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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
東中野ブロック
166/232

ヨル子はお前だ!⑥


「さっすが兄貴頼りになるぅ!!」


「ハッハー!! 当たり前ヨォ!!」


 勝ち誇った表情の海斗が床に着地し、ハヤテマルを雑に振る。

 時代劇で見るような刀にこびり付いた血を振って拭う所作であるが、これは海斗の唯の癖である。


「油断するなよ二人とも! きっとコイツは──!」


 床にバラバラに散らばった文房具たちが、まるで動画の逆再生のように再びドラゴンの姿へと戻っていったのは、大河の叫びと同じタイミングであった。


「──やっぱりな!!」


 大きな舌打ちを一つ、大河は憎々しげに文房具ドラゴンを見上げる。


「なんだよそれ! ズルだろこんなん!」


「コイツはモンスターじゃなくて ただのボス戦のギミックなんだ! 勝利条件を満たさないと永遠に再生し続けるぞ!!」


 海斗の怒号に応えながら、大河はすばやく立ち上がり体勢を整え、文房具ドラゴンに向かって駆ける。


「俺と海斗さんでコイツを足止めする! 廉造はみんなと一緒にペン立てを探してくれ!!」


「何度だってぶっ壊せば良いんだろ!? 壊すのは得意なんだよ俺ぁ!」


「兄貴、水道工より解体屋の方が向いてたんじゃない!?」


 大河の指示に、二人は瞬時に動いた。


 海斗は大河と同様に文房具ドラゴンに向かって、廉造はそれとは逆方向へと走る。


「海斗さん! ダメだ! この幽霊、斬っても魔法を撃っても攻撃がすり抜ける!」


 部屋の奥、豪華な執務机の上に座る本当のヨル子──真・ヨル子の前で、祐仁が声を震わせて叫んだ。


「やっぱダメか! すまん祐仁! お前も廉造と一緒にペン立てを探せ! 他のみんなにも知らせろ!」


 海斗は動き出した文房具ドラゴンの突撃を避けながら、祐仁に応える。


「千春、聞いてましたよ! このお部屋の中にあるんですか!?」


 いつの間にか大河の横で剣を構えていた千春が、目を爛々と輝かせている。


「千春!? お前、なんでここに!?」


 文房具ドラゴンの首をハードブレイカーで両断しながら、大河は目を見開いて驚く。


「このドラゴンさんが現れてから、全然文房具が降らなくなったんです! 健栄さんの回復が終わりしだい、悠理さんたちもこっちに来ますよ!」


「お前は少し下がれ! ここはお前には危険すぎる!」


「いいえ! 千春はリーダーみたいなヒーローになるんです! ここで怯んでちゃ何もできない! 昨日までの千春と何も変わりません! 勇気を出して、前に進むんだ!」


「お前、何を言って──くっ!」


 大河の言葉は再生したドラゴンの胴による一撃で遮断された。

 ハードブレイカーと左腕の盾を交差しそれを防いだ大河が吹き飛ばされる。


「ペン立て、ペン立て……どこにあるんですかペン立て!」


 ドラゴンを見て、次に周りをキョロキョロと見て、またドラゴンを見て。

 千春は慌ただしく首と目を動かしながら意味も無く走り続ける。


 明らかに場に乱されている千春の目では、おそらく小さいであろうペン立てをこの混乱した状況で探し出すことは不可能であろう。


(何を焦ってんだコイツは!!)


 吹き飛ばされた痛みを歯噛みして耐え、大河は空中で姿勢を整えて床に綺麗に着地した。


(落ち着け! 俺まで空気に飲まれたらおしまいだ! そもそもなんで探し物がペン立てなんだ!? こういうタイプの学校の怪談ってのは、小学生に共通する普通の物をキーアイテムにするんじゃないか!? たとえばリコーダーとか、上履きとか、体操服入れとか! いくら手作りとは言え、ペン立てなんて地味な物を探し物にした意図が──!!)


「だらぁ!!」


 思考を回している間に、海斗が再びドラゴンの頭をハヤテマルで粉砕した。


 飛び散る文房具のうちの一つ、右利き用のハサミが大河の側へと床を滑ってくる。


(──そうだ。そもそもなんでここで、文房具なんて出してきた? ここは校長室で、ペンならまだしもコンパスや分度器や三角定規なんて使うような部屋じゃない!!)


 大河の視線が、高すぎる故に暗く何も見えない天井へ映る。


(ペン立てって言われて、俺らはまず市販されている浅めの奴を連想していた! でもここで言われているのは、小学生が粘土で作った手製の物だ! だから──)


 小学校低学年の女子が、授業で作った粘土製のペン立て。

 それが市販の物と同様の機能性を重視したような綺麗な見た目をしているはずが無い。

 

 自分がまだ小さかったころ、図工の授業で何かを作るとき、どのような物となったのか。

 大河は思いだす。


 たとえばお椀を作れと言われて、出来上がった物は普通のお椀よりもはるかに巨大で歪な物だった。


 そう考えた時、もしかしなくても──ヨル子の作ったペン立てとは、とてもペン立てに見えないような大きな物だったのではないだろうか。


 そう、それはペンどころかいろんな文房具が差し込めるような。

 ハサミや、彫刻刀や、三角定規に、コンパスなども。


 高レベルによる研ぎ澄まされた大河の感知能力が、集中して見ることにより暗所ですらその存在をくっきりと捉えた。


 暗い天井の、ど真ん中。

 それは文房具ドラゴンの巨大で長い胴の根本。


 徐々に細くなっていくその先に、それは浮いていた。


「──見つけたぁ!!」


「なにっ!?」


「ど、どこですか!?」


「このドラゴンの根本! 文房具の雨もこのドラゴンも! ペン立てから飛び出して来てたんだ!」


 この場にいる全員の視線が、ドラゴンの胴のその先──天井ギリギリを浮いている不恰好な形の歪なペン立てへと集まった。


 それはおそらく、元はジャムかなにかの瓶だったのだろう。

 その周りを紙粘土でゴテゴテに装飾し、乾かして固めた後に絵の具で色を塗った物。


 まさに小学生が図工の時間に作れるであろう、ペン立てと言い張ればペン立てであるし、花瓶と言われた瞬間に花瓶に変わるようなクオリティ。


「やっぱりペン立てがキーアイテムであり、元凶だ! 俺らはこのイベントの中間のストーリーをすっ飛ばしている! 本当なら色々なヒントを集めてここにたどり着くはずなのに! 合流する事を重視しすぎたせいで殆ど見落としてる!」


 大河はハードブレイカーを右肩に構えて走り出す。


「たぶん、物語を進めたらあのペン立てがどういう謂れを持つのかが書かれていたはずだ! それでわかるようになるんだ! つまり──!!」


 そして勢いよく跳躍し、ドラゴンの胴に飛び乗った。


「──あのペン立てに取り憑いた女の子の悪霊! つまりヨル子の本体はペン立てだ!!」


 どこか危ない笑みを浮かべながら、大河はドラゴンの身体を駆け上り天井へと昇っていく。

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