の〝ファングオブカラミティ〟を打って見せるぞ!?」


「あ、ああ。そういや、初期紋と祝福印って何が違うんだ?」


「ふむ、属性剣には(ランク)があってな。格が上がれば上がるほどに剣が要求する精霊の力が増加する。初期紋はその名の通り、属性剣の初期段階までしか十全に扱えん。だが祝福印なら相当する属性のほぼすべてを使えるようになるな。いや大したもんだ。その若さで精霊の祝福を受けれるなど、お前かなりの腕利きなんじゃな」


 ドワーフの説明を受けても、あまりピンとこない。


(ここらへんの設定の小難しさ……(あいつ)らしいっちゃらしいんだが……めんどくせえな)


 大方、妄想上であれどゲームの難易度を調整したかったのだろう。

 凝り性な親友の性格を良く知る大河は、健栄にバレないように苦笑した。


「どんくらいかかる?」


「ふむ、最低でも五日はかかるが……まずはお前の剣を見せてみろ」


「剣によって変わるのか?」


「どれだけ使い込んでいるか、またどういう出来かで大分変わるな」


(設定が無駄に細けえ……)


 ここまで来るとめんどくささが勝つ。


(なるほど、自分でクソゲーと言うだけの事はあるわ。こんなゲーム、流行らないだろ)


 巡礼者(プレイヤー)側が考慮しないと行けないシステムが多すぎる。

 もし本当にゲームとして発売されていたら、おそらくネットでかなりの顰蹙を食らっていたはずだ。


「【抜剣(アクティブ)】」


 大河の詠唱と共に、その右手に大きな両手剣──ハードブレイカーが顕現する。

 思えば長く愛用していた剣だ。

 ずっと扱いずらいと思っては居たが、もうじきその姿を変えるとなると、少しばかりの愛着から来る寂しさが出てくる。


 名残惜しさを感じつつも、目の前のドワーフへと躊躇なくハートブレイカーを手渡す。


 受け取ったドワーフはその諸刃の剣身や柄をまじまじと見つめ、ひっくり返したり突然大振りしたりと細かく品定めを始めた。


「ふむ……この剣を打ったドワーフはだいぶ腕が良いな……強化素材との合成も無駄のない……いや、これは……まさか……」


 その声から徐々に勢いが減っていく。

 やがてハードブレイカーを持つドワーフの手が、小刻みに震え始めた。


「こ、小僧……こ、こここ、これはどこの工房で打ってもらった剣だ?」


「高田馬場の大工房だけど……」


 その言葉に、目の前のドワーフはびくりと大きく肩を動かし、そしてそっとハードブレイカーを大河へと差し戻した。


「すまん小僧。ワシにはこの剣、打ち直せん」


「え?」


「大工房の職長はワシの師匠だ。あの人が仕上げた物に下手な癖など付けたと知られたら、きっと殺される……」


 さっきまでの威勢はどこへやら。

 めっきり怯えてしまったドワーフの顔色が、酔いの赤さから蒼白へと瞬時に切り替わっていた。


「じゃ、じゃあこれ……どうすんの?」


 もうすでにケイオスの皆と会議をし、大河の剣を成長させることが計画に組み込まれている。

 誰も持っていない特別な剣を持つクランリーダーとして同盟の旗印に立つ事で、威厳を示す算段だった。


 最悪、今のハードブレイカーのままでも大河自身の力量を見せつければなんとかなるが、わざわざ同盟者たちの前で戦闘を繰り返すのはやはり面倒だ。


「あ、明日まで待て。今から大工房に遣いを送る。『憤怒の赤水晶』を使ってファングオブカラミティを打てると聞けば、あの方々は嬉々としてここまで来てくれるはずだ」


「中野に来てくれるのは有り難いんだけど、そしたら職長たちは馬場に戻れなくならないか?」


「いや、我々ドワーフはクラン・ロワイヤルのルールに抵触しない存在じゃ。だからこの街を自由に出入りできる。あれはあくまでも巡礼者(プレイヤー)たちのための祭りじゃからな。ワシらなら聖碑を使って、一瞬で移動できる」


 ぴくりと大河の眉が動く。


「聖碑、やっぱあるんだなここに」


「あるに決まっておろう。鎮魂の祭司ケストゥーラの女神様への献身を舐めるでないわい」


 鎮魂の祭司ケストゥーラとは、聖碑の表面に掘られた祈りの詩を掘った人物だ。

 どの聖碑にも必ず彫られているその詩の最後に、ケストゥーラ本人の署名がしっかりと彫られている。


「いままで一度も見かけなかったんだけど、どこにあるんだ?」


「この街の聖碑はたった一つでな。街の中央、あの〝征服者の祭壇〟の頂上にしか無い。巡礼者(プレイヤー)が使用するには征服者──今ならクラン『覇王』の奴らの許可が必要だが、ワシら妖精はんなもん気にせずに使っとる」


「〝征服者の祭壇〟……あのピラミッドか」


 大河はドワーフから視線をズラし、道の向こうへと顔を上げた。


 工房の軒先、並び立つ大小さまざまな建築物の隙間から、その姿ははっきりと見える。


 中野のどこからでも目立つ巨大な台柱。

 苔むして緑色に染まったどこか厳かなその祭壇は、この街の現在の支配者である『覇王』が拠点として牛耳っていた。


「分かった。明日まで待つよ。昼くらいに来ればいいか?」


「もっと早くても良いぞ。災禍の牙を手掛けられると聞いた師匠たちは居ても経ってもいられずに全てを放り投げてここに来るだろうからな」


 顔馴染みの大工房の職人たちのそんな姿が簡単に想像できて、大河は困ったように笑った。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「つまり戦闘に関係ない技能ってのがあって、料理とか裁縫とかをやり続けてればいずれ身につくって事?」


