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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
南中野ブロック
153/224

行動②


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「よし、みんな準備はいいな?」


「うん、いいよ」


「ねぇ、本当に僕らだけで攻略するの? ダンジョンを? マジで言ってる?」


「お前昨日から何回同じことを聞きゃ気が済むんだよ。とっとと腹を括れって」


 大河の問いに悠理、廉造、海斗の順番に応える。

 問いにちゃんとした返事を返したのは悠理だけだが、廉造も海斗も元気そうなのでひとまずヨシとした。


「愛蘭さんに今から潜るってメッセ送っておくね」


「ああ、頼む」


 引っ越し候補の下見を終えて翌日、一向は大和町の小学校──東中野第二小学校の校門の前に居た。


 あれからもう一つの引っ越し候補である鷺ノ宮にも一応赴き、夜に病院に戻って現地を見て来た所感を皆に報告し再び会議。


 話し合った結果、この小学校を拠点とすることができれば、それが一番良いという結論に至った。


 しかしファーストステージ終了まで残り八日。

 ポイントを稼ぐことは簡単なのだが、セカンドステージのフラッグ争奪戦に向けた準備を考えると、引っ越しはすぐにでも終わらせたい。


 なのでさっそくではあるが、精鋭メンバーを2パーティーにわけてのダンジョン攻略を挑むこととなったのだ。


「千春、祐仁さん。そっちはサブパーティーだからあまり無理はしないように。健栄(けんえい)さんや(かおる)さんも上げたレベルに体がまだ慣れてないと思うから、絶対に前に出ないこと」


「はい!!」


「う、ううう、うん! わか、わかった!」


「ああ、気をつけるよ」


「わかったわ」


 大河をパーティーリーダーとした悠理、廉造、海斗の四人がメインパーティー。

 高いレベルと確かな戦闘経験に裏打ちされた即応性に優れる、東京ケイオスの主戦力である。


 一方、もう一つのパーティーはサブに徹する控え。

 リーダーを東京ケイオスの戦闘班では一番年長の真志喜(ましき)健栄けんえいに設定し、回復役に昨日『看護師』のジョブに就いた遠峰(とおみね)かおる、やる気だけは誰よりも高い千春、そして腰こそ引けているが上昇志向の強い祐仁の四人だ。


「健栄さん、盾の感じはどう?」


「ああ、今んところ問題ないな。もう少し大きい方が良い気もするが」


 大河の問いかけに、健栄はの太い声で返事をした。


 四十代前半のがっしりとした体格の真志喜健栄は、つい最近ケイオス──前身のアンダードッグに加入したばかりの新入りだ。


 在籍していたクランが壊滅し、途方に暮れていた所を布良に勧誘されたと言う。


 低レベルではあったものの、以前のクランからずっと戦闘を任されていたらしく初期職のジョブオーブの熟練度が溜まっていたので、その戦い方や面談を経て大河の勧めで『剣闘士(グラディエーター)』のジョブに就いた。


「郁さんは回復役に徹してくださいね? 無理しちゃだめだよ?」


「ええ、分かってるわ」


 郁もまた、アンダードッグに来る前のクランで初期職のオーブの熟練度を全て溜め切っていた。


 この二人がサブパーティーに選ばれたのは、すぐにでもオーブを合成できて、なおかつ戦闘に少しでも慣れていたからだ。


「祐仁さん! がんばりましょうね!」


「ち、千春は緊張しないのか? 俺はもう、胃が痛くて痛くて……」


「自分で攻略組に名乗りを上げたのに、何を弱気になっているんですか!! 千春たちは少しでも早く強くなって、リーダーたちの苦労を少しでも和らげるためにがんばるんです! ふん!」


