東中野第二小ダンジョン攻略戦③
昨日の分の予約更新をミスって2話連続更新になってました。
話が飛んだなーって感じた人は、一話を見逃しているかも知れません。
本当に申し訳ないですυ´• ﻌ •`υ
ミスのせいで執筆リズムが少し狂っているので、どこかで一日おやすみを頂いてリズム修正をするかも知れません。
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大河らと別れてすぐ。
海斗を先頭とした職員室の捜索班は引き戸の扉をがらりと開けた。
入り口の上に『職員室』と書かれたプレートが掲げられていたので、間違いなくここが職員室なのだろう。
対面するように設置されたテーブルが、部屋の奥に向かってずらっと並んでいる。それが四列。
全てのテーブルの上には平積みになった教科書や書類の束、スタンドライトやペン立てに、綺麗に立てられた本がブックエンドに支えられて置かれている。
「さて、と。調べ物ってのは俺の一番苦手とする分野だ。廉造、あとは任せた」
「それに関してはワシもだな。なにせ学が無い」
「おい、ふざけんな」
あっけらかんと言い放った海斗と健栄に対して、廉造は声を低くして威圧する。
「仕方ねぇだろうが。頭が悪いから俺は肉体労働者をしてたんだ。高校なんて途中から行ってない。なにせグレてたからな」
「肉体労働者全員が頭が悪いとは言わんが、ワシに関して勉強するのが嫌で高校も行かずに働き始めた口だ。本当に申し訳ないが、文章を読むという習慣がない」
悪びれせずにそう言ってのけた二人を前に、廉造は頭を抱えた。
「せめてそれっぽい資料を探すのだけは手伝って……読むのは僕と郁さんでやるから……」
ぐったりと肩を落として、廉造は近場のテーブルに平置きされていた紙の
束を手に取る。
「そう言われてもなぁ」
「引き出しとかにしまってある奴を持ってくるだけじゃダメか?」
ずかずかと室内に入り込み、乱暴にテーブルの上を漁り出す二人。
「あはは……」
郁はそんな大雑把な二人を見て、そしてどこか青ざめた表情の廉造を見て、苦笑するしかなかった。
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「少し急ぐから、俺が先頭に立つ。千春は悠理の護衛。祐仁さんは後方警戒をよろしく」
「はい!」
「ま、ままま、任せてくれ!」
二人が思い思いの了承の言葉を述べたのを見て、大河は悠理に向かって静かに頷く。
「よし、行くぞ」
海斗たちが職員室の扉を潜ったのを確認して、大河たちは動き出した。
「今のカッコよかったです! 無言のアイコンタクト! 何も言わなくても分かり合えてる感じ!」
足早に廊下を進みながら、千春は目を輝かせて悠理に語りかける。
「そうだね。大河は結構表情で語るとこあるから、目を見るだけで何がしたいかは大体分かるかも。逆に大河だって、私が何をしたいかを先に察してくれる時もあるよ」
「ふわぁあ……相思相愛ですねぇ!」
「ふふっ、ありがと」
そういうのは本人の聞こえないところで話してほしい。
そんなことを考えながら、大河は一行の先頭を足早で歩く。
このフロアの最初の方ということは、戦っていた時間を省くと大体十五分くらい。
もし廉造たちの方で何かがあり救援を要請されたとしても、抜剣状態の大河の全力疾走なら五分も掛からないだろう。
もちろん悠理や千春、祐仁を置いていくわけにもいかないので、モンスターを全無視したとして10分。
それくらいの時間なら、要領の良い廉造や海斗の戦闘力と対応力なら充分耐えられると踏んでいる。
(自分以外に場を任せられる相手がいるって、いいな)
今までにない安心感を覚えながら、大河は図書室へと急ぐ。
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「れんぞ──憐くん。これ」
並んで書類を確認していた郁が、隣に座る廉造の肩を叩いた。
「もう面倒なので廉造で良いですよ郁さん」
名前を気にしていると伝えているはずなのに、遠慮なく本名を連呼する海斗や大河のお陰で、少しだけその名を呼ばれるのに慣れ始めている。
憐より廉造の方がとっさの時に言いやすいとは大河の談なのだが、2文字も長くなっているのに何が呼びやすいのか。
それが廉造にも分からない。
「どうしました?」
「これ、多分業務日誌なのかな? 少し気になる文章が……」
「どれどれ?」
郁が開いているのは、大学ノートにパンチで穴を開けて、それを金具で纏めている一般的なファイルだった。
廉造はキャスター付きの椅子を移動させ、郁に身を寄せて中身を覗く。
「えっと……」
「なぜか日付は平成になっているけど、ある日から生徒たちの様子がおかしいって内容に変わってきてるの。それまでは普通に教科書のどこまで進めたとかって書かれてたのに」
ゆっくりと目を動かして文章を読む廉造に、郁が補足する。
「誰もいない教室で会話をしている女の子……ヨル子さんにお願いされたから花壇を荒らした低学年女子……ヨル子さんに怒鳴られたと教室に駆け込んでくる一年生女子グループ……ヨル子さんねぇ……」
「この日を境に、この小学校の女子の間で頻繁にヨル子さんって名前が出てくるようになってる。もしかしたら、この先生以外の先生の日誌にも出てるかも」
「おっけー。僕も業務日誌を調べてみるよ。兄貴、健栄さん! 業務日誌をあるだけ持ってきて!」
日誌から顔を上げ、廉造は海斗と健栄に指示を出した。
「出来るかアホ!」
「す、すまん! さすがにこれではワシは動けん!」
ページを広げて羽ばたく書物と、剃刀のような鋭さで飛来する書類。
海斗と健栄はそれらを必死に捌きながら喚いた。
「ちくしょうなんだこいつら! 斬っても斬っても全然減らねぇ! お前らのとこに行かないようにするので精一杯だ!」
目にも止まらぬ速さでハヤテマルを繰り出しながら、海斗は冷や汗を浮かべている。
「お前らがその日誌を読み始めたら途端に動きが速くなりやがった! 間違いなくそのヨル子ってのがキーワードだ! 絶対に俺らが食い止めるからさっさと調べ物を終わらせてくれ!」
「海斗が居るからなんとかなっているが、ワシもそろそろ限界だ! その日誌、外に持ち出せんのか!?」
初期装備の『咎人の剣』と左手に装備した大楯。
ようやく慣れ始めていたそれらをなんとか駆使して、健栄は必死に飛来する書物や紙を斬り落としている。
「さっきまでの僕の苦労が理解ったか。大変なんだぞ。モンスターの注意を引きつけながら戦闘するのってさ」
「れ、廉造くんってば」
ふんっと鼻息を一つ強めに吹いて、廉造は腕を組んで椅子の背もたれを傾かせた。
郁はそんな態度の廉造を諌めようとあわあわと狼狽える。
「あーもう謝る! 謝るから!」
「仕方ないなぁ……郁さん、日誌を出来るだけ集めて、一気に調べよう」
「え、ええ! 健栄さんごめんなさい! 少しだけ私を守ってほしいの!」
「お、おう!」
廉造の指示で、郁は慌ただしく席から立ち上がった。
呼ばれた健栄がじりじりと動きながら郁の側へと移動する。
「じゃあ兄貴は僕を──」
「お前は一人でも避けれるだろうが! 俺がカバーしてる量を見てから言いやがれ!」
「──おっと、これは冗談抜きで兄貴も焦ってそうだ。急ぎますか」
「さっきからそう言ってるだろうが!」
どこか呑気な廉造の姿にこめかみの血管をピクピクとさせながらも、海斗の手は一度も止まることは無かった。