東中野第二小ダンジョン攻略戦②
すみません予約投稿ミスってて2話連続で更新されてますυ´• ﻌ •`υ
もう公開しちゃったものはしょうがないので、このまま行きます……υ´• ﻌ •`υ
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東中野第二小ダンジョンの内部構造は、極めてシンプルな『四階建て内部拡大型』だった。
正面玄関をくぐると建物の見た目以上の敷地面積になっており、最奥まで辿り着いてようやく一つ上の階に行ける仕組み。
不親切極まりない事に上昇はワンフロアづつしかできず、階段を登ると今度は入り口方面へと折り返してまた最奥を目指す。
それを四階分繰り返して、ここまでの所要時間は約四時間。
これは大河が今まで潜ったことのある新宿・池袋のどのダンジョンよりも短く、そして単純な探索行であった。
「うん、隠し階段とかも無いっぽいね」
「他に行ける道も無いし、そこらへんの教室に入っても雑魚モンスターしかいなかったです!」
悠理と千春の報告を聞いて、大河は無言で頷いて考え込む。
下三階だと階段が設置されているはずの場所には、ツヤのある黒檀のプレートに白地で『校長室』とデカデカと彫られている部屋。
状況的に見て、ここが最上階最奥──つまりボス部屋かもしくはこのダンジョンの総括であるギミック部屋だと判断できる。
「なんかダンジョンっつっても簡単にここまで来れちまったな。拍子抜けもいいとこだぜ」
「か、海斗さんはそうでも、俺は結構しんどかったんだけど……」
「祐仁はビビりすぎなんだよ。普通にしてりゃ充分戦えるってのに、ガッチガチになってりゃ動けるものも動けないだろうが」
「だって文化部だし、殴り合いすらしたことのない草食系だし……」
海斗と廉造の会話を聞きながら、大河はさらに考察を進める。
(ダンジョンに出現するモンスターの強さの平均もかなり低い……モンスターハウスや悪意のあるトラップも無かったし、途中で拾ったアイテムも傷薬とか包帯とかの店で買えるようなモノばかりだし……)
つまりここは、初心者用のダンジョンなのではないか。
今までのダンジョン攻略の経験と、この東中野第二小の状況を照らし合わせると、そう行き着く。
(この程度のダンジョンが、半年も放置されるか? オーブ稼ぎの狩り場として考えるとフィールドのモンスターよりかなり身入りが良くて効率的なのに? ギミックが一個も無いのも気になるし……)
大河の考えすぎか、もしくは何か見落としていることがあるのか。
胸につっかえたモヤモヤを晴らそうと、必死に考えを巡らせる。
「職員室が最上階にあるってのもおかしな話だよな」
「絶対では無いが、職員室ってのは普通は一階のグラウンドが見やすい位置に置くように推奨されているんだよ。外で事故や事件が起きた時にすぐ先生たちが駆けつけやすいようにな。だから校舎の一階や二階の、建物の中央に良く置かれるんだ」
海斗と健栄の会話が耳に入る。
「へぇ、健栄さんよくそんなこと知ってるわね」
「小学校の改装工事や建て替えの現場に何回か入っているからな。その時現場監督から教えてもらった」
郁に誉められたからか、健栄は恥ずかしそうに指先で頬を掻いた。
「健栄のおっさん職人だったのか。なら俺の先輩だな」
親しみを覚えたのか、それともただ馴れ馴れしいだけなのか、海斗は健栄の背中をばんばんと叩きながら笑う。
「ワシは先輩なんて言えるほどの職人じゃないよ。出稼ぎで全国を歩きながら日当で暮らしてたんだ。若い時は鳶をやってたし、基礎屋とかユンボを動かしてた時もある。一番長いのは塗装かな。なんにせよ、落ち着きのないダメな作業員だ。日銭さえ稼げればそれでよし。週末は酒と馬に夢中な、どこにでもいる日雇い労働者だよ」
浅黒でがっしりとした体型の中年男性──真志喜健栄はそう言って、不精に伸ばした顎髭をさする。
「リーダー、どうします? このまま校長室に入っちゃいます?」
「…………」
千春の問いを右手で制して、大河は考えこむ。
(今までが楽勝だったと言って、ボスが雑魚って保証はどこにもない。この世界が綾の好きだったゲームを基準に形作られたとしたら、昔のゲームみたいにダンジョンのレベルに合わせたボスじゃなくて、〝次のレベル帯のフィールドに合わせた強さのボス〟の可能性もある)
ダンジョンの道中のモンスターを基準にするのではなく、次のステージのレベルに合わせて設計されたレベルデザイン。
つまりダンジョンボスを起点に難易度を調節しているとなれば、この部屋の奥に待ち構えているボスモンスターは厄介な特性やギミックを持っている可能性が高まる。
ここが初心者用のダンジョンであって、ボスモンスターも初心者帯に合わせた強さに設定されている可能性だってもちろんある。
「大河」
深く考えすぎてドツボにハマりかけていた大河へと、廉造が声をかけた。
「もし今お前が迷っているってんなら、多分情報が足りないせいだと思う。ならここで立ち止まってても何も解決しない」
「廉造……」
「お前、あんまゲームとかやってこなかったタイプだろ。こういう場合、どっかにボスモンスターに関する記述や資料が隠されているのがゲーム的なセオリーって奴だ。なにせここは学校で、図書館に資料室に職員室と探せば何かがありそうな部屋がたくさん用意されてる。しかも出てくるモンスターは妖怪とか実体のあるお化け──怪談系に統一されてる。なら尚更、どこかに伝承とか日記形式でヒントがあるはずだ。僕はダンジョン攻略経験こそ無いけど、ゲームならそれこそオフの日に十時間以上やり込むほど大好きだ。なにせ外に遊びに行けばマスコミに付け回され、どこに行くにもファンの目を気にしなければいけなかったからな!」
そう言って廉造は胸を張る。
「な、なるほど……」
廉造の言葉に深く納得できた。
異変当初のあの無限回廊で得た、忘れようもない経験。
入り口に設置されていたヒントとなる石碑の文言さえ読めていれば、あれだけの犠牲者を出さずに脱出できていたという苦すぎる教訓を思い返す。
「図書館ってどこだったっけ」
「このフロアの最初の方でした!」
千春が今来た道の方角をビシッと差した。
「職員室は?」
「あそこの部屋だ」
海斗が右手の親指で背後の部屋を指し示す。
「資料室とか、あと保健室とか」
「保健室は一階にあったわ。資料室は見覚えないわね」
郁が考え込みながら答えた。
「大河、どうする?」
最後に悠理が大河へと問いかける。
大河はたっぷり十秒考え込んで、そして顔を上げた。
「今からパーティー編成を変えて、二手に分かれて情報収集をしよう。俺と悠理と千春と祐仁さんで図書室。海斗さんと廉造と郁さんと健栄さんで職員室。メッセージでのやり取りは頻繁に、敵が出てきたら俺と廉造の判断で戦うか撤退するか、合流してみんなで倒すかを決める。廉造、任せるぞ」
その指示に皆が頷いた。