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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
南中野ブロック
152/224

行動①

ファーwwww

サブタイトルを変更した途端に、一日のPVが三分の一まで減りましたwwww

まったくご新規様がいらっしゃらないwww

もう笑うしか無いですwwww

開き直ってサブタイトル全部消しますwwww


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ここ、いいんじゃない?」


 夕方頃、大河は香奈(かな)千春ちはる、そして祐仁(ゆうじん)を連れて、引っ越し候補地の一つへと訪れていた。


 富士見町駅前から徒歩で二時間。

 本来の中野区であるなら三十分も掛からなかった場所だが、今の中野はかなり拡大している。


 クランメンバー全員を引き連れて、もしくは二つか三つのグループに分けて移動するには二時間が限界かも知れない。


「住所的には中野区大和町……一番近い駅は高円寺なんだけど、あそこは杉並区だから今は行けないのよね……」


 病院に常備されていた古びた住宅地図を広げて、香奈は考え込む。

 この地図は異変前の地形しか掲載されておらず、そもそも平成中期の頃に発刊された物。

 異変によって変化し、さらに『覇王』によって拡大した中野の現在の姿との相違は大きい。


「うん、良いと思う。モンスターもよく出てくるし、中野駅からも近い。すぐ近くに区の境である壁もあるから、そっちからの攻撃をあまり考えなくても良い」


 大河が腕を組んで眺めている建物は、小学校だった。


「うーん、でもこんなところに小学校なんてあったかな……。前に住んでたアパートが高円寺駅の向こう側で、ここら辺は何回か通った事あると思うんだけど」


「祐仁くん、確か中野生まれでしたよね!? この小学校に見覚えはありますか!?」


 千春の問いかけに、過剰に周囲を警戒していた祐仁の肩がびくんと跳ねた。


「えっ!? あ、な、なにかな!?」


「だからこの小学校、前からありましたかって聞きました! 祐仁くんさっきからビビりすぎです! リーダーより年上なんですからしっかりしてください!」


 千春は腰に手を当て、胸を逸らして祐仁を叱りつける。

 見た目小学生に見える千春よりも、高校三年生の祐仁の方がモンスターの襲来に怯えているのは、確かにみっともなく見えた。


「し、ししし、仕方ないだろ!? 俺はあんまり運動が得意じゃなくて、モンスターと戦うのだって慣れてないんだ!」


 祐仁は『咎人の剣』を両手で構えながら、緊張でがっちがちに固まった首を動かして小学校を見た。


「えっと、ここらへんでこんな学校見た事ないな。中野が拡張された時にできた物に違いないよ」


「そっか。ありがとう祐仁さん。つまりこの学校の内部構造に詳しい人は今の中野には居ないって事になる。学校ってさ、通ってる奴以外だと意外に迷いがちだろ?」


「ああ、そう言えばそうね。広い上に部屋も多いからかしら」


 大河がわざわざ学校に限定して引っ越し先を探していたのは、その狙いがあった。


 備えている施設などは全国的にほぼ共通だが、学校の造りというのは意外と複雑な物だ。


 特に六学年もの児童が集まる小学校はその部屋数も多く、田舎ともなれば巨大な建物になりやすい。


 少子化の煽りを受けて合併などで減少しているが、その分一つの学校に集まる児童の数は大きく変化してない。


「外から見た感じ、生活してる感じはしないな。空き物件か?」


「もしくはお留守なのかなーって」


 祐仁と千春が校門越しに中を窺っている。


「いや、多分なんだけど。ここに住みたくても住めなかった……もしくは全滅したんじゃないかな」


「なんで?」


 大河の言葉に、香奈が問いかけた。


「ここに来るまでのフィールドモンスター、面倒だから全部俺が倒しちまったけどそこそこ強かった。んでほら、学校の中にまでモンスターが湧いちまってる──ていうか、校舎の中にもモンスターの気配がするし、とんでもない血の匂いがする。ここさぁ……ダンジョンなんじゃないか?」


「えっ!?」


「ダンジョン!?」


「ダンジョンって……なに?」


 最初が千春、続いて祐仁、最後に香奈。


 三者三様のリアクションがちょっと面白かった大河は、思わず歪んでしまった口元を隠しつつ説明を続けた。


「中野に来る前に居た池袋ではさ。街がほとんど水没してて残された人たちは水面より上の高層マンションとかビルとかに住んでたんだ。んで、ビルの水没してる部分はダンジョン化──えっと、迷宮化してたんだ。みんなそこのモンスターを狩って生計を立ててた。つまり」


