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46 国境紛争を物理的に解決してみる


 オフェンス王国に来た時と同じ、ひと気のない裏路地に空間転移した。ドワーフのままでいるのは危ないため、バケリンクスのリンセに魔法を解いてもらって元の姿に戻る。

「これからどうする?」

「さっき話した通りです。要は、東の大国との国境線が侵されなくなればいいんですよね。国がなくなるかもしれない不安とか恐怖とか、そういうのが原動力なら」

「それはそうだろうが。できるのか?」

「政治的には、できません。けど、物理的にならできます」


「物理?」

「はい。この国を孤島にしましょう」

「……は?」


「東側の国との国境だけ解決しても、この国の感じだと、他の国を相手に同じようなことを始めないとも限らないので。

 いっそ、どことも隔離されればいいと思います。そうすれば国内をどうよくするかに目が向くのではないかと」

「同じことを聞いて悪いのだが。……できるのか?」

「はい。だいぶ魔力を使うので、リンセを今日中にクロノハック山に帰すのは難しくなりますが」

「それは構わないのニャ」

「今夜はうちに泊まってもらうということで」

 両親への言い訳はあとで考えることにする。


「自然現象だと思わせたいので、魔法使いの姿を目撃されないように、まず透明化の魔法をかけますね」

「……そんなこともできるのか」

「倫理的に微妙なので、なるべく使わないようにはしていますが。あ、かかっている者同士は、同じ術者がかけていれば見えるので安心してください。

 トランスパーレント・カラーレス」

 唱えて、三人の姿を消す。かかっている同士だと見えるため、あまり実感はない。

「これでいいはずです。アイアン・シールド」

 魔法で小さな平たい鉄の盾を出す。景色は映りこむのに、自分たちの姿は映らない。

「これは……、すごいな」

「こういう時には便利ですよね」


 ホウキを出し、リンセを前に乗せて上空に向かう。ホウキのような、触れているものも周りからは見えなくなる。

 後ろからオスカーがついてくる。

「わー! 高いのニャー!」

「怖いですか?」

「たーのしーニャーっ!」

「それはよかったです」


 オフェンス王国の国土全体が見渡せるくらいの高度まで上がる。リンセが寒くないようにホットローブの中に入れた。

「正確な国境はわからないのですが。人や家などに被害が出ないところで、なんとなくで許してもらえたらと」

「何をするんだ……?」

 オスカーはピンときていないようだ。これから使う魔法を知らなければそうだろう。


「フィト・ウィア・ウィー。エンハンスド・アイズ」

 まず、次に使う魔法を強化する古代魔法をかけ、地上がよく見えるくらい視力を上げる。上空から人的被害を出さないようにするには必須だ。

「フィト・ウィア・ウィー。ラーテ・エクスパンダレ」

 もう一度強化魔法を唱えて、魔法の効果を広域に広げる古代魔法を使う。

「フィト・ウィア・ウィー。アースクイック・クラークス!」

 仕上げは、強化した地割れの魔法だ。記憶にあるオフェンス王国の国境線をイメージしながら、ぐるりと一周、巨大な地割れを作っていく。


「……は?」

 横で見ているオスカーが全力で引いている気がするが、今は魔法に集中する。

 なるべく地割れ以外には被害を出したくないから、かなりの集中力が必要だ。


 スタート地点に戻って地割れがつながり、オフェンス王国は絶壁の谷に囲まれた孤島になった。

「大体どこも十メートル前後の幅にしたので。もう空を飛ばないと行き来できないかと」

 魔法使いは空を飛べるが、大体、戦争というのを面倒くさがる。個人や組織単位での利害で戦うことはあっても、国同士の争いには関与しない印象だ。

 国際組織である魔法協会がその権利を保証しているのも大きいだろう。魔法協会を敵に回したい国はない。

 魔道具のじゅうたんを魔石で飛ばすこともできるけれど、それで戦争はできない。

 魔法使いにしか争えない状況なら、軍備拡張を止めるのには十分なはずだ。


「……アースクイック・クラークスは戦闘中に小さな亀裂を作って相手の足場を崩す魔法だと思っていたが」

「一般的にはその認識であってますよ」

「……一応、聞くが。一国を滅ぼすくらい簡単だと言っていたのは……、本当なのか?」

「え、簡単ですよね? 物理なら。メテオで首都を全部潰してもいいし、地殻変動で奈落の底に沈めてもいいし、大雨洪水で流してもいいし、雷や炎で焼きつくしてもいいし、全部凍らせてもいいし、魔物を使役して襲わせてもいいし。禁呪を使ってよければ毒とか……」

