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38 仲よくしなきゃダメですよ


 ピカテットの会はショー邸で開かれた。

 バーバラからの手紙ではクルス邸を希望されたが、オスカーとルーカスに相談したら絶対にダメだと止められた。

 一度上げてしまうと今後も乗りこまれる可能性が高いと言われ、その通りだと思って、男性の友人を上げるのは父の許可が出ないと断った。


「ジュリア! 待っていたわ」

 オスカーとユエルと訪ねると、バーバラからハグされる。肩の上のユエルが頭の上に避難する。

「バーバラさん、こんにちは。お邪魔します」

「フィンくんはまだなの」

 わくわくと嬉しそうな様子が伝わってくる。そわそわしているのがかわいい。


 話していると馬車の音が近づいてくる。

「ここでちょっと待ちましょうか」

「ええ、そうね!」

 そう待たずに馬車が家の前に停まった。フィンが、ピカテットが入ったカゴを片手に降りてくる。

「やあ、リアちゃん、バーバラ、……オスカー・ウォード」

 オスカーを呼ぶ声だけが低く聞こえたけれど、気にしないでおく。

「フィンくん、いらっしゃい!」

「こんにちは、フィン様」

「久しぶりだな」


「今日はピカテットの飼い主の集まりなのに、ピカテットを飼ってないオスカー・ウォードは何枠なのかな?」

 フィンの言葉に、オスカーが勝ち誇ったようにニヤッと笑って恋人つなぎで手を取ってくる。

「ジュリアの彼氏枠だ」

「え……。つきあうことになったんだ……?」

 フィンの視線が驚いたように自分に向いた。

「えっと……、はい。実は、十月中旬に」


「貧民窟の話の時はそんなこと……、まあ、公用だったし、僕もそっちのモードだったもんね」

「そうですね」

「こうして見ると、あの時一緒だった子、ジョンくんだっけ? リアちゃんの親戚っていうより、オスカー・ウォードの弟って言われた方がしっくりくるな」

 ギクリ。弟どころか本人だ。しらばっくれるしかない。

「赤の他人なのに似ているの、不思議ですよね」


「あの時はちょっと言い過ぎたかと思ってて。ごめんね? 大丈夫だった?」

「はい。私のために言ってくれたんだろうと思っています」

「そっか」

 フィンが安心したように表情をゆるめた。

 オスカーがケアしてくれて、ユエルが怒ってくれたから、もうだいぶ気持ちの整理はついている。むしろ、今日ユエルがフィンに攻撃しないようにさとしてくる方が大変だった。


「こんな季節にこんなところで立ち話なんかしていないで、早く入ってちょうだい。寒いでしょう?」

 自分とオスカーはホットローブ着用だから問題ないけれど、バーバラとフィンは冷えるだろう。言われた通り家の中に入らせてもらう。

 前回のソファの部屋ではなく、大きなテーブルがある部屋に通された。


「いらっしゃい、ジュリアさん、フィン様、オスカー・ウォード」

(フィン様もバートさんもオスカーにはトゲがあるのよね……)

 連れて来たのが申し訳なくなるけれど、彼の方は特に気にしていなさそうだ。


「ピカテットを乗せてもいいように、テーブルには何も置かないようにしました」

 バートがそう言って、自分のピカテットのカゴをテーブルに置き、扉を開ける。

 フィンもそれをまねて、カゴを置いて扉を開けた。

 二匹のピカテットが顔を見合わせる。ユエルは自分の頭の上で高見の見物だ。


「お名前は決まりましたか?」

「うちはパールよ!」

「俺はビジューを押したんだけど、バーバラに押しきられたんだ」

「僕の子はエメラルド。愛称はエメル。よろしくね」


「性別は?」

「男の子よ」

「雄だね」

 パールとエメルはユエルに気づくと、とたんに雰囲気が変わり、興奮気味に飛びあがった。

「あ」

 ユエルの方につっこんできた二匹を、ユエルがはたき、つつき、蹴りとばす。


「ちょっ、ユエル。ダメですよ、仲良くしなきゃ」

(フィン様に攻撃しないように言ったように、他のピカテットにも攻撃しないようにって言うべきだったかしら……)

 フィンに対しては怒っていたから予想できたけれど、他のピカテットへの攻撃は想像できなかったのだ。少なともクロノハック山では周りの魔獣たちとうまくやっていたと思う。

 テーブルの上に落とされた二匹を見下ろして、ユエルがフンッと言うかのようにふんぞり返る。


「今のは向こうが悪いだろう。ユエルは正当防衛だ」

(正当防衛……?)