「つ、つまり!?」


 千春のどこか過剰にも思える相槌に若干引きながら、大河は人差し指を立てた。


「ダンジョンも、拠点化できるんだと思う」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「悠理さん、これいる?」


 (かおる)がそう言って悠理に差し出した段ボールの中には、綺麗に包装されていた包帯が入っていた。


「包帯ですか? 包帯は確か結構役立つ回復アイテムだったはずです」


「じゃあ持って行った方が良いよね。下に運んでおくね?」


「お願いします。受付カウンターの前に置いておいてください」


 悠理の言葉に朗らかにはにかんで、郁は段ボールを抱えて部屋を出ていった。


 ここは中野富士見町総合病院の三階。

 

 女性部屋として使っている病室の一室だ。


 引っ越しに向けて荷造りを始めた女性陣の陣頭指揮を取っているのは悠理と、そして愛蘭。


 東京ケイオス──前アンダードッグは病院を拠点としていたにも関わらず、誰も薬や医療関連のアイテムの性能を熟知していなかった。


 今もなお処置室で地獄の苦しみを味わっている松木曰く、ほとんどの使えそうなアイテムは他のクランへの献上品や横流しに利用されたらしい。


 その見返りとして得た待遇やオーブは、全て前リーダーの布良と松木が使い込んでいた。


「悔しいわね」


 子供達の衣類を畳みながら、愛蘭がぼそりと呟く。


「どうしたんですか?」


 その小さな呟きが耳に入った悠理が問いかけると、愛蘭はふるふると首を振った。


「半年近くここに住んでて、結局ウチらは布良や松木に良い様に使われるだけだった。頑張ってモンスターを倒して得たオーブもアイテムも全部取られて、無理やりカラダを売らされて……それでも命さえ無事ならって自分を納得させて……何も変えようとしなかった。リーダー──大河が来てあっと今に状況が変わって気づいたの。変えようって気持ちとほんの少しの勇気さえあれば、みんなが同じ気持ちで動いてさえいれば、こんなに簡単に変えられたのに……って」


 自虐を含んだ静かな笑みは、悔しさと悲しさが感じられる寂しいモノだった。


「…………」


 そんな顔をした愛蘭に何と声をかけていいのかわからず、悠理は口籠もってしまう。


「まぁ! 生きてりゃ良い事も悪い事もやってくるわよね! いつまでもクヨクヨしてらんないし! 頑張るしかないか!」


「愛蘭さん……」


 悠理が励ますより早く、愛蘭はけろりとした顔で畳まれた子供服を段ボールに詰めていく。


 強い女性だと、素直に思った。


 この半年に愛蘭が受けた仕打ちは、女性にとって最も屈辱的な行為だったはず。


 だけど愛蘭は心折れず、皆の無事と安寧のために歯を食いしばって耐え抜いた。


 瞳や郁だってそうだ。

 

 もし自分が大河以外の男に──そう考えるだけでも、悠理の思考は絶望で染まる。


 ここに居る人たちは、確かに弱者として虐げられていたかも知れない。

 しかしその精神は誰よりも強く、そして綺麗だ。


 悠理は鼻歌混じりに子供服を段ボールにしまう愛蘭を見て、強い尊敬の念を抱いた。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「あー、俺も引っ越し先を見に行きたかったぁー」


 病院一階。

 ロビーへと続く玄関の先で、愛用のニッカポッカのポケットに両手を突っ込んで座っている海斗が愚痴を零した。


 大きな柱に背を預け、限界までもたれかかって足を伸ばしているその姿はとても素行が悪い。


「仕方ないじゃん。大河も海斗兄貴も留守にしちゃったら、ここが襲われた時どーするの」


 玄関の自動ドアを挟んでもう一本の柱の前には、廉造の姿。


 まるで門番のように玄関の守りを固めている二人は、今の時間は見張りという役割を担っていた。


 電波が通らず動画も漫画もSNSもできない今の東京で、時間を潰すというのはとても辛いことだったりする。

 

