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18 性転換の魔法、見えた目的地


「じゃあ、ジュリアちゃん。ちゅーしよう」


 スピラがそう言った瞬間、オスカーが運転を代わっていた絨毯じゅうたんがガクッと落ちた。

「ちょっ、オスカー、運転やめないで!」

 ルーカスが慌てて魔力を流す。スピードは出ないけれど、高度をキープして普通に移動するぶんにはルーカスでも問題ない。


 オスカーがこちらに来て、スピラと離すように抱きよせられた。

「自分の聞き間違いならいいのだが。今なんと言った?」

「ちゅーしようって」

「ここから落ちるか?」

「飛べるから問題ないよ」


「待ってください。スピラさん、どういう意味ですか?」

「んー? 補助アイテムとしてダークエルフ(わたし)の唾液があると、現代魔法でもできるらしいから。ちゅーして口移しするのが早いでしょ?」

「却下だ。それなら魔法を使わない男装でいい」


「現代魔法でもってことは、古代魔法なら補助アイテムなしでもできるってことですよね?」

「……できるけど、難しいよ?」

「はい。難しくていいので、そちらでお願いできればと」

「ちぇっ。あわよくばジュリアちゃんとちゅーできるかなって思ったのに」


「それが本音だろう? まったく、油断も隙もない……」

「そのくらいのごほうびはあってもよくない? 私ずっといい子にしてるんだから」

「よくない」

 オスカーが今にもスピラに噛みつきそうなのに、スピラはどこ吹く風だ。


「じゃあ、ジュリアちゃん。交換で私にも魔法を教えて?」

「え。私がスピラさん……、師匠に魔法を、ですか?」

 スピラは自分の魔法の師匠だ。多くの魔法は前の時にスピラから習っている。自分が教えられることがあるとは思えない。


「うん。空間転移と透明化。あとイメージの柔軟性かな。その辺りを習えたらいいなって」

「ダメだ」

「オスカーくんには聞いてないんだけど。なんでダメなのかな?」

「空間転移も透明化も、ろくなことに使わないだろう? どちらも男が使えてはいけない魔法だと思う」

「姿を消してここでいちゃつけたりできちゃうもんね?」


 スピラはずっと運転していて振り返っていなかったけれど、透明化してキスをしていたことに気づかれてはいたようだ。オスカーも真っ赤だけど、むしろ自分が恥ずかしい。


「えっと……、すみません。その犯人は完全に私で、オスカーは何も悪くなくて。私にオスカーが足りなかったというか……」

「なるほど? 透明化をかけずにいちゃついてもいいということだな」

「はい?」

 オスカーは何を言いだしたのか。そう思ったのと同時に、軽くついばむようにキスをされた。嬉しいけれど恥ずかしい。耳まで熱い。


「……ううっ。うらやましすぎて血の涙が出そう」

 スピラが表情をゆがめると、ペルペトゥスが楽しげに笑う。

 ルーカスの笑い声が続く。

「あはは。スピラさん的には早くジュリアちゃんの性別を変えちゃった方がいいんじゃない?」


「つまり、スピラの心が折れるまで目の前でジュリアといちゃつけばいいんだな」

 そう言うオスカーはなぜ楽しそうなのか。ほほへのキスも耳をむのもやめてほしい。オスカー以外何も考えられなくなりそうだ。


「うううっ、わかったよ……」

 スピラがしぶしぶという感じで了承した。

「私は理論を教えられないから、感覚で覚えてもらう感じでいい?」

「はい。私も理論より感覚派なので大丈夫です」

 前の時に師匠スピラにいろいろ習ったのも、何度か体験させてもらう形だった。それで問題ない。


「ムーターティオー・ウィル」

 スピラが古代魔法を唱える。

 肩が軽くなったと思ったら、胸がぺったんこになっている。髪も短くなったようだ。心なしか視点も高くなった気がする。


「えっと……、どうですか? 男の子に見えますか?」

 声もいつもより低いけれど、男性というにはまだ高い気がする。声変わり前という印象だ。


「男と言われれば男だが」

「かわいい少年っていう感じだね。中身がジュリアちゃんで外見にも面影があるから、新しい性癖に目覚めそう」

