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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
東中野ブロック
159/233

迫り来る①



 加賀谷 廉造

 三日前69ハチ:453

【この音、そっちなんかした!?】


 加賀谷 廉造

 昨日9j3:59

【なにこの時間表示】


 加賀谷 廉造

 二日前L98:壱2

【バグってる】


 常盤 大河

 十四日前 JIO:99九9

【多分なんらかのイベントのフラグを踏み抜いたと思う。図書室の奥で日記帳を見つけた。ヨル子って幽霊に探し物を頼まれた女の子の話が書いてあって、読み終えた途端にこの音がした。そっちは?】


 加賀谷 廉造

 三年前 6693:0ゼロ0

【こっちも先生の業務日誌にヨル子さんって名前を見つけた。昔からこの学校で語られてる怪談で、放課後に黒い服の女の子に話しかけられて、ペン立てを探すようお願いされるんだ。断ったら大丈夫なんだけど、一度でも一緒に探し始めたら見つかるまで無理やり学校に閉じ込められるって感じ】


 加賀谷 廉造

 今日 MMMM:O0IO

【何年かに一度定期的にこの話が学校中に広まって、同時期にヨル子さんに会ったって生徒が増えるらしいんだ。その年に必ず数名の行方不明者が現れるから、この学校の先生達はヨル子さんの目撃情報が出たら学校を休ませたりするみたい。ちなみに行方不明者は全員女の子】


 常盤 大河

 明日 075九:IIIP

【こっちの日記帳も似たような内容だった。マコって女の子がヨル子に遭遇してから学校を休まされてお祓いを受けて、でもいつの間にか学校に呼び戻されるってストーリーだ】


 加賀谷 廉造

 3五年後 89:02

【どう思う? これ、探し物を見つけるタイプのイベントだよな?】


 常盤 大河

 八9年前 12:03

【俺もそう思う。しかもタイムリミット付き。今お前どこだ?】


 加賀谷 廉造

 今日 12345:45678 

【今はさっきの職員室前の廊下。調べ物をしている最中ずっと書類とか紙が襲ってくるから、資料だけ持って廊下で読んでたんだ。モンスターは相変わらず襲ってくるけど、こっちの方が楽でいやちょっと待って】


 加賀谷 廉造

 十日前 IJBJ:九J45

【校長室が消えてる】


 加賀谷 廉造

 今日 8:000

【ていうか、職員室も消えてる。普通の教室になってる】


 常盤 大河

 8日前 LLL:61

【そこから変に動くなよ。こっちでも確認する】


 加賀谷 廉造

 8888日前 1111:666

【了解】


 常盤 大河

 四年前 3:四9

【最悪だ】


 加賀谷 廉造

 昨日 00:876

【なんだよもう】


 常盤 大河

 二時間前 Y59:壱3

【一階に戻されてる】


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ど、どういうことですか!? なんで玄関と下駄箱がここに!?」


 廉造の報告を確認してすぐに図書室を出た大河たちが目にしたのは、この校舎の入り口だった正面玄関と大量に並べられた下駄箱だった。


「大河! 外を見て!」


 悠理の声に玄関扉から先へと視線を移すと、血のように真っ赤に染まった空が見えた。

 自然現象としてはあまりにもおかしい、赤黒い空。

 中天に浮かぶ太陽は目が錯覚を起こすほど黒く、雲は青ざめている。


「これは……?」


 大河はすぐに玄関扉へと駆け寄り、意を決して右手を外へと突き出した。


「──っああもう! 出られなくなってやがる!」

 

 その右手はすぐに見えない壁に阻まれ、そこから先へ数ミリも動かせない。


「入れ替わる部屋に、出られなくなった校舎……探し物のペン立て……日記……幽霊の女の子……くそっ、ヒントはたくさんありそうなのに!」


 壁をぺたぺたと触りながら、大河は必死に今まで得た情報とこの状況を整理し始める。

 日記の内容や最後に浮かび上がった血文字から考えるに、巡礼者(プレイヤー)がヨル子の探し物を探し当てるイベントであろう事は察している。


 しかしこの広いダンジョンの中で、肝心要な小さなペン立てを探し見つけるための情報が不足していた。


「どどど、どうするんだ!? 海斗さんたちとも離されて、外にも出れないなんて!」


「おおお、落ち着いてください祐仁くん! リーダーが考え事をしていますから!」


「大河! 向こうからのっぺらキッズが走ってくる!」


「うわっ! こっちからはぬりかべグラフィティが!」


「な、なんなんですか次から次へと!」


 めまぐるしく変わる状況に、皆が混乱し始める。

 大河はハードブレイカーをぎゅっと握り締め、一度大きく深呼吸をした。


 茹だった思考では何をどう考えたところで事態は好転しない。

 努めて冷静に、そして効率よく。

 

 今やるべき事の優先度を設定しなければならない。


「──ふぅうううっ、悠理!」


「はい!」


「廉造と常に連絡を取り合っていてくれ! 向こうも多分似たような事が起きて混乱しているはずだ! アイツの手が空いてないようなら郁さんでもいい! とりあえずは俺らと合流する事だけを考えろって伝えてくれ!」