 オスカーがそう言った意味はわからないけれど、ユエルなりに理由はあるのだろうと思い直した。前にバートが撫でるのを拒否した時にも理由があった。後で聞いてみようと思う。


「おやおや、どうやらパールもエメルくんも振られてしまったようだ」

「一瞬でしたね……」

「何が気に入らないのか……」

「とりあえずおやつをあげたらどうかしら? 仲良く食べていたらとてもかわいいと思うわ」


「そうだな。ピカテット用のドライフルーツを持ってくる」

 バートが棚から布袋を取ってきて、中身を三匹の前に数個ずつ置いた。

 ユエルが見上げてくる。

「もらっていいですよ」

 うなずきながら言って、軽く頭を撫でる。


「そうそう、リアちゃんに聞きたいことがあって」

「なんですか?」

「リアちゃんのピカテット、リアちゃんから離れないよね。ピカテットがそういうものかと思っていたんだけど、エメルは全然懐かなくて。我が道をいく感じで、カゴに入れないと連れだしたりできないんだ」

「それ、わたしも思っていましたわ」


「パールも俺たちの後をついてきたりしないね。こっちから一方的に構う感じ」

「どうやったらジュリアみたいに懐かせられるのかしら?」

 みんなから聞かれたけれど、そう言われても困る。ユエルが懐いているのはかなり状況が特殊だ。

(私の魔力が高いとか、山の困りごとを解決してヌシ認定されたとか、何ひとつ言えないのよね……)


 話せる範囲の言葉を選ぶ。

「ユエルが特殊なのかもしれません。元々ピカテットを飼いたかったのではなくて、懐かれてついて来られたから飼う許可をもらったので」

「どうしたら懐かせられますの?」

「どうでしょう。なぜ懐かれたのかは私にもさっぱり」

 これもしらばっくれるしかない。


 オスカーが助け船を出してくれる。

「ジュリアより、ブリーダーやペットショップの店員に聞いた方がいいんじゃないか?」

「この二匹を買いつけてきたのはうちの商会なので。担当者を通してブリーダーにも聞いたけど、ピカテットは基本的に気ままなものだと言われました。長く飼ううちに懐く個体もいなくはないけれど、期待しない方がいいと」

「あー……、ユエルも気ままですね。たまたま私に懐いたというだけで」

「うらやましいわ」


 飼い主が話している間に、テーブルの上では変化があった。

 パールとエメルが、自分たちがもらった分をユエルに貢いでいる。が、ユエルは見向きもしないで、自分の分を食べたら肩に戻ってきた。雄二匹が見上げて悲痛な顔をしているように見える。

 隣のオスカーが笑いをこらえている気がする。


 少し雑談をした後、パールとエメルはそれぞれカゴに戻されて、昼食が出された。二匹ともカゴに戻る前に抵抗してユエルの方に飛んできたけれど、蹴り落とされての回収だった。

「パールは随分、ユエルちゃんに執心なようだ」

「エメルもだね」

「どうだろう、ジュリアさん。このかわいそうな子たちに、時々チャンスをくれないか?」


 ルーカスが「ピカテットを口実に、継続して会う約束をさせらる可能性が高いと思うから、気をつけなね」と言っていたことを思いだす。言われていなかったら、そのまま受け取って了承したかもしれない。


「えっと……、ちょっと色々、しないといけないことがあって。時間をとるのが結構、難しいと思います」

「月に一回とかも難しいかしら?」

「そうですね……」

 どうしたものかと考えていたら、いいことを思いついた。

 恋愛対象として狙われる懸念も、自分の忙しさも解消された後なら問題がないのではないだろうか。


「えっと……、私がオスカーと結婚した後ならいいですよ」

 その場の全員が固まる。


(あれ? 何か変なこと言ったかしら?)


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