最終フェイズ①
成美 悠理
今日 16:35
【大河、今大丈夫?】
自分
今日 16:37
【どうした?】
成美 悠理
今日 16:38
【ちょっとこっちのことで相談したいことがあってね?】
自分
今日 16:38
【なにかあったのか?】
成美 悠理
今日 16:40
【ダンジョン攻略中に、変なのを見つけたの。宝玉の台座に置かれているプレートと同じ物なんだけど、書かれてる文章がいつもと違ってて。それで今みんなで話し合ってる最中なんだけど】
自分
今日 16:40
【なんて書いてあったんだ?】
成美 悠理
今日 16:41
【書かれてるものそのまま伝えるね?】
成美 悠理
今日16:45
【ここまで辿り着きし咎人よ。最後の封印はこの先にある。汝らの盟主を定め、盟主と共に日の出の塔へと参られよ。贄の姫は汝らの来訪を待っていた。沈められた都市を解き放つ解放者の訪れを、贄の姫は果てぬ夢の中でずっと待っていた。この地を沈めた水の結界は、姫の目覚めと共に消え行くだろう】
成美 悠理
今日 16:44
【どういう意味か、わかる?】
自分
今日 16:50
【多分だけど、盟主っていうのはクランかパーティーのリーダーの事なんだと思う。日の出の塔と贄の姫ってのはわからないけど、沈められた都市っていうのが池袋で、解き放つっていうのは、ちょっと待って。もうちょい考える】
自分
今日 16:52
【池袋を水没から引き上げられるってことか?】
成美 悠理
今日 16:53
【圭太郎くんも似たようなこと言ってた。一応、ダンジョンから上に戻って、陽子さん達と話し合ってみる事になったよ】
自分
今日 16:54
【わかった。また何かあったら連絡してくれ。ちなみにダンジョンの何層にあったんだ?】
成美 悠理
今日 16:54
【地下24層。下のフロアに下りる縦穴が見つからない代わりに大きな扉があって、そこに書かれてたの】
自分
今日 16:55
【扉?】
成美 悠理
今日 16:58
【うん、とても豪華な大きい扉】
自分
今日 17:01
【圭太郎に、俺が戻るまでは絶対にその扉から先に行くなって伝えてくれ。こっちはちょっと立て込んでるから、戻りが遅くなりそうだとも】
成美 悠理
今日 17:02
【なにかあったの?】
自分
今日 17:05
【俺も混乱しているから、もう少し整理できるまで待って欲しい】
成美 悠理
今日 17:05
【分かった。あんまり無理しないでね?】
自分
今日 17:06
【分かってる。また連絡するよ。気をつけて】
成美 悠理
今日 17:06
【うん、ありがとう。大河も気をつけて】
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成美 悠理
今日 21:30
【陽子さんとの話し合いで、大河が戻るまでに調達班のみんなのレベルを上げて待ってようってなったよ。誰をいくつ上げるかは、お夕飯の後で決めるって。一応ご報告です】
成美 悠理
今日 21:40
【大河、大丈夫?】
自分
今日 21:50
【みんなにレベルを上げるなって伝えろ!】
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成美 悠理
今日 22:05
【ごめん、お夕飯の片付けしててメッセに気づけなかった……。あのサンシャインの赤い光と洪水、みんなのレベルが上がった事と関係あるの?】
自分
今日 22:10
【いや、俺がもっと早く伝えるべきだった。じゃあ、みんなまだ俺がレベルを上げるなって言ってた事は知らないんだな?】
成美 悠理
今日 22:11
【うん、伝える前だったよ】
自分
今日 22:15
【分かった。その件とこれから書くことはみんなに黙っていてくれ】
成美 悠理
今日 22:15
【うん】
自分
今日 22:20
