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33 供物の少女を助ける方法


 二日目の夜、供物の少女から名前を聞けた。ノーラ・セーラム。エディフィス王国でも有数の上位貴族の子女とのことだ。

「おじいさまの代で借金をしてしまって、地位はあっても生活は裕福ではなかったけれど、私がここにいることでそれも解消されているはずです」

 彼女よりも幼い弟や妹がいるらしい。その子たちの身の安全と安定した暮らしのためにこの道を選んでいる部分もあるようだ。


「もし恩恵は受けたまま、ノーラさんも助かる道があるとしたらどうですか?」

「それは国をたばかるということですよね。供物が捧げられないことによって国に災害が起きるくらいなら、私は捧げられた方がいいです」

 強い瞳でキッパリと言い切っているのに、手はかすかに震えている。

 王様と同じ論理だ。災害の原因がまったく違うところにあったとしても、捧げられなかったからだと言われると反証できない。自分は迷信だと思うけれど、信じている相手にそれは言ってはいけない気がする。


 ノーラはドリーミング・ワールドの魔法をとても気に入って、他の国の話をしながら様子を見せると喜ばれた。そんな時だけは年相応の女の子に見える。



「……という感じです。全員にとっていい形はないでしょうか」

 オスカー、ルーカスとブロンソンのパーティに、リリーと一緒に様子を報告して考える。


「倒すか、ドラゴン」

「待って、ブロンソンさん。それこの国だと神殺しだよね。依頼は供物を届けることと卵の確保なんでしょ?」

「そうだが、ドラゴンを倒しちゃいけないとは書かれても言われてもないぞ」

「そこは暗黙の了解なんじゃないかな」


「これまで聞いてきた話からすると、ドラゴン殺しはまずダメだとして、供物を捧げないという選択肢もないだろうな」

「うん。ぼくもそう思う」

「……やっぱり、そうですよね」

 オスカーとルーカスが二人ともそう言うのならそうなのだろう。気持ちは賛成したくないけれど、それをひっくり返せる理論は見つかっていない。


「が、捧げた後については、それこそ誰もなんの言及もないわけだから、助ける方法はあるんじゃないか?」

「あ……」

 言われてみるとその通りだ。ブロンソンの契約でも、儀式で必要とされているのも、捧げるところまでで、その後、供物がどうなるのかまでは関与していない。


 思いもよらなかった着眼点にルーカスが笑みを深めた。

「なるほどね。うん、いい考えかもしれない」

「つまりアレか? ドラゴンに供物は捧げる。それから助けるってことか? それでノーラの嬢ちゃんは納得すると思うか?」

「もしドラゴンが供物を必要としなかったらどうでしょう? 私のイメージでは、ドラゴンがヒトを食べるようには思えないので」

「うん。これまでももしかしたら、他の魔物に食べられたり、飢え死にしたりしていたのかもしれないね。そういうことから助けるんだったら問題ないんじゃないかな」


「なるほどな。確かにいい手な気がする。けど、オレたちは神官の護衛をして首都に戻るところまでが仕事でなァ」

「あの。そういう方向なら、私も一緒に供物になるのはどうでしょうか」

「ジュリア?」

「供物の条件には合っているので、ノーラちゃんがうんと言えば代わろうとは思っていたんです。もちろん、自分の身は守るつもりで」

 ブロンソンのパーティメンバーが驚きの表情になる。


「相手はカラーズのドラゴンっすよ? そう簡単にはいかないんじゃないっすかね」

 そんな声が重なる。誰もが身を案じてという感じだ。ブロンソンが話を吟味するようにしながら口を開いた。

「……いや、他の魔法使いなら反対しただろうが、ことこの嬢ちゃんなら一人でなんとかするだろうな」

「ブロンソンの直感ですか」

「おう。この嬢ちゃんはオレよりはるかに強いからな」

「ちょっ、ブロンソンさんっ」

 それは内緒のはずだ。


