3 内緒の相談をしようとしたら即バレした
翌朝の朝食時、ペルペトゥスの地下室でこれからの動きを確認した。
十月一日付という形で余裕を持たせたのもルーカスで、魔法卿はすべてルーカスの言いなりだったそうだ。
(ルーカスさん、恐ろしい人……!!)
「九月の最後の土曜日にクロノハック山で、エルフの長老として魔法卿に会わないといけないでしょ? その時に魔法卿の直属だと、状況によっては不審がられるかもしれないからね。
その後がいいっていうのと、ジュリアちゃんの外部研修も、今の所が落ちついたタイミングで、新しい所には行かない形がやりやすいかなって。
そのくらい時間があれば、商会関係の話とか他の友人への挨拶とかもある程度できるだろうしね。魔法卿の翌日はキャンディスさんとの約束でしょ?
あとエルフの里にも行かないとだね。エルフの里の方は、各地を回っている間もできるだけ月一で行けるように考えようか。
ぼくとオスカーは一応実家にも話した方がいいかな」
「面倒をかけてすみません……」
「いや、自分のところは鼻が高くなるだけで、何も面倒はないだろう」
「ぼくのとこは迷惑かけないようにって言われるくらいかな。ホープのことは……、少し考えるよ」
「私たちはどうすればいいかな?」
スピラがそわそわと尋ねる。
「もちろん一緒に来てもらうつもりだよ。魔法卿にもそう言ってあるしね。拠点を持たないで旅をする形になるから、ペルペトゥスさんには元に戻れない不便をかけるけど」
「グレースの時ほどの長旅ではなかろう。何も問題あるまいよ」
「ありがとうございます」
「残りは祭壇三カ所と、世界の摂理に会う場所、合わせて四カ所だね」
「うむ。ウヌの元のダンジョンの近くはそうかかるまい」
「じゃあ、そっちからかな」
「そこが終わったらあと、南東のマスタッシュ王国と北の凍土ですね。祭壇が半分終わったので、ちょっと目処が立ってきた気がします」
「想定よりだいぶ大変な半分だったが……」
「あはは。ほんとにね。エルフの里長にされたり、ヴァンパイアに操られたり、大国の危機を救ったり」
「ううっ、前途多難な気がしてきました……」
長距離移動さえなんとかすればどうにかなると思っていたのに、事件に巻きこまれなかったことがない。さすがにそれが残り全部で続くとは思いたくない。
小さく息をついて肩の力を抜く。
「実は、前の時のエタニティ王国について思いだしたことがあって。関わりがなく、ちらりと聞いただけだったから今更ではあるのですが」
「なんだ?」
「前の時は……、天災によって滅んだことになっていました。生存者がなく、詳細不明と」
「うん。ぼくらが行かなかったら、魔法卿はあの雲の中に入れなくてあきらめていたかもね。ジュリアちゃんが知ってる未来はその先なんだろうね」
「奇跡みたいな偶然の上で、あの国の人たちは助かったんだな」
「違うところでは助けられなかった子もいたけど、あそこで出会ったみんなが助かったなら、戻ってきてよかったなって思います」
バタバタと日常を過ごすうちにあっという間に日が経っていく。
(なかなかオスカーがいないところでルーカスさんに声をかけられるタイミングがないのよね……)
完全に旅に出る前に、オスカーには内緒で相談しておきたいことがあるのだけど、魔法協会に出勤しなくなった今は、前以上に難しい。
家族と夕食をとって、部屋に戻った後に連絡魔法を送ってみることにした。
(たぶん寮の部屋にいる時間よね……?)
『ルーカスさん、ジュリアです。あの、オスカーには内緒で相談したいことがあって。どうすればいいでしょうか』
そう待たずに返事が来る。
『ジュリアちゃん、ルーカスだよ。言いにくいんだけど、オスカーと飲んでたとこだから、とりあえずおいで?』
血の気が引いた。あわてて身だしなみを整え直して、指定された店に飛んでいく。
「早かったね?」
「どういうことか聞かせてもらいたいのだが?」
オスカーは機嫌が悪いのに、ルーカスはものすごく楽しそうないい笑顔だ。
「ううっ……、ごめんなさい……」
「今更何を内緒にされたのかを知りたいのだが」
「……十月十四日。どうしたらあなたが喜ぶかなって」
恥ずかしくて少し顔を隠しながら告白したら、オスカーが驚いたようにしてから顔を赤くする。
「ぷっ、あはは! 時期的に絶対オスカーの誕生日の相談だろうなって思ってたんだけどね? オスカーがあんまりにもショックを受けてたからおもしろくて」
「ルーカス、お前……。時々そういうところがあるよな……」
「うん。ぼくはきみたちと違って性格悪いからね?」
「もう聞かれたなら直接話した方がいいと思って呼ばれたのかなって思ったのですが」
ルーカスが一瞬目をまたたいて口元をゆるめ、肯定も否定もしないで話を進める。
「ジュリアちゃんが少し早めに相談してきたのは、旅の途中だとお祝い自体が難しいタイミングな可能性があるからでしょ?」
「はい、そうですね。プレゼントによっては持ち運ぶのも難しいかもしれないですし」
「『プレゼントは私』でよくない? 一番嬉しいと思うけど」
「いやそれはまだダメだろう……」
「それまでに全部終わっていればそれでもいいのですが。ここを離れて二週間でぜんぶ解決しているかっていうと難しい気がするので……」
「二人揃って何を想像してるのかわかるけどわからないことにして、なかなかゆっくりデートをする時間もとれてないでしょ? その日くらいはいろいろ忘れて二人で過ごしたら?」
「あ、そういう意味なんですね」
「絶対にわざとだろう……」
「そうさせてもらえるなら私も嬉しいですが。でもそれだけっていうのもちょっと。結婚してからは欲しいものを聞いて用意したりもしていたけど、まだそれも味気ない気がするというか……。それに、二十歳の誕生日なので。ちょっと特別にしたいな、とか」
「ジュリアがそうしていろいろ考えてくれているだけで十分嬉しいのだが」
「私の誕生日がすごく嬉しかったので。あなたがいろいろ着てくれたのも、あなたがくれたプレゼントも」
胸元に輝いているネックレスにそっと触れる。ずっと大事な宝物だ。
「あなたが喜ぶことならなんでもしたいな、と」
「ジュリアちゃん、いったんそのくらいにしようか。オスカーが嬉しすぎて再起不能になりそうだから」
ルーカスに笑いながら言われた。オスカーは恥ずかしそうに片手で顔をおおっている。
「ジュリアちゃんがオスカーのことを思って考えたものならなんでも嬉しいと思うから、もう少し考えてみたら? 旅先でも、ここに戻ろうと思えば戻れるわけだし」
「そうですね……。知られたぶんハードルが上がった気もするので。もし何かほしいものや、してほしいことがあったら教えてくださいね?」
オスカーの手に軽く触れて、そっと指先に口づける。
「ん……」
オスカーが耳まで真っ赤だ。自分が来るまでにけっこうお酒を飲んでいたのかもしれない。