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20 お見合い候補


 目の前に並べられた五人分の投影の魔道具は、お見合いのための顔通しだったようだ。

「……よく、こんなに集められましたね」

「可能性がありそうなところには片っ端から声をかけたからな」

(……ちょっと待って。何その公開処刑……)

 父は得意満面でドヤっているが、こっちは恥ずかしすぎて顔が燃えそうだ。


 母が困ったように、おっとりとほほに手をあてる。

「ごめんなさいね、ジュリア。私が話を聞いたのは、もうこの人が動いちゃった後なのよ」

「……まさか、職場でも?」

「もちろんだ!」

(なんでそんなに誇らしげなの……)

 ここにオスカーがいたら、穴を掘って入りたい。あきらめてもらうのには有効かもしれないけれど、こういう形を望んだわけじゃないとも思う。


「ちなみに、オスカー・ウォードもぜひと言ってきたが、もちろん断ったからな!」

(……ほんと待って)

 何がどうなってこうなってそうなったのか。ここまでくると本当に頭を抱えてしまう。

 言いたいことはたくさんあるのに、どれも言葉としてはまとまらない。


 母がやんわりと父をたしなめる。

「ほら、やっぱり、あなたの早とちりよ。ジュリアはこんなことを望んではいないわ」

「いや、話した時には確かに、二つの条件を飲める相手となら見合いをすると言ったんだ。なあ、ジュリア?」

「……確かに、そう言いましたけれど」

「ほら、な?」


「そんな方法をとられるとは夢にも思っていませんでした」

「彼らが気に入らないのか?」

「そういう話ではありません」

「なら、見るだけ見てから考えたらどうだ?」

 確かに、父がとった手段は心底やめてほしかったけれど、条件を飲める相手となら見合いをしてもいいとは言ったし、投影を用意してきた相手に罪はない。

 深くため息をついてから、改めて五人の姿を見る。


 うち三人は知っている。

 今回の自分は知らないはずだけれど、前の時の先輩、父の職場の人たちだ。


(ダッジさんと……)

 カール・ダッジはオスカーと一緒に自分の研修担当をしていたから、比較的よく覚えている。今から思えば、若手のホープ二人をあてられたのは直属の上司だったアマリア・ブリガムの差配だろう。父はいい顔をしていなかった気がする。


 他の二人は他の部門で、顔はわかるけれど名前までは出てこない。

 全員、オスカーほどではないにしろ有望とされていた先輩たちだ。みんな悪い人たちではないけれど、結婚したいとは思えない。


 残りの二人のうち、片方はどこかで見た気がする顔だけれど、誰だかは思いだせない。もう一人は完全に初見だと思う。

 かすかに見覚えがあるのは、色白ですらりとした感じの貴族服の男性だ。顔つきは優しそうで、やわらかなクリーム色の長い髪を軽くまとめて前に流している。少し年上だろうか。


 知らない方は、もう少し幼く見える。高級感があるスーツに身を包んでいて、メガネをしていることもあってかしっかりしてそうな印象を受ける。どことなく打算的な感じもしなくもない。

「……この方とこの方は、どなたですか?」

「こっちは領主の息子、フィン・ホイットマン。もう一人は商工会長の孫のバート・ショーだ」


(フィン・ホイットマン!)

 思いだした。

 暗殺された領主の息子だ。


 道理で見覚えがあるはずだ。前の時、見習いだった自分は直接護衛に加わってはいなかったけれど、護衛対象として投影の魔道具で姿を見ていた。

 バクン、バクン……。心臓がイヤな騒ぎ方をする。

(暗殺されたのはいつだった……?)

 思いだせない。


(思いださなきゃ。なんでもいいから、何か手がかりになることを……)

 季節は? 多分、わずかに汗ばみ始めた頃。ちょうど今とあまり変わらないくらい。

 状況は? 死んだのは一人ではなかった。兵士と魔法使いの護衛がいる中、確かそばにいた女性とメイドも一緒に毒殺されたのだったか。

 その女性は誰だった?


 ハッとした。

 繋がった。


 決意を固めて父を見る。

「フィン・ホイットマン様とお会いしようと思います」

「本当か?!」

「はい。けれど、ひとつお願いしたいことがあります」

「なんだ?」

「私がお会いするまで、そしてその結論が出るまでは、他の方とお見合いをしないようにとお伝えいただけますか?」

「それはもちろんだ。同時に会うなんていう失礼なことはさせない」

「ありがとうございます」


 父にていねいにお礼を言って自分の部屋に戻る。

 まだ心臓がうるさい。考えれば考えるほどに心音が大きくなっている気がする。


 フィン・ホイットマンは、お見合いの席で、お見合い相手と一緒に毒殺されていた。


 フィンとお見合いをすれば、何か事情を掴めるかもしれないし、助けることもできるかもしれない。

 少なくとも、自分が盾になっている間は相手の女性には危害が及ばない。

(当時、確か……)

 捜査に関与していないから詳しくは知らないけれど、知っている範囲の記憶を必死にたどる。


 親を交えた顔合わせを終えて、女性と二人になった後、庭のガーデンチェアで飲んだお茶に毒物が入っていた、という事件だったはずだ。

 最初に調べられたのは飲み物を運んだメイドだ。そのメイドも同じ毒で死んでいて、検死の魔道具が使われた。死後一時間以内、『はい』か『いいえ』だけを死者の記憶から聞ける魔道具だ。


(メイドは毒を盛った犯人ではないけれど、毒が入っていることも犯人のことも知っていた。けれど、関わりが疑われる全ての名前を聞いても『いいえ』しか返らなくて、時間切れ……だったかしら)

 メイドの所持品からは毒物を運べるものは見つからなくて、他の容疑者の身辺からも発見されなかった。

 他にも色々な捜査がされたけれど、犯人にはたどりつけないで迷宮入りしていたはずだ。


(大丈夫。庭にメイドが運んでくるお茶に毒が盛られるのがわかっているんだから、私の身は守れるはず)

 魔法を使わなくても毒を検知する方法はいくつかあるし、そもそも口をつけなければいい。

 フィンに出されたものへの対処の方が難しいけれど、なんらかの形で毒物のチェックができれば大丈夫だろう。

 メイドは一番フィンに近づきやすい立場だ。暗殺が成功するまでは生かされる可能性がある。

 間接的に、お見合い相手だった人も守れるだろう。


(……みんな、守ろう)

 これは未来を知っている自分にしかできないことだと思う。

 決意して、筆記の魔道具とにらめっこをしながら当日の状況を想定していく。


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― 新着の感想 ―
[良い点] みんなを守るのは難しそうですが、ぜひこの困難に打ち勝ってほしいです。
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