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21 参謀から深く釘を刺される


「簡単に言うと、もう少し怪盗ブラックと話したいなと」

 カミングアウトすると、オスカーはやはりという感じになる。ルーカスは奥底まで見抜いてくるかのように、じっと視線を向けてきた。

「なんで?」

「彼は貧民窟をなんとかしたいと言っていて。それは私も同じなので」

「貧民窟……」

「はい。ルーカスさんに話すのは初めてですね」

 孤児院のボランティアでのこと、空から見えた様子、フィンに相談しに行ったことやそこで言われたことを共有する。


「フィン様の話から、何も手がないように感じていたのですが。怪盗ブラックがしようとしていたことを知れば、なにかヒントになるのではないかと思って。

 もちろん、盗みは悪いことです。方法には賛成しません。けど、お金があれば解決できる問題なら、お金の作り方を変えれば済む話で。

 私には希少素材のあてがあるので。売る時の面倒はあるかもしれないのですが、やろうと思えばできるのではないかと」


 ルーカスが思いっきりため息をついた。

「あのさあ、ジュリアちゃん」

「はい」

「その話、完全に初耳。怪盗ブラックどうこうの前に、ぼくに相談してほしかったんだけど?」

「……ごめんなさい」

 自分の中では一旦保留になって飲みこんでいたことで、わざわざ蒸し返してルーカスに相談するという発想がなかった。

 けれど、ルーカスからすれば不満なのはわかる。


「と言っても、今々いいアイディアが出そうな感じはないんだけどさ。難しい問題だよね。物理的な問題よりも政治的な問題よりも、よっぽど難しい」

「ルーカスさんでも難しいんですね」

「うん。ぼくは、人の動機を見抜いてあおるのは得意な方だと思うよ。けど、動く理由より動かない理由が大きい人は動かせない。彼ら自身のどうにかしたい気持ちが育たない限りはただのおせっかいだしね」

「それは確かに、そうなんですよね……」

「社会的に必要なおせっかいっていうものもあるし、何か力になりたいっていうのが悪いとは思わないけどね」

 いろいろ言いつつ、本気で考えようとしてくれている感じがする。ありがたい。


「ジュリアちゃんがどうしたいかはわかったよ。オスカーが黙って聞いてたのは全部知ってるからでしょ?」

「ああ。自分も、なんとかできるものなら協力は惜しまないが、今のところは妥当な方法が浮かばない」

「うん。職務違反にならない形でブラッドと話せるかを含めて、ぼくも考えてみるから。一人でブラッドに会いに行くのは禁止ね。

 空間転移でソラルハムに行って、透明化して拘束されているところに忍びこんで話すとか、ダメだからね。バレなきゃいいとかそういう問題じゃないから」


「……ルーカスさん、読心術者ですか」

「きみが使える魔法を知っていれば誰でも思いつくよ……」

 ルーカスに心底あきれたように言われ、オスカーにまで頭を抱えられる。

「えっと、悪いことだとはわかってるので、はい。しないって約束します」


 オスカーが静かに言葉を受ける。

「それもそうだろうし、もし気づかれた場合はかばいきれなくなると思う。今日の話だと、魔法卿は空間転移が使える魔法使いが必要で、今は周りにいないのだろう?

 ジュリアが使えることが知られたら問答無用で連れていかれかねない。それは望まないはずだ」

「そうですね。そんな生き方はイヤなので、気をつけます」

 いつでも自分の希望を中心に置いて考えてくれるオスカーが大好きだ。


 ルーカスがまたひとつため息をついた。

「ついでだから聞くけど、トールに逃げられたっていうのはウソだよね。きみに逃がすつもりがなかったら逃げられないだろうから」

 ギクッとした。けれど、今更ルーカスに隠しても仕方ないだろう。

「……やっぱりルーカスさんには敵いませんね」


「なんで逃したの?」

「今回のターゲットではないので」

「オスカーも同意したの?」

「クルス氏も今回は待機でいいと」

「それはパーティ会場での戦闘にデメリットがありすぎるからで、そう難しくなく捕まえられるのに逃がすのとは違うよね。けど、ぼくが聞いてるのはそういうことじゃないんだ。