 特に若い世代。

 彼らは異変前までは娯楽が溢れていた反動で、時間を持て余すという行為に慣れていない。


 見張りの交代まであと三時間。

 終わりが見えてくると途端に時間が進むのが遅く感じてしまうのはあるあるだ。


「そういやさ」


「ん?」


「大河に聞いたんだけど、もうそろそろ今の『剣』から成長させたいんだって」


「あぁ、俺も聞いたわそれ。扱い辛いって言ってたな。両手剣を片手で構えて盾も使ってんだから、そりゃそうだろって突っ込んどいたわ。アイツは分かってたみたいだけど」


 そう、ハードブレイカーは『両手剣』カテゴリに属する剣。

 なのになぜ大河は片手で構えていたかというと、『剣闘士(グラディエーター)』のジョブをドワーフたちに進められ、深く考えずにセットしていたからだ。


 池袋に到着する前からそれには気づいていたが、『剣闘士(グラディエーター)』の盾スキルが当時のパーティー、つまり朱音と悠理との連携に見事にハマってしまっていて、変えたくても変えられなかったから。


「それで、成長ツリー見せてもらったんだけどね」


「おお」


 淡々と話を続ける廉造と海斗の間に流れる空気は、かなり気だるい。


「ハードブレイカーの次って、また両手剣なんだよ」


「ありゃ……じゃあアイツ、また戦い方変えられないじゃんか。もういっその事ジョブの方を変えちまえばいいのにな。もう少しで熟練度貯まるとか言ってたけど、俺なら我慢できねぇわ。ふぁあああああ……」


 呆れた様に鼻息を一つ強めに吐いて、海斗は大きな欠伸をした。


「それでさ。あのアイテム……大河に渡してもいいかなって」


「ん? どれよ」


「ほらあれ、ロックオーガを倒した時の報酬アイテム」


 廉造の話に、海斗は黙って記憶を探る。


「ああ! あの俺らが使えなかった奴! すっかり忘れてたわ!」


 ガバリと上半身を起こし、海斗はあぐらを組んで廉造を見上げた。


「イベントで苦労して手に入れた物だからさ。さすがに兄貴に相談しないであげるのもどうかと思って、大河には黙ってたんだけど」


「あのイベントは大変だったなぁ……問答無用だったし逃げられなかったしで……もうダメかと思っちまったぜ……」


 海斗はしみじみと回想する。

 それは練馬を出発して、荒れ果てた荒野と険しい山岳地帯とを交互に旅してた道中だった。


 大きな断崖にかかる一本の吊り橋を渡り切った先に、海斗の身長の二倍はあろうかという岩の肌を持った怪物──ロックオーガが眠っていて、その先にまた断崖と吊り橋が掛かっていた。


 ノームとかいう一々うるさい精霊達に助けを求められ、海斗の勝手な判断でその怪物を討伐するという依頼を承諾したのが不幸の始まり。


 怪物と相対したと同時に吊り橋が切られ、逃げも隠れもできない状態で始まった戦闘は、一撃を貰えばお陀仏という過酷な物だった。


 廉造が弱点である背中の変色した岩に気づくまでの間、優に二時間もの間ひたすらロックオーガの攻撃を避け続けたのは、まさに必死の根性。


 海斗ですら命を諦めかけた戦いはなんとか二人の勝利に終わり、その報酬として手に入れたのが、特殊な『剣』の成長フラグとなるアイテム三つと高額のオーブだったのだ。


「途中のドワーフの鍛治小屋で『集音石』は僕のエコーに、『荒野の風切り羽』は兄貴のハヤテマルにしてもらったけど、最後のアレは祝福がどうとか、、属性紋がどうのこうので結局使えなかったじゃん。大河の右手の紋章に僕らと違う紋章がくっついてるでしょ? あれ、土と水の精霊の属性紋らしいんだ」


「お、なら使えるじゃんかアレ」


「兄貴が良いんなら、大河に譲ろうかなって思うんだ。アイツが強くなれば、この中野での僕らの生存率も上がるだろうし」


「んー……」


 海斗は頭を捻って考え込む。


「俺は良いんだけどよ。お前はどうなんだよ。アイツのこと、まだ信用できないって言ってたじゃねぇか」


「完全に信用したわけじゃないよ。ただ、今の状況で俺らが取れる選択肢って実はそんなに多く無いって大河の言葉には、納得しちゃっただけ。他の強いクランに入ったりって道もあるけど、そのクランが悪党とか外道だらけなら俺はともかく兄貴が嫌がるだろ?」


「そりゃな。ツルんでて不快な奴らとは一緒に戦えねぇ」


「大河はどうなの?」


「今んとこ大丈夫だ。ていうより、戦闘のタイプとか性格の面でも、かなり俺と相性が良いと見てる」


「じゃあ決まりだ。帰って来たら渡すよ」


「了解」


 そこで会話を一度終え、二人は見張りの仕事に戻る。


 あまりの暇さに耐えきれなくなった海斗が不貞腐れて眠るまで、十分もかからなかった。

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