「うん! 分かった!」


「祐仁さん!」


「お、おう!」


「さっきの日記、念の為全部見直してほしい! 今のところアレが最大のヒントだ! きっとペン立ての場所を示す情報が書かれているに違いない! しばらくはそっちに専念してくれ!」


「ま、任せてくれ!」


「千春!」


「なんでしょうか!」


「俺とお前で道を切り開くぞ! メインは俺でお前は補助! 絶対に先走るなよ! 悠理を中心に隊列を組んで、上の階を目指す! とりあえず今はあのモンスター共を蹴散らすのに集中!」


「かしこまりました! 千春は頑張りますよ!」


 大河の指示に素早く対応し、陣形を組み直す。


 スマホを片手にメッセージを打ち込む悠理。その隣に日記帳を真剣に読み解く祐仁。

 先行してのっぺらキッズの群れへと走る大河と、その後ろを必死についていく千春。


 ある程度まとまった群れを倒すとすぐに悠理の元へと急ぎ、そこからまたモンスターの群れへと迎撃に出る。


 振り出しに戻ったダンジョン攻略。


 戦い慣れし始めた千春と、自分の役割を自覚し始めた祐仁。


 大河はそんな二人を頼もしく思いながらも、胸のうちに渦巻く得体の知れない不安感を払拭しきれないでいた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「廉造くん! 悠理さんからメッセが来たわ! とりあえず向こうと合流する事だけを優先して動いてほしいって! あと連絡はずっとし続けてほしいって書かれてる!」


「了解! 兄貴、ここから移動しよう!」


「おう!」


 一方、廉造達は同じようにモンスターの襲撃に遭っていた。


 明らかに先ほどよりもモンスターの出現率と、強さに変化が出ている。


 襲い掛かるのは飛頭蛮(ひとうばん)パイアの群れと、自由自在に手足を分離させ個別に攻撃を繰り返してくる鋼鉄マグネ人体模型。

 

 動きが速く数の多い飛頭蛮パイアは攻撃速度と手数に優れた海斗が担い、一撃一撃の攻撃力が高いが動きが遅い鋼鉄マグネ人体模型は盾を持つ健栄がカバーしている。


「俺らのパーティーは機動力に偏りがありすぎるから移動速度が遅い! だから先頭は俺! 郁さんの護衛は健栄さん! 後詰めは追いつかれた時に対応できる海斗兄貴のフォーメーションで行こう! 避けられる戦闘は極力避けて、大河たちとの合流を最優先に! 郁さんは俺らの回復をしながら悠理と報・連・相を絶やさないで!」


「わ、わかったわ!」


「頼んだぞ海斗!」


「任せとけ! 後ろから来る敵は俺が一つ残らず片付けるから、お前らは振り向かずに進み続けろ!」


 廉造の指示に一向は手早く隊列を立て直し、大河たちとは逆方向──出口へと向かって走り出す。


「健栄さん! この状況だと【戦いの詩(ファイトソング)】ならまだしも【ヘイトステップ】が使い辛い! もしかしたらそっちに攻撃が来るかもしれないから、その時は遠慮なく僕に助けを求めてね!」


「了解した。心配するな遠峯さん、アンタだけは守り抜いてみせる。回復できるアンタがいなけりゃ、ワシらは終わりだからな」


「う、うん。でも健栄さんも気をつけてね。怪我なんて、しないにこした事は無いもの……」


 健栄の言葉に頷きながらも、郁は今自分が言った言葉の空虚さを自覚し顔を伏せる。


 海斗と廉造二人だけならまだしも低レベル二人を連れたこのパーティーにおいて、筋力と持久力に劣る自分が一番の足手まといである自覚がある。


 いかに海斗が手練れであろうとも、混乱を極めたこの状況で全てをカバーできるとは思えない。


 健栄はきっと、そんな自分を守るために無茶をするのだろう。


 だからさっき郁が言った言葉は気休めにしかならない。


「なぁに! ワシを見くびって貰っては困る! どんな現場でどんな事故に遭おうとも、翌日には平気な顔して出勤してきた男だぞ!? まぁ、職場がドブラックだったって事でもあるがな! 肋骨を折っても建材の荷上げを続けたこの根性と痩せ我慢はピカイチだ!」


 そういって健栄はしわくちゃな顔をさらにしわしわにして笑った。


「嫌な現場だなぁおい! 誰も止めなかったのか!?」


「お前も職人を続けてたら、そんな現場腐る程踏んでいただろうな! 建築業界の闇の深さは果てしないぞ!?」


「芸能界の闇の深さもすんごいよ! そりゃもう反吐が出るくらい!」


 迫り来るモンスターたちを切り伏せながら、三人はそんな軽口を笑いながら言い合う。


「──っ! もうアナタたち! 少しは集中しなさい!」


 その余裕さが頼もしく、そしてどこか可笑しくて。


 いつの間にか笑っていた郁だった。

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