 ジュリアちゃん。なんで、逃したくなったの?」

「え……。それが自然だったから考えたことなかったです」

 やはりルーカスの目が笑っていない。とんでもないことをしたのだろうかと不安になってくる。


 ルーカスがたたみかけてくる。

「相手は指名手配中の犯罪者なのに?」

「そう言われてみると、そうですね。けど、なんででしょう。そう悪い人には思えなかったというか。魔法を封じた時点で戦闘にもならなかったですし、話は通じたし」

「悪い人には思えなかったって……、前にトールの魔法でオスカーが死にかけたのに?」

「あれは……、どちらかというと私が悪いので。魔法が使えることを隠して無茶をしなければ、オスカーに無茶をさせることもなかったし」

「そもそもフィンの命を狙っていたのに?」

「依頼を受けて、ですよね。今はもう狙われてないので」

「ホワイトヒルにワイバーンをけしかけてても?」

「あの時は困りましたが、結果的にはそんなに被害がなかったので」


「……ドワーフの長のために怒って、オフェンス王国を孤島にした時もちょっと思ったけど。ジュリアちゃん、今のきみは、人としての感覚がズレてる自覚は持ちなね。それは危ういことだから」

「……ごめんなさい」

「責めてるんじゃなくて、心配してるんだ。きみの裁定はすべてに対して公平すぎる。それがきみ個人の感覚で終わるなら問題ないけど、今のきみは世界をひっくり返せる力を持っている。

 なのにきみは、魔物のために怒って人の害になることだってしかねないし、犯罪者に同調して力を貸すことだってしかねない。ぼくはそれが心配なんだ」


 ぐうの音も出ない。オスカーに止められていなかったら、怒りに任せてオフェンス王国の王宮や軍部を破壊していたかもしれない。怪盗ブラックも、盗みさえやめてくれれば協力できないかと思ってしまう。

 それが人としてズレているのだと言われるなら、きっとそうなのだろう。前の時に一度すべてを失ってから長く人を拒絶していたから、どちらかというと魔物寄りの感覚になっているのだと思う。


「オスカーも。ジュリアちゃんの判断に引きずられるな。お前はジュリアちゃんびいきが過ぎるんだ。その自覚を持って、お前が一緒に舵を握れ。じゃないと、ジュリアちゃん自身を危険にさらしかねないんだから」

「めんぼくない」

 珍しく強くそこまで言って、ルーカスが肩の力を抜く。


「まあ、今回について言えば、トールを逃したのは正解だけどね」

「え……。逃したことを怒られていたんじゃないんですか?」

「いや? ジュリアちゃんの魔法について伏せたまま、きみたちだけであの二人を捕まえられる説明がつかないからね。今の形がベストだと思うよ。

 ぼくが叱ったのは、ジュリアちゃんが犯罪者に気持ちを寄せすぎてるとこと、そんなジュリアちゃんをオスカーが全肯定してるとこ。そこだけ反省して。本当に危うくて心配だから」

「ごめんなさい」

「すまない」





▼  [ルーカス] ▼



 食事を終えてジュリアを家まで送り届け、オスカーと並んでホウキで寮に向かう。


「オスカー、ちゃんとジュリアちゃんを捕まえておきなね。あの子がただの一人の女の子としてここにいるの、お前の存在が大きいんだから」

「ああ。わかった」


「万が一、お前に何かあったらって思うとほんと怖いよ。ジュリアちゃん、自分に何かされるより周りに何かされる方がずっと大きいから。

 相手がドワーフであの対応でしょ? お前に何かされたら、それこそ世界を滅ぼす魔王にでもなりかねない。ぼくにはお前なしで止められる自信がない」

「……気をつける。剣だけでなく、魔法ももっと学ばないとと思う」


「ほんと、ちゃんと長生きしてね……」

 前にオスカーが長生きしないとと言った時には随分と飛躍したと思った。けれど、今は心から長生きしてほしい。

 自分たちが惚(ジュリア)れた女の子(・クルス)は色々な意味で、あまりに規格外だ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで拝読。 50万字をこえてもなお、作者さまの『書きたい』が溢れていて、私も書き手としていい刺激になりました。 後ほどレビューさせていただきます!
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