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2 広い場所の検討と言葉が通じない相席者


 ホワイトヒルに戻って、喫茶店のテラス席で休憩しつつ、ルーカスに連絡魔法インフォーム・ウィスパーを送る。

「ルーカスさん、ジュリアです。師匠以外のあてはすごく時間がかかりそうで。近いうちにルーカスさん同席で師匠と話せたらと思います」


 すぐに返事があった。

『ぼくはいつでもいいよ。休日は大体ひまだから。なんならこの後でも。

 何があるかわからないから、人目につかない広い場所で会うのがいいと思う』


「広くて人目につかない場所……。どこかありますかね?」

「ルーカスが何があるかわからないと言ってきたのは、戦いになる可能性もゼロではないということだろうからな……」

「もし私と師匠が本気で戦うことになったら辺り一帯が壊滅すると思います……」

「ああ……、魔法卿と戦った時も山に形跡が残っていたな。目撃されるとまずいのも含めると、更に難しいな……」


「うーん……」

 オスカーと一緒に頭をひねる。もしスピラと戦闘になってもなんとかなる場所となると、すごく難しい。


 ふと、いいことを思いだした。ペルペトゥスのダンジョン前に行ってきたおかげだ。

「地下室でも作りましょうか」

「地下室……?」

「はい。地上に広い場所をとろうとすると目立つので。外で話すのも、郊外であってもホウキで通りがかる同僚に目撃されないとは限らないですし。

 地下に空間を作って、中にイスも用意して。終わったら元に戻しておけば問題ないかと」


「地下に空間を作るとして、その分の土などは外に出さないといけないだろう?」

「あ、いえ。ダンジョンを作ればいいかなって。亜空間なので地上には影響しないし、消せば元通りです。ペルペトゥスさんに作り方を教えてもらっててよかったです」

 オスカーが頭を抱える。

「……ジュリアが何を言いだしても何をしても驚かないことにする」


「え、そんな変なこと言いました?」

 オスカーには国境を深い谷にしたのも見せている。ダンジョンが作れるくらいは今更だと思っていた。

「ダンジョンにはダンジョンマスターと呼ばれる、起点となる魔物がいることがあるとは知っていたが。人間にできるというのは想像したことがなかった」

「私も人間のダンジョンマスターは聞いたことがありません……」

 言われてみるとその通りすぎる。ペルペトゥスに教わったらできたから気にしていなかったけれど、珍しいことだと考えを改めた方がいいかもしれない。


「ダンジョン内は亜空間なんだな?」

「ペルペトゥスさんはそう言っていました。あ、だから、空間転移ができないのかもしれません。すっかり忘れていたのもあって、気づきませんでした」

「それを、ジュリアは作れると……」

「ペルペトゥスさんみたいな大規模なものはムリですよ。ペルペトゥスさんも何百年もかけて作ったって言っていましたし、環境調整とかバランスとか色々難しいみたいですし。

 あくまでもちょっとしたスペースを作れる程度で、ぜんぜん大したことじゃないです」

「ジュリアの『大したこと』の基準がわからないのだが……」


「うーん、大したこと……、世界の時間を百年戻す魔法ですかね」

「理解した。それが基準なら、他に『大したこと』はなさそうだ」

「理解してもらえてよかったというべきかなんというか」

 つい苦笑してしまう。確かに、このあたりの自分の感覚は大きくズレているかもしれない。


「席、ご一緒してもいいかしらあ?」

「え、かなり空いてますが……」

 ふいにどこかで聞き覚えのある声がして、断りつつ見上げ、息を飲んだ。

「ラヴァ……?!」

 真っ赤なドレスを着た、裏魔法協会のラヴァが笑みを浮かべている。

 オスカーがとっさに臨戦態勢に入る。


「戦うつもりはないわぁ。あるなら奇襲をかけるわよ? ちょっとお話をしたいだけ。今度魔法協会の前で待っているのと、どっちがいいかしらあ?」

 オスカーと視線を交わす。オスカーがこくりと頷いて座りなおす。ラヴァからの接触自体は想定内だ。

「それなら、今日、ここでお願いします」