「うん。大河も廉造くんもそう言ってた。だけどかなり時間がかかるかも知れないんだって。私も東京がこうなってから、ずっと大河の為にお料理してるけど、『調理技能』が身についたのは昨日だもん」


 ケイオスアジト三階の家庭科実習室。

 朝食で出た洗い物を片付けながら、悠理と愛蘭は束の間の休息を雑談に興じている。


「廉造くんの考察だと、お料理に使ったドロップ食材の種類によって習得期間が変わるんじゃないかって。手に入りにくい食材を使ってお料理したり、大量に仕込みしたりで熟練度の取得数が違うと思うの」


「なるほど、そうよね。瞳もアンダードックだった頃からずっと調理班やってるけど、そんな技能なんて手に入れられてない。この中野でウチら手に入れられる食材なんてたかが知れているからね」


「でも戦闘と違って、ずっとやり続けてればいつか手に入るって気が楽じゃない?」


「……子供たちに、色々させてみようかしら」


「あ、良いかもね。まだ戦えない子たちに色々な技能を身に付けされるのは確かに大事だよ」


 悠理はそう言って、一番最後に洗ったお箸などの細かい食器を水で流し、水切りカゴのポケットに差し込んで蛇口を捻る。


 愛蘭に手渡されたタオルで手を拭き、軽く礼を述べて近くの椅子に腰を下ろした。


「あ、あの……」


「ん? どうしたのいくみちゃん」


 悠理の作業をじっと眺めていたいくみが、おずおずとエプロンの裾を引っ張る。


「と、図書室のどこかに、スキルについての本があると思う……ヨル子に支配されていた時と違ってかなり狭くなったけど……まだあの本の存在は感じられるから……」


「え、本当?」


「う、うん……どの棚にあるかまでは……本が多すぎて細かく感知できないけど……あるのはわかる……戦闘系のスキルの本とか……非戦闘系の技能(スキル)の本とか……あとジョブについてとか……剣についてとか……色々探せばあるよ……」


 いくみのその言葉に、悠理と愛蘭は顔を見合わせた。


「子供たちの力を借りて、図書室で探し物しなきゃね」


「一気に私たちのお仕事が増えたね」


 困ったような、しかしどこか嬉しそうな表情で、二人は笑った。


「愛蘭さん! 悠理ちゃん!」


 そんなのんびりとした家庭科実習室に、香奈の友人──瞳が血相を変えて飛び混んできた。


「ちょ、ど、どうしたの瞳」


 息を切らせて目に涙を浮かべる瞳の姿に、愛蘭が慌てて駆け寄る。


「あ、あの子たちが……昨日リーダーがっ、リーダーが助けた子たちがっ」


「落ち着いて。ゆっくり喋りなさい」


 震えるその脊中をやさしく撫でながら、愛蘭は努めて穏やかな口調で瞳

を宥める。


「ふぅっ、ひっく、ご、ご飯とお茶を持っていったの……っ! あの子たちも辛い目に遭ってきたから、私ならっ、同じ思いをした私なら話を聞いてあげれると思って! 身体を拭いて上げたりっ、髪の毛を整えてあげようって、思ってたのに……っ! 思ってたのに!」


「……そう」


 取り乱す瞳の姿に、愛蘭は察する。


「二人、一番若くて、一番怪我が酷かった子たちがっ、か、カーテンで! 首をっ、首をっ!」


「分かった。大丈夫よ瞳。貴女はよくやったわ。後はウチがやるから、貴女はここで──」


「あの子たちの気持ちっ! 一番理解できてあげれたの私なのに! 私だったのにぃっ! ずっと側にいてあげたら! ついていてあげれたらっ! こんな、あんなっ!」


「瞳、落ち着いて。落ち着きなさい。誰のせいじゃないの。悪いのは貴女じゃない。あの子たちに酷いことをした人でなし達よ。だから大河が殺したの。ウチらのリーダーは、あんな事を絶対に許さない人よ」


「ああああっ!! あああああああああああああっ!!」


 ついに床へと崩れ落ちた瞳を、愛蘭は強く抱きしめる。


「悠理……」


「……うん。私と何人かで行ってくる。あと、大河には戻るまで黙っててほしい」


 愛蘭の目線ですべき事を理解した悠理は、素早くエプロンを外して椅子から立ち上がる。


 愛蘭は黙って頷き、泣きじゃくる瞳の頭や脊中を優しく撫でた。


「いくみちゃん。子供たちをあの部屋に近づけさせないでね」


「……うん。みんなと体育館に行ってくるね」


 悠理といくみが二人揃って家庭科実習室を出る。


 昨日大河が助けた女性たちは、男と顔を合わせないようにと男部屋から一番遠い二階の奥の部屋へと案内していた。

 

「……大河。これは、大河のせいじゃないよ」


 きっと助けきれなかった事を自分の責任と思い悩むであろう恋人の顔を思い浮かべながら、重い足取りをなんとか急かし、悠理はいくみを連れて廊下を駆けていく。

なんかカクヨムの方で「タイトルが分かりづらい」とレビューを頂きました(評価としてはめちゃくちゃ良いお言葉を頂いた)。

やっぱタイトルとあらすじで損してるらしいっすυ´• ﻌ •`υ

もし宜しければこのタイミングで評価とか感想とかレビューを頂ければ、タイトルに難があるこの小説も少しは陽の目を見れるのではなかろうかと画策してますので、協力できる方お願いします!!!(必死)

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