「……いや、もういい。ジュリアが人命を優先してくれてよかった」


「ヌシ様すごいのニャ! もうヌシ様というより魔王様なのニャ!」

「いえ……、それは遠慮させてください……。私はただの普通の女性でいたいです……」

「普通の……?」

「オスカーまで……」

 ちょっとやりすぎただろうか。彼から女の子として見てもらえなくならないかは心配だ。


「情報が伝わったり状況確認がされたりするのに、しばらく時間がかかると思うので。今日はこのまま戻って、来週また来ましょう」

「そうだな」

「長老様にはもうしばらくガマンしてもらうことになって申し訳ないですが。いったん、ドワーフの隠れ里に報告に行きましょうか」



「……というわけなので、状況確認ができれば、軍備自体が必要なくなるはずです。来週末、もう一度交渉に行きます」

「ニンゲンの魔法使いはそんなことができるのか……」

 ドワーフたちの顔がひきつっている気がする。ヒゲに隠れてあまり見えないが。

「いや、ジュリアが特殊で、規格外だと思ってほしい。普通はできない」

「味方になってもらえてよかったとしみじみ思っておる」

 しみじみがすごくしみじみしている。


「なので、すみません。もう一週間、ガマンできますか?」

「わしなら大丈夫じゃ。全回復してもらったばかりじゃから、ピンピンしておる」

「もし来週、かけた魔法使いが捕まらなかったり、解呪を拒否された場合は、また回復に来ますね。回復しつつ解呪師の都合をつけられたらと思います」

「そこまで考えてもらっておったか。報酬が見合わぬじゃろうて」


「あ、それなのですが。お願いしたいことが二つあって」

「ふむ。なんじゃ?」

「ひとつは、もし、知り合いの解呪師が受けてくれる場合、その人が希望するなら、みなさんが作る装備一式をもう一人分お願いできないでしょうか」

「もちろんじゃ。みなもよいか?」

 その場にいる全員から賛成が返る。

「ありがとうございます。もうひとつは、私の探し物について話を聞きたいのと、場合によっては協力してもらえたら嬉しいです」

「ふむ。その探し物というのは?」

「今回の件が解決してからにしましょう。それはそれで面倒な話なので」

「よかろう」


 夕飯も誘われたけれど、昼とは違うものを食べたい。あまり帰りが遅くなるわけにもいかないから、お礼を言って辞した。オスカーとリンセとホワイトヒルの方へと戻る。

「リンセは、自分の姿を人間に見せることもできますか?」

「もちろんニャ」

「なら、そうしてもらった方が食事の店も入りやすいし、うちにも泊めやすいかと」

「わかったニャ」

 リンセがヒトの姿になる。元の身長のままで、七、八歳くらいのかわいい女の子に見える。


「自分の親戚ということにしてもらって構わない」

「ありがとうございます」

「なら、少し見た目を寄せてみるニャ」

 金色の瞳はそのままに、髪色がオスカーと同じ深い紺色に変わる。いっそうかわいい。どことなくクレアを思いだして、ぐっと飲みこんだ。


「来週もお願いしたいのですが。明日朝イチでクロノハック山に帰してまた来週迎えに行くのと、一週間うちに泊まってもらうのと、どちらがいいですか?」

「ヒトの街は初めて入るから、見て回ってもいいニャ?」

「あ、じゃあ、明日色々案内しますね。平日はお仕事があるので、あまり構えませんが」

「お構いなくなのニャ。必要があれば大人に化けることもできるのニャ。翻訳魔法だけはお願いしたいのニャ」

「はい、それはもちろん。あと、おこづかいも渡しますね」

「おこづかいニャ?」

「はい。ヒトはお金というものと、ほしいものを交換するんです。その辺りも教えますね」

「頼むのニャ」


 三人の夕食も楽しかった。新しい娘ができた気分だ。

 オスカーの親戚の子を一週間預かりたいと言ったら、両親は一瞬驚いたようだったけれど、すぐに歓迎してくれた。孫というよりも二人目の娘という感覚のようだった。

「にゃんにゃんっってかわいいわね。ネコミミをつけたくなるわ」

 母に言われてちょっとギクリとした。他意はないのだろうけれど、母は時々鋭い時があるのが、ある意味では父より怖い。


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