「ジュリア、ノンマジック系の魔法は体の一部でも効果があるのか?」

「そうですね。呪文を唱える口元とか、あと、手から放つタイプの魔法は、手が入っていると使えないかと」

「わかった。……ラヴァ。ここで話す間は魔法を封じさせてもらいたい」

「ええ、いいわよ? トールから話を聞いて、問答無用でかけられる覚悟もしてきているもの。使えるのはお嬢さんなのでしょう?」

「それは秘匿事項だ。ウッディケージ・ノンマジック」

 オスカーが、先日見せてくれたのよりもひとまわり大きなケージを出す。成長が早い。


「あらかわいらしい。アナタもその歳で使えるのねえ?」

「その中に手を入れるんだ。許可なく出した瞬間、戦闘意思ありとみなして拘束する」

「はいはい。警戒心が強いのはいいことよ」

 ラヴァがおとなしく、両手を手首のあたりまでケージの中に入れた。


「それで、お話というのは」

「せっかちさんねえ。モテないわよ?」

「彼が好きでいてくれているので十分です」

「あらぁ、それは妬けるわねえ。私はもっと細身の子がタイプだけど」

「オスカーは世界一カッコイイと思います」

「……待て、ジュリア。なんの話をしているんだ?」

「あ、そうでした。ラヴァさん、今日はなんの用ですか?」


「決まってるじゃないの、冠位のお嬢さん。いいえ、もう、ジュリアちゃんと呼ぶべきかしら?」

「……冠位のお嬢さん、で」

 近しい人からは父の娘という扱いを受けたくないが、ラヴァから名前で呼ばれるのはゾワッとする。


「ふふふ。ジュリアちゃん(はぁと)」

「どうしてそうなるんですか……」

 なんだろうか、この、手に負えない感じは。

「……ジュリア。ルーカスを呼ぶべきだと思うのだが」

「そうですね……。いつでも呼んでと言っていましたし、今日は大丈夫そうですし」

「あらぁ、お友だち? かわいい坊やなら呼んでもいいわよ?」

「えっと……、フィン様のお屋敷で、最初にあなたと戦ったうちの一人です」


「まあ、生き残った方の坊や? もうひとりの子の方がかわいかったけど、死んじゃってたらどうしようもないものねえ?」

(それは目の前にいる、タイプじゃないと言われたばかりのその人です……)

 そういえば、裏魔法協会のメンバーはオスカーとあの時のローブの子が同一人物だとは知らないのだったか。わざわざ教える必要もない。


「えっと、呼んでもいいですか? 戦わないようには言うので」

「構わないわあ。若くてかわいい男の子をでるとうるおうものねえ」

 言っている意味がわからない。


(助けて、ルーカスさん……!)

 心の声をオブラートに包んで連絡魔法に乗せる。

『ルーカスさん、ジュリアです。今、執着されるかもと言われたあの女性に絡まれていて。師匠以上に切実に助けが必要です……。戦闘の意思はないそうです。場所は……』

 切実すぎて全然オブラートに包めなかった。


「ジュリアちゃん、パパは呼ぼうと思わないのかしらあ?」

「父ですか? 父に連絡したら問答無用で戦闘になると思いますが。お望みなら」

「いいえ? アナタが問答無用でアタシを捕まえる方にかじを切らない子でよかったわあ。トールとブラッドの坊やが言っていた通りねえ」

「ブラッドさんにもお会いしたんですね」


「あの子もかわいいわよねえ。もう少し小さくてもいいけど」

 こういうのをなんと言ったか。何か呼び名があった気がする。

 オスカーが眉を寄せて、小さく息を吐き出した。

「……ショタコンか」

「ああ、それですね……」

「あらあ? 別に年齢が低い子が好きなわけじゃないのよ? 自分より小さい方がかわいく感じるのは人のサガじゃない?」

 ラヴァは女性の中では長身だ。確かに、ルーカスより背が高い。


「……それには同意する」

「オスカー?!」

 オスカーは何を言っているのか。完全にラヴァのペースに飲まれている気がする。

(私がちゃんと言わなきゃ)

 しっかりとラヴァを見据えて、大事なことを口にする。


「私は賛成しかねます。オスカーはかわいいですから!」

 これだけは絶対に譲れない。


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