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東京ケイオス  作者: 不確定 ワオン
池袋→→要町→→中野
131/233

荒野のビバノンノン②


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「はーい! 二名様ご案内でーす!」


「いらっしゃいませー!!」


「ようこそ妖精湯へー!」


 大河と悠理が男湯の引き戸を開けて店内に入ると、最初の妖精(フェアリー)の声に合わせて二匹の他の妖精(フェアリー)が元気よく迎えてくれた。


「ではお客様ー! 二名様の貸切利用で、4,000オーブとなりますー! 貸切期間は閉店までの終日利用になりますので、ごゆっくりお(くつろ)ぎください! はい!」


 背中の光の羽と、そして揉み手を更に高速で動かしながら最初に現れた妖精(フェアリー)は満面の笑みを浮かべている。


 大河の身につけているカーゴパンツのポケットから、ピコンと言う通知音が聞こえてきた。

 ポケットの中からスマホを取り出し、サイドボタンを押して画面を開くと、支払い手続きの画面が既に開かれている。


「……まぁ、一日居れて二人で4,000オーブなら、納得できる値段だと思うんだけどどうおも──」


「──良いと思うよ!」


 銭湯の相場がわからないのでとりあえず悠理に伺いを立ててみると、ひさびさの風呂にテンションが上がり掛けているのか食い気味で頷く。


 そんな悠理の姿に苦笑した大河は、スマホを操作して支払いを済ませた。


「毎度どうもー! はい!」


「有料でございますが各種タオルとシャンプー・トリートメント、シェービングフォームや洗顔剤等がセット販売しておりますですよ! はい!」


「こちらの売店コーナーでは軽食から定食、コーヒー牛乳などの飲み物も販売しておりまーす! イートインもございますので! はい!」


「お嬢様ー! 垢すりやマッサージなどに興味ございませんかー!? 専門の妖精(フェアリー)隊が身体の隅々まで綺麗に揉み解してさしあげますですよー! はい!」


 オーブを支払った途端に出るわ出るわ。

 ざっと数えて十匹前後の妖精(フェアリー)がわらわらと大河と悠理に群がった。


「あ、いや。タオルもシャンプーとかももう持っているから大丈夫だって」


「ま、マッサージも要らないかなー」


 その勢いに若干引きつつ、大河と悠理は妖精(フェアリー)を適当にあしらいながら奥へと進む。


 店内の造りは昔ながらのザ・銭湯と言ったもので、番台と薄い仕切りで男女の脱衣所を隔てているオーソドックスなタイプ。

 綺麗に並べられた簡素な造りのロッカーが壁沿いにぐるりと配置されていて、中央にはドライヤーやコームなどの置かれた鏡台が片面二台、背中合わせに四台置かれていた。


 床はフローリングではなく、ツルツルとした畳のような素材。

 これは足元が濡れて滑るのを防ぐためだろうか。


「じゃあまた後でな」


 全部のロッカーが空いていたので、大河は鏡台に一番近いところを選んでマジックバッグを中に入れた。


「え?」


「え?」


 ふと悠理を見ると、不思議そうな顔できょとんとしている。


「せっかく貸切にしたんだし、一緒に入ればよくない?」

 

 お互い顔を見合わせて、数秒の間が訪れる。

 てっきり男女に別れて入浴し、後ほど合流するもんだと思っていた大河は面を食らっているし、仲良く二人一緒に入りのんびりするものだと思っていた悠理は少し不機嫌になっている。


「いや、そうは言ってもほら……妖精(フェアリー)たちもいるし……なぁ?」


「別に恥ずかしい事するわけじゃないんだし、大丈夫だよ。ねぇ?」


 そう言って二人、隣に浮いている妖精(フェアリー)に視線を移した。


「我々はお客様が入浴中は、基本的に浴場の中には立ち入らないようにしておりますのでー! 設備や備品を壊さないでさえ頂ければ、ナニをされてもかまいませぬー! どんなに汚されてもちゃんと清掃いたしますのでごあんしんを! はい!」


「なんだったら、ビニールマットの貸し出しもできますればー! 300オーブです! はい!」


「粘度の高いボディーソープをご用意いたしましょうか!? はい!」


「あっ、申し訳ございません! さすがに避妊具の取り扱いはしておりません! 次回のご来店までには仕入れておきますねー! はい!」


「店内BGMを雰囲気のあるムーディーな音楽に変更しておきますね! はい!」


「全体の照明を少し落として、間接照明を増やしておきますー! ピンクや青などお選びできますが如何いたしますかー!?」


 これを商機と見たのか、妖精(フェアリー)たちは揃って揉み手を加速させて捲し立てた。


「え、いや、別に」


「……ビニールマットってヤツ、便利そうだね大河」


「ひっ」


 悠理の目つきがいつもの穏やかで優しいそれから、まるで獲物を前にした肉食の獣のように険しくなった。

 大河はその目つきを、主に宿に泊まった夜などで良く目にする。


 それは悠理の中のとある『スイッチ』が入った事を意味していて、そしてその目が獲物(大河)を逃した事は一度もない。


「なーんてね。冗談だよ。いくら何でもこんなにたくさんの妖精(フェアリー)が近くにいるのに、そんな事するほどはしたない子じゃないもん私」


「そ、そうだよな? わ、わかってたさもちろん」


 とは言いつつも、一度タガが外れた悠理の暴走っぷりを何度も経験している大河にはその言葉がいまいち信用できない。


「でも一緒にお風呂、入ろうね?」


「まぁ、それは別に良いけどさ」


「やった」


 そう言って悠理は大河の隣のロッカーの扉を開けて、アイテムバックであるウエストポーチを置いていそいそと服を脱ぎ始めた。


「……念の為、出しておくか」


 大河は悠理に見えないようにロッカーの扉の影でスマホを操作し、タオルやシャンプーなどと一緒にコンドームを取り出した。

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