「はい?」

「……わからなくはない自分が怖い」

「オスカーまで……」

 この二人は何を言っているのか。自分へのひいきが過ぎる。


「ジュリアちゃん、化粧品貸してくれる? 今のうちに私ももう少し男らしくなりたいかな」

「わかりました」

「ルーカス、運転助かった。自分が代わる」

「うん、お願いね。ぼくも男の子のジュリアちゃんが見たいし、ついでにスピラさんの化粧の指導もするよ」

「私がついでなんだね……」


 オスカーが魔力を流す場所に戻り、代わってルーカスがこちらに来る。


「ルーカスさん、私ももう少し男性に見える化粧をした方がいいでしょうか」

「んー、その方が男っぽくはなるだろうけど。ぼくは今くらいでいいと思うよ。うちの姉たちに会わせたらもみくちゃにされそう」

「すみません、意味がわかりません……」

 ルーカスがこれでいいというならこれでいいことにしておく。


 スピラが見よう見まねで化粧をしていく。

「こんな感じ?」

妖艶ようえんなお姉さん感が増しましたね……」

「あはは。惜しいんだけどね。ちょっと手を加えるよ?」

 ルーカスが直していくと、少しの差に見えるのに、印象がガラリと変わっていく。


「これでどう?」

「え、すごい。私、カッコよくない?」

「ほんと、いつもの服でもしっかり男性に見えますね」

「惚れていいよ?」

「それはないです」

「ううっ、男のジュリアちゃんに言われてもすごいダメージ来る……」


「あはは。晴れて全員男のパーティになったね」

「私は元から男だからね?!」

 話し方や声がそのままでも、ちゃんと男性の印象になったから不思議だ。


 スピラがオスカーと運転を代わって、改めて絨毯じゅうたんを加速させた。

 スピラに魔法を教える件はうやむやになったけれど、オスカーがダメだと言ううちはダメだろう。何か他のことで恩を返せたらと思う。



 熱いエリアに入る前に気温調整の魔法をかけておく。目的地は一番熱いところを抜けた少し先だ。


「見えてきたのう。あの独特な形をした島が目的地よ」

 ペルペトゥスが示した方を見ると、マスタッシュとしか言いようがない、口ヒゲの形をした島があった。


「空から見ると完全にマスタッシュ王国ですね……」

「うむ。国の名をつけた者は国土の形を知っておったのであろう」

「横にある島がタバコのパイプっぽくておもしろいね。ベントって言うんだっけ? 曲線を描いてる形の」

「あれがゴーティー王国だろうか」


 口ヒゲ型の横に、パイプ型に見える島がある。大陸からは離れていて、他には点のような小島が少しあるくらいだ。

 少し前までマスタッシュ王国と戦争をしていて、マスタッシュ王国に勝ったというゴーティー王国はパイプ型の島だろう。


「ゴーティーとはちょっとイメージが違いますね」

 あごヒゲかと言われるとそう見えなくもないけれど、マスタッシュ王国との位置関係もあってかパイプの方がしっくりくる。


「どっちも飛行手段がないと行きにくそうだね」

「目的地はマスタッシュ王国のどのへんですか?」

「ふむ。口ヒゲとして見た、左側半分。そこを勾玉に見立てた時に穴があくあたりであったと思うが」

「あのへんかな? ちょうど町になってるみたいだね」

 生い茂った木々が開けている場所が点在している中で、一番大きなところだ。


「ムンドゥスの祭壇はムンドゥスの力が通りやすい場所のうちのいくつかに作られたからのう。感じる者にはパワースポットとして感じられよう。そこを中心に町ができるのも自然であろう」

 そう言われると、エルフの村では中心の古代樹にあったし、エタニティ王国でも王宮の真ん中にあった。


「とりあえず町に降りてみようか」

 スピラが高度を下げていく。木の骨組みに大きな葉がかけられた平屋の家が並んでいる。


「え、ちょっと待ってください……」

 町を行く女性たちの格好があまりにもありえなくて、目を見張った。


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