【サンシャインの最上階が発光して水が溢れ出す現象と、池袋全体の平均レベルが上がるタイミングが不自然に一致していたんだ。第一波は池袋のプレイヤーがモンスターと戦い始めた頃。第二波はクラン抗争が激化し始めた頃。第三波以降は、それぞれのビルのコミュニティがダンジョンを攻略し始めたからだ。難易度が上がっていくにつれてどうしたってレベルを上げないといけないからな。サンシャインが赤く光る毎に、ダンジョンの難易度も少しづつ上がっている。こっちにそういうデータを纏めていた人がいて、俺もその仮説は合っていると思う。詳しくは戻ったら俺からみんなに説明するから】
成美 悠理
今日 22:26
【でも、今回の水量はいつものより多いってみんな言ってる。こっちは下のフロアがもう1階分も水没したよ】
自分
今日 22:50
【こっちもだ。すぐにそっちに戻りたいんだけど、波が荒れててスミレが泳ぎにくそうにしてる。来た時より時間がかかりそうだ】
成美 悠理
今日 22:51
【無理しないで。洪水が止まってから戻って来なよ。危ないよ】
自分
今日 23:45
【いや、例の扉を見つけたって事は、今回の洪水は止まらないかも知れない。この池袋は異変の起きた日から今日までずっと、強制イベントが進行してたんだ。全ては池袋のプレイヤーにダンジョンを攻略させて、贄の姫って奴の所に辿り着かせるための仕掛けだったんだよ。まだ全部ってわけじゃないけど、ある程度の確証は得た。急いで戻るから】
成美 悠理
今日 23:55
【うん、わかった。でも絶対に無理しないでね。私、大河が心配だよ】
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「大河……」
パークレジデンス池袋の屋上で、悠理はスマホを握りしめて遠くサンシャインを見ている。
最上階部分が強い赤い光に包まれ、そこから尋常じゃない量の水が絶え間なく流れ落ちている。
セイレーン湖の水位は見る見る内に上昇しており、今朝まで普通に生活できたていたフロアの一つが先ほど完全に水没し、その上のフロアも床の上がプールのようになっていた。
「悠理ちゃん! 大河くんから返事は?」
息を切らせながら階段を上がって来た陽子が、悠理を呼びかける。
悠理は陽子に振り向き、弱々しく首を横に振った。
「40分前に私が送ったメッセに、既読が付かないんです……」
心配で今にも泣き出しそうな悠理の肩に手を置いて、陽子は唇を噛み締める。
「今の水位の上昇ペースだと、朝にはもう3フロアくらい沈んでもおかしくない。みんなが見つけてくれたプレートに書かれてた事が本当だとしたら、私がその扉を通って贄の姫っていうのに会えれば、水が止まるんじゃないかってみんな言ってる」
「で、でも大河は待ってろって」
不安と焦燥で弱々しい口調の悠理が、陽子に詰め寄った。
「分かってる。私も大河くんの指示は正しいと思う。だから明日のお昼。それまではあの子を待つよう皆を説得したわ。でもそれまでに水が止まらなかったら……いよいよ私たちの生活スペースまで水が辿り着いてしまう。そうなったら、あの子を待っている余裕は……」
「そ、そんな……」
大河は何かを知って、それを伝える為に戻ってこようとしている。
きっとそれは、今池袋で起きている異常事態に関わる事なのだろう。
しかし大河はその事を黙っていろと指示した。
だから悠理には、陽子や皆を引き止められるほどの強い理由が思い浮かばない。
「とりあえず、子供達が不安がって落ち着かないの。手伝ってくれる?」
「……わかり、ました」
悠理の返事を聞いた陽子は、すぐに踵を返して階段を下りていった。
悠理はその背中を見送り、またサンシャインを見て、続いて大河が出発した方角の湖面をじっと見る。
今日は月に雲が掛かり、波が荒い湖面ですら暗い漆黒に包まれている。
「無事なんだよね……大河……」
胸中の不安を払拭するように口に出して、愛する男の名前を呼ぶ。
そして悠理はスマホをズボンのポケットに捩じ込んで、陽子の後を追って階段を下り始めた。




