ダンジョン型拠点と生体コア①
ゆっくりと更新ペースを取り戻していきます。
しばらくは二日置きとかになりそう。
ごめんなさいυ´• ﻌ •`υ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「やった! 千春がやったぞみんな!」
天井を見上げる祐仁が叫ぶ。
その言葉に、絶えずドラゴンの頭を粉砕し続けていた大河と海斗が、口元を笑みで歪めた。
大量の汗を描き、荒い呼吸で喉を鳴らしながら、その姿はあまりにも満身創痍だ。
もはや喜びの声を挙げる事もできないほど疲弊している二人は、未だ残る文房具ドラゴンに最後の一撃を加えようと同時に構える。
しかし──。
「兄貴! 大河! 逃げろぉおおおおおっ!」
──廉造の叫びが、部屋中に響き渡る。
「なっ!?」
祐仁が目を見開いて、身体を硬直させた。
千春が砕いたペン立てから、その小さな器からは想像もできないほど大量の文房具を吐き出す。
その勢いは爆発に似て、一つ一つの文房具がまるで弾丸の如き速度で真下へと飛び散った。
「──くっ!」
「──マジかっ!!」
疲れ切った身体は反応を鈍らせる。
そして大河は見た。
今までずっと頭を砕き続けていた文房具ドラゴンの胴体が、今にも弾け飛びそうなほど一気に膨張している。
「こっちもかよ!」
「海斗さん! 祐仁さん! 身を守れぇええええっ!!」
鉛の様に重い身体では、フレシェット弾の如き文房具の雨の爆撃範囲まで逃れられない。
大河はハードブレイカーを頭上に掲げ、左手の盾で頭を庇う。
一番無防備な祐仁を守ろうにも、今の大河の位置からは手が届かない。
大河の意図を察した海斗は祐仁の襟を乱暴に掴み、地面に伏せさせその上に覆いかぶさった。
やがて来るであろう絶え難い痛みに覚悟を固め、奥歯を噛み締めて身を縮める三人。
そして刹那の間を置いて、文房具の雨が無惨にも三人に迫りその身を抉ろうとした──その時。
「【シールドバッシュ】!!」
大河の身体が何かに弾かれて、海斗と祐仁の元へと吹き飛ばされる。
「──健栄さん!?」
顔を上げた大河が見た物は、郁を連れた健栄が左腕のラウンドシールドを頭上に掲げる様子だった。
「【防護】!!」
「【防護】!!」
悠理と郁の声が、同時に響く。
悠理は大河、海斗、祐仁の周囲に。
郁は健栄を中心として。
それぞれが展開した防護フィールドが、重なり合う。
「みんな頭を下げて!」
ヒーラーズライトを頭上に掲げた悠理の叫びとほぼ同時に、ガガガッと言う何かが削り取られるような音で地面が揺れる。
「悠理!」
「私は大丈夫っ! だけど郁さん達が!」
響き渡る掘削音は、降り頻る文房具が【防護】の防御フィールドにぶつかってい音だ。
大河は再び健栄と郁へと顔を向けると、『咎人の剣』を胸に抱えた郁に覆いかぶさる様に、健栄は盾を頭上に構えていた。
「こっちも大丈夫だから! 健栄さんが守ってくれてる!」
「ワシにできる事なんざこれくらいだからな!」
防御フィールドが削り取られて消滅するのが先か、文房具の暴威が収まるのが先か。
もはや祈る事しかできない。
廉造と千春の安否を気になるが、今の状態では二人の姿を確認する事も難しかった。
「ぐぅうううっ!」
「悠理! 郁さん! 頑張れ!!」
発動後のスキルに対して頑張れと言うのもおかしな話だが、今の大河にできる事はこれだけだ。
時間にして数十秒。
だがその短い時間が、皆にとって無限にも感じられた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
やがて校長室全体に静寂が訪れた。
薄暗かった天井付近に、優しげな暖色の灯りが一つ。
そしてまた一つと増えていく。
明るくなった室内の床には夥しい数の様々な文房具が突き刺さり、ヒビ割れている。
「……た、助かったのか?」
誰かがぼそりと呟いた。
「み、みんな怪我は!?」
大河はふらつく身体を押して慌てて立ち上がり、皆の様子を見る。
「お、俺は大丈夫だ。だがもう指一つ動かせねぇ……」
祐仁の背中に覆いかぶさった海斗がよろよろと右手を挙げて、力無く応える。
「お、俺は海斗さんに守られたから、へ、平気だ」
その身体の下で祐仁が声を震わせて返事をした。
「悠理──わっ!?」
「私のことより大河だよ!! 早くそこに座って!」
悠理はいつの間にかアイテムバックから白い布を取り出し、大河に掛ける。
