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26 敵は裏魔法協会


 情勢はほぼ四対一。しかも、少なくともラヴァはローブの子より強い。勝ち目は皆無だ。

 後から自分に不利になったとしても魔法を使うべきかと迷った瞬間、

「スィック・フォグ」

 ローブの子の声がした。あたり一面に濃い霧が立ちこめ、すぐ近くしか見えなくなる。

(中級の範囲魔法……)


「逃げるぞ」

「え」

 迷いなく手を取られて驚いた。自分の手と同じくらいの大きさなのに、しっかりと力強い。

「護衛対象はあっち……」


「フィン様はぼくが連れて行くよ。エンハンスド・アイズ。エンハンスド・レッグズ」

 ルーカスが目と脚の強化を唱える。部分ごとの身体強化は下級魔法だ。

「逃げるのは賛成。あの人数とまともに戦うのは、ぼくらには荷が勝ちすぎているからね」

 話しつつ走りだしている。


「インフォーム・ウィスパー。クルス氏、勤務時間外にすみません。ルーカスです。領主邸の庭でお嬢さんが裏魔法協会の魔法使いに襲われています。魔法協会には連絡済ですが、緊急性が高いので連絡しました。ヘルプをお願いします」

「あっ、ありがとうございます!」

 自分が思っていた最善をルーカスがとってくれて助かった。


 襲われているのはフィンであって自分ではないけれど、父にはそう言った方がすぐ動くだろうし、近くに領主夫妻がいた場合の不安も減らせるだろうから、内容にも賛成だ。

「うん。スピード的にも増援が足りるかっていう意味でも、クルス氏は欠かせなくなったからね」


「あの、相手の中に禁呪、人を操る魔法を使う魔法使いがいます。人が多いところに逃げるのは危険かもしれません」

「兵士たち?」

「はい。目の色が変わっていました」

「そっか。禁呪がなくても魔法使い同士の戦いにそれ以外を巻きこむのは犠牲が増えるからね。フィン様、いい隠れ場所……、逃げ場所ってある?」


 フィンが少し考えたような間を置いてから答える。

「裏の森がいいと思います」

「方向は?」

「館の横を抜けてその奥です」

「なら、この方向でそのまま駆け抜ければいい」

 霧魔法は使った術者自身は他より見えるのだったか。加えて、全身の身体強化に視力強化も含まれるから、ローブの子はそれなりに見えているのだろう。手を引かれて走り抜けていく。


 駆ける足をそのままに、フィンがグチるようにつぶやいた。

「……なんなんですか、あの人たちは」

「裏魔法協会みたいだね」

「裏魔法協会?」

「うん。追放とか仲違いで魔法協会から離れた魔法使いの一部がそう名乗ってるみたい。

 ぼくらが受けない暗殺とか破壊工作みたいな反道徳的な仕事も、金額次第でなんでも受けるって聞いたことがある」


(思いだした!)

 前の時の記憶に、その名はかすかに残っている。

 何度かスカウトを受けていた。

 表向き、自分は魔法協会から追放されていなかった。事件の犯人として疑われたけれど、錯乱していたため、証拠不十分あるいは心神喪失として、無期活動停止処分を言い渡されただけだ。


 活動停止というのは、魔法協会が斡旋する仕事を引き受けられないという意味で、個人で勝手に魔物を倒すのは問題ない処分だ。

 籍は残っていたけれど実質的には追放に近い。そうとらえてか、事件の直後、それから素材売却時に魔法協会の冠位を断った後などに、裏魔法協会のスカウトが顔を出していた。


 冠位を受けるなら活動停止処分も解除するという魔法協会側の申し出も、裏魔法協会からの勧誘も全て一蹴したが。興味はないし、そんなことに構っている余裕は全くなかった。


「誰かの依頼で裏魔法協会が動いているということですか?」

「だろうね」

(なるほど……)

 前の時もそうなら、メイドから足がつかなかった理由は明らかだ。メイドでも依頼主でもない、第三者である魔法使いが毒を盛れば、迷宮入りのできあがりだ。

 おそらく、裏魔法協会の魔法使いは検死用の魔道具の特性を知っているのだろう。犯人不明では手が出せない。狡猾なやり口だ。

(今回、毒殺じゃなくなった理由はわからないけど……)


「犯人の心当たりは?」

 足を止めないまま、ルーカスがフィンへと投げかける。

「……いいえ」

「ふーん? あるけど言いたくないって感じだね」

 フィンの表情は見えないけれど、間違いなく驚いているだろう。

(間とか声色とかで読んでるんだろうけど、ほんと、ルーカスは敵に回したくないわ……)


「森に入る。足元に気をつけてくれ」

「ありがとうございます」

「いや。抱き上げられればよかったんだが、この体格だからな……」

「いえ、そこまでは申し訳ないです」

 自分の手を引く小さな手は、ずっと、急ぎながらも気づかうかのようだった。


(ぜんぜん違うのに……)

 見た目も手の大きさも握った感じもまったく違うのに、オスカーに似た愛しさを感じるのはなぜだろうか。

(ううん、今はそんなことを考えてる場合じゃない)

 ハイヒールにドレスという最悪に動きにくい格好が恨めしい。それでもなんとか走れているのは、手を引いてくれる彼の功績だろう。

 なるべく木々を避けて進む小さな背に守られている気がして、その背がとても大きく見える。


「すみ、ません……。僕は、もう、ムリです……」

 荒い息づかいでフィンの足が止まった。

「うん。強化をかけてるぼくもキツくなってきたから、少し休もうか。この辺りまで来れたら上出来だと思うよ。上からも横からも木に隠されて見えないからね」


「広域の攻撃魔法を撃たれることもあるだろう。結界を張ろうか」

「うん。……きみは結構魔法を使ってるから休ませたいところだけど、ぼくにはできないからね。負担をかけてごめんね」

「いや。手が回らなかった連絡などをフォローしてもらっているからな。助かっている」


「クルス氏と協会に、状況と現在地を連絡するね。インフォーム・ウィスパー」

「全員近くに集まってくれ。結界で囲っておく。プロテクション・スフィア」

 この人数なら個々に防御魔法をかけるより、全員をおおう形の結界の方が効率がいい。ドーム型におおわれた中で座って、ひとつ息をついた。


 少し余裕ができたことで、思考が余計なことへと向いてしまう。

(声はかわいい感じなのに、話し方は似ているのよね……。戦い方も気遣い方も……。見た目はぜんぜん違うのに。

 姿を変える魔法……は、外見年齢しか変えられないし、このあたりには使える人はいなかったはず。いろいろ変えられる魔道具なんてあったかしら……?)


 魔法には詳しいけれど、魔道具の知識は人並みだ。少なくとも店で見た中にはなかったと思う。けれど、魔道具協会の管理によって市販されないものもあるから、絶対にないとは言いきれない。


 ルーカスが「きみ」と呼んだローブの魔法使い。その名を知りたいけれど、今ここで聞いていいのかを迷う。


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