 この二人に至っては、自ら攻略組に名乗りを挙げた自薦である。


 小さいながらもやる気だけは人一倍な千春と、消極的なことを言うくせに積極的に前に出ようとする祐仁。


 大河から見れば不安だらけの二人ではあるが、やる気があると言うのはやる気が無いより遥かに大事なことだ。

 強くなるためには必要不可欠な気概である。


 今回のダンジョン攻略は、無理をしないと決めている。


 第二小ダンジョンの攻略難易度とモンスターの強さを把握できておらず、内部構造も不明。


 大河と海斗の攻撃力と対応力、廉造のバフとヘイト管理。

 そして悠理の回復魔法。


 これらが揃っていれば大抵の事はなんとかなる目算だが、何事にも予想外と例外と事故が付き物だ。


 攻略できれば満点。

 攻略できなくても、拠点化できそうな根拠を見つけられれば合格点。

 攻略できないと判断がついて、戻ってこれれば及第点。


 全てが全て上手くいくとは大河も思っていない。


 だからこそのサブパーティー。

 取れる手数は多ければ多いほど良いだろう。

 だが戦えない者をぞろぞろと引き連れてもただの自殺補助になりかねない。


 その為、本命の自分達以外に連れて行くパーティーは一つだけにした。


 千春と祐仁の強さと戦い方は前日の下見の際の旅程で把握できているし、指示出しさえ間違えなければ死ぬ事は無いと踏んでいる。


「千春、約束しろ。俺が行くなって言ったら絶対に止まる。悠理と郁さんの隣からできるだけ離れない。何かを見つけたら絶対に報告する。もしはぐれて一人になったら、どんなに怖くてもできるだけ動かずに俺らを待つ。いいな?」


「はい! できます!」


 大河の言葉に、千春は元気よく応える。


 そんな千春の姿に内心隠しきれない不安を感じつつも、大河はため息を零して校門に手をかけた。


「じゃあ、行こうか」


 甲高い金属音が鳴り響き、両開きの校門が開いて行く。


 東中野第二小学校ダンジョン──攻略開始。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「大河たち、今から潜るって」


 悠理からのメッセージを読み上げたのは、香奈だった。


「──そう、待っているだけってやっぱり心配になるわね……」


 院長室のソファに座り、愛蘭は窓越しに空を見上げる。


 今日の中野の空模様はどんよりとした曇り空。

 そのおかげで少しだけ涼しくなっている。

 

 二階から上の部屋の窓を全開にして風通りを良くしているお陰で、頬に当たる湿気まじりの風が心地よい。


「一応、戦える人たちは全員一階に待機してもらって、子供たちは五階で遊ぶように言いつけたけど……やっぱり私も行った方が良かったかな……特に千春が心配で……」


「香奈が行ったらここの守りが手薄になっちゃうでしょ。みんなで話し合ったんだから大丈夫よ。千春ちゃんに戦い方を教えたの香奈でしょ? アンタが大河に千春を推薦したんじゃない」


「うん……まぁ、レベルさえ上げれば千春はかなり戦えると思う。少なくとも私よりは、でも……なんていうか……こう、放っておけない感じが凄くするのよあの子……妹キャラっていうか……なんかこう、私がやってあげなくちゃって……守ってあげなくちゃって」


「過保護だなぁ」


 まごまごと言い淀む香奈の姿に、愛蘭は苦笑した。


「さて、じゃあウチらはウチらの仕事を進めておきましょうか。引っ越し準備と、夕ご飯の準備と──最初は松木の始末かな」


 ソファから立ち上がった愛蘭の目が、剣呑なモノに変わる。


「うん、みんなを呼んでくる。もうアイツから聞き取れる情報も無いと思うし、居るだけ邪魔だもんね」


「しかし危なかったわねアイツ。千春を狙ってただなんて本当に最低。大河たちが来てくれなかったらと思うとゾッとするわ」


「畑瀬やあの下っ端からも他のクランの女の子たちへの乱暴に参加してたって話も聞いたし、元から無かったけど生かしておく理由一個も無いね」


「あれだけ刺されて治されてを繰り返されたら普通は狂っちゃうと思うんだけど、まだ泣き叫んでるみたいよ」


「この期に及んで命乞いなんて、諦めの悪いジジイだなぁ。子供たちに居場所がバレる前に、さっさと処理しちゃおう」


 スリッパを突っ掛けながら、二人は院長室の扉を潜って廊下へと出た。


 向かう先は二階の処置室に幽閉され拷問されていた松木の元。


 布良と共に食い物にしていた女性たちからの報いをたっぷりと受けたかつてのクランの腹心は、今では女性の姿を見るだけで泣き叫ぶほどとなっている。


 指を切られ、頬を抉られ、腹をかっさばかれて、目を潰され、耳を削ぎ落とされて──しかし回復アイテムや魔法で死ねないギリギリまで回復され続けるという地獄を三日過した男は、それでも命惜しさに命乞いを続けている。


 その命も、もう後僅か。


 今まで行って来た行為の結果は、その末路は、決して穏やかなモノでは無い。

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