その布ごしに身体を押された大河が、ゆっくりと地面に押し込まれて座らされた。
「いつも! いっつも無茶ばっかりして! 私怒っているんだからね!」
自分の身体に血が付いてしまうと、回復魔法の効果が大きく減衰する。
そんなヒーラーズライトの特性対策として密かに用意していたシーツ。
悠理はそのシーツの端を手繰り寄せると、優しく大河に巻きつけた。
そしてヒーラーズライトを構え、【看護】を唱える。
「あ、ああ……ご、ごめん……」
涙目で怒る悠理の迫力に圧倒されて、大河は呆気に取られる。
「えっと……健栄さん! 郁さん!」
立つとまた悠理に怒られそうだったので、座った状態で声を張り上げて二人の安否を問う。
「私は大丈夫! 健栄さんが酷い怪我なの!」
すぐに返事をした二人を見ると、腹や腕から大量の出血をしている健栄に郁が回復魔法を使用していた。
「いてて……し、心配するなリーダー。リーダーや廉造に比べれば大した傷じゃない……」
「何言っているのよ! お腹や腕なんて酷い血じゃない!!」
「なぁに、郁さんの魔法のお陰でこの程度で済んだんだ。死んで無いだけ儲け物だろう?」
「わ、私の魔法がもう少し強かったら、最後まで保ってたら……貴方が私を庇ってこんな傷を負わなくても済んだのに……」
「おいおい、たった今あんたを誉めたばかりじゃないか。あんたは自分が思ってるより良くやっている。戦闘に全然貢献できなかったワシに比べれば大したもんだ」
「何言っているのよ……貴方が守ってくれなかったら、私はここに居ないわ……ありがとう……」
「よせよせ。照れくさい。リーダー達に比べたらワシなんて何もしてないに等しいと言うのに」
いつの間にか会話の輪から外された大河は、二人のやりとりを聞いてとりあえずは問題無しと判断する。
「廉造! 千春! どこだ!」
今度は天井を見上げて叫ぶ。
「廉造!」
返事が無い。
「千春!」
返ってこない。
「──くそっ!」
いつまで立って聞こえてこない二人の声に焦れた大河が、またふらふらと立ちあがろうとする。
「大河! まだ立ったらダメだよ!」
「あいつらを探さないと! 立てないくらい怪我してるかも知れないじゃないか!」
「そ、それは……」
「廉造! 千春! 返事をしろ!」
徐々に明るくなって来ている校長室の、その広い室内を見渡す。
四隅まで行き渡るほどの光量はまだ無く、部屋の奥の壁すら暗闇に覆われていて視認し辛い。
大河は覚束ない足取りでよろよろと動き出し、声が聞こえない二人の姿を見つけようと歩き回った。
その後ろから魔法をかけ続けている悠理、そして遅れて立ち上がってきた海斗と祐仁が続く。
最後に郁に支えられた状態の健栄も連なり、皆で一塊となって廉造と千春の姿を探し求める。
「千春ちゃん! 廉造くん!」
「おい返事を知ろって馬鹿!」
「いてて……千春ちゃん! 廉造!」
「千春ぅー! 廉造くーん!」
みなが声を張り上げながら、姿を現さない二人の安否に不安を募らせる。
「千春! れんぞ──廉造!」
見つけたのは、先頭を歩く大河だった。
「お、おい! 廉造! 廉造!!」
身体中に文房具が突き刺さったままの廉造が、壁の背中をもたれかけて顔を伏せ座っている。
「廉造! 返事をしろ廉造!」
大河が慌てて近づいてみると、廉造は千春を抱えた状態で気を失っていた。
「悠理! 郁さん!」
「うん! 郁さん! 二人でやろう!」
「ええ!」
悠理と郁が駆け寄り、その身体にそれぞれ回復魔法を使用した。
悠理の【看護】と郁の【治癒】を同時に使用し、その相乗効果により廉造の身体が急速に回復していく。
「ど、どうだ?」
「うん……大丈夫。廉造くんは酷い怪我だけど、千春ちゃんは頭を打ったショックで気を失っているだけだと思う」
悠理は大河の問いに魔法を使用したまま答えた。
「廉造お前……千春を庇ったんだな……」
「後で褒めてやらなきゃな。それでこそ俺の弟分だ」
祐仁と海斗のそんなやりとりを聞きながら、大河は大きく脱力をして座り込んだ。
「はぁああ……な、なんとか全員無事──ってわけでもないけど、死なずに済んだな……」
やり遂げた達成感よりも、疲労感と開放感が強い。
未だに痛む節々を庇いながら、大河は床に大の字になって寝転んだ。
海斗も、そして祐仁と健栄も。
同じ様に脱力し、床に身体を倒して大きな安堵のため息を吐く。
東中野第二小ダンジョン──ダンジョンボス。
攻略完了である。