「仲間内できちんと戦力を把握しておくのは重要だろ? こいつらはよそで言いふらしたり、嬢ちゃんの不利益になるようなことはしないと保証する」

「……えっと……それなら、はい」


「話を戻すと、ジュリアちゃんが一緒に供物になる案にはぼくも賛成。ノーラちゃんを守るっていうのもそうだけど、あのしつこい王様を納得させるのにもいい手だと思うよ」

「ああ。この国のために犠牲になったということにしたなら、さすがにあきらめるだろうな」


「あとはドラゴンの神官たちがイエスと言えばか」

「ちょっと聞いてくるね」

 ルーカスが足取り軽く白服たちの方に向かう。その後ろ姿だけで、問題がなさそうに思えるから不思議だ。


 そう経たずにルーカスが戻ってくる。

「元々、最後だけはブロンソンさんたちのパーティが運ぶ予定で、その前の儀式に参加した上で、最後だけ一緒に入って運ばれるならかまわないって。要は二人だと重くて彼らには運べないっていうだけの話だね」

「おう。嬢ちゃんの二人くらいならオレ一人でも余裕で運べるからな」


「戦力的にはギルバートをフリーにする予定だっただろう?」

「自分とルーカスで運ぶから問題ない」

「さらりと巻きこむね。まあ、身体強化をかけてもらえれば短時間ならなんとかなるかな」

「オレたちが全員フリーになるのか。それなら安心だ。カラーズが暴れても大丈夫だろう」


「……あの。もしよければ目的地を教えていただけたりしますか?」

「ん? むしろちゃんと言ってなかったか。悪いな。今は暗くて見えないが、進行方向に山脈が見えていただろう? その向かって一番手前側、中腹あたりにイエロードラゴンの巣が確認されているそうだ。

 明日は平地、明後日は登山、明々後日の朝には儀式をして、供物をドラゴンに届ける予定だな。ここまでほとんど魔物にも出くわさずに順調に来ているから、予定通り着けるだろう」

「わかりました。明々後日の朝から私がノーラちゃんに合流すればいいんですね」

「そういうことだ」


「オスカー、少し、お散歩につきあってもらってもいいですか?」

「ああ、もちろん」

 昨日の夜と同じように小さな光を浮かべて、彼と手をつないで、あまり人がいない方へと歩いていく。


「……ジュリア。何をするつもりだ?」

 だいぶ離れたところでオスカーから尋ねられた。

「何かをするつもりに見えますか?」

「ああ。今日の散歩は抜けるための口実だろう?」

「ふふ。あなたには敵いませんね」

 気づいていて当たり前のように一緒に来てくれるのがありがたい。


「ドラゴンと話しに行きたいと思っています」

「ドラゴンと?」

「はい。彼らはただ生きていて、自分たちの場所を守ろうとするだけなのに、傷つけたくないなと」

「黙って卵を差しだすように説得する……というわけではないのだろう?」

「そこは状況次第ですかね。そもそも卵があるかもわからないですし。これまでのことも聞いてみて、これからのことも相談してみたいです」


「ドラゴンと相談してみたい、か。ジュリアらしいな」

「そうですか? あなたも、ペルペトゥスさんともケルレウスさんとも普通に話してますよね?」

「どちらもジュリアが普通にしているからな。慣らされた」

「ふふ。じゃあ、身代わりを置いていきましょうか。プレイ・クレイ。イミタティオ・ファクルタース」

 自分たちの土人形を作って、それらしい動きができるように能力をコピーする。二人で座って話す感じにしておく。


 続けて、視力強化をかけてからホウキに乗った。明かりをつけると移動に気づかれるから、暗闇の中で目的地に行かないといけない。意図を汲んだオスカーが同じようにして、一緒にドラゴンの巣へと向かう。


「オムニ・コムニカチオ」

 移動しながら、自分とオスカーに魔物と会話できるようになる古代魔法をかけておく。

 エイシェントドラゴン(ペルペトゥス)エレメンタル(ケルレウス)はヒトの言葉を話せたが、カラーズが話せるかはわからないから念のためだ。


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