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● 八方塞がりなスタート


ある日、父と兄が戦地にて死んだ…


顔を見るたびに俺の事を散々、


「クソみたいなスキルしかない出来損ない!」


と蔑んでいた二人ではあるのだが、そんな家族の死でもどうやら辛いものらしく俺は自分の薄暗い部屋にある小さな窓から遥か遠くの空を眺めながら、


『貴族って大変なんだな…戦争に行かないといけないんだから』


と、俺の知らない戦地にて散った父と兄の事を考えていたのだった。


俺はこの国の子爵家の次男として今回の生を受けた…そう、今回と言っているという事は()()があったのだが、特に何の楽しい思い出も無い残念な人生だった記憶しかない…介護の仕事に就きそして腰を痛めてしまい大きな病院の名医と評判の先生に手術をしてもらう事になったのだが、しかし、名医と云えど人の子…失敗はする。


結局、俺は歩いて入院をして手術を受けたが一生車椅子生活になり退院する結果になってしまったのだ。


そして、悪い事に名医のプライドから非を認めず、こちらが「訴える!」とも何とも言わない状態なのに先んじて部下の医師が、


「手術の際に書類に判子をつきましたよね?!」


と、謎の圧をかけてくる始末であった。


そんな事がありアラサーで車椅子ユーザーになり職は勿論、何もかも失った俺にはもう裁判などという戦場に赴く気力は無く結果として何の保障も無い状態のクソみたいな人生がスタートしたのだった。


釣りやDIYが趣味だったが家からもほとんど出ずにすることも無く、頼れる家族もいない俺は何とかこの体で独り生きていく事だけでもやっとになってしまい、結局のところ()()()()()として晩年を過ごした…いや、それしか出来なかったのだ。


記憶では痛みや動かない下半身と戦う日々だったのだが、ある日のこと何故か気がつけばこの世界で五歳になると受けられる祝福の儀というイベントで教会のオッサンに、


「ナルガ子爵家、次男キース…魔法適性無し!保有スキル(自宅警備)!!」


と、宣言された瞬間に前世の俺を思い出してこちらの世界での人生をスタートさせたのだった。


その瞬間、今までの幼い子供の記憶と前世の記憶が混ざる様な感覚に少し酔いながらも何とか耐えていたのだが、そんな事よりも自分にとって問題なのは、


『この世界、特に貴族社会では魔法を使える奴が偉い』


という現実であり、この才能ばかりは生まれもっての魔法適性の有無が重要で、いくら金や時間をつぎ込もうと後天的にはどう頑張っても手に入らない能力なのである。


聞けば魔力とやらはそれなりに皆持っているらしいのだが、そもそも適性が無いと乾電池は有るが電子回廊が無い様な物らしく如何に訓練しても魔力を魔法として変換出来ないらしいのだ。


まぁ、一般家庭ならば魔法適性の無い子供など沢山居るしむしろ適性が有る方が少数なのだが、しかし、下っぱ貴族と云えど我が家はお貴族様の家の為に『魔法適性無し』の判定は家の方針的にも問題外だったらしいく、最悪魔法が使えなくても授かったスキルが剣術や槍術等であれば良かったのだろうが、得体の知れない『自宅警備』という何ともアレな名前のスキルではとても戦地にて役に立ちそうもないのである。


そんな事で正直なところ鑑定結果を聞いて、貴族家の子供としては詰んでいる状態からのスタートであるのは幼い俺にも理解は出来た。


家には魔法適性のある長男も居るし、本人としても貴族社会とやらに興味がある訳でもなく、むしろ厄介な戦争などに駆り出されるスキルでは無い事に若干ホッとしている自分が居たのではある。


そしてまぁ、その日のうちに案の定と云うか自動的に跡目争いから外れる事になった俺は父から、


「15までは養ってやるが、それ以降は領地の端の畑付きの家をやるから自分で生きていけ!」


と宣言され、その日を境に屋敷でも家族とは別棟で暮らし、


「他家にお前の存在がバレるから…」


などと、魔法適性の無い息子が居る事実を知られたくないという貴族的なプライドからくる理由で、出来損ないの俺は学校にも行かせてもらえなかった。


ただ、生きてゆくのに文字ぐらい読めなければと情で家庭教師をつけてくれたのが父からの最後のプレゼントだったのだろう。


既に兄と俺を産んだ母は若くして病に倒れており、家族は俺を蔑む父と兄…そして、俺を嫌いではないが多分兄として慕っていないであろう腹違いの弟とその母親からも冷たくあしらわれ、誰も俺の味方が居ない屋敷で唯一の味方が父が気まぐれで購入した同い年の奴隷の少年〈ナッツ〉だけで、彼は俺専属の使用人であり、この屋敷での俺の唯一の話し相手であった。


俺はあの祝福の儀でスキルを鑑定した日以来ずっと何年も屋敷の書庫とこの薄暗い離れの自室を往き来するだけの日々で、ナッツが離れに持ってきてくれる飯を食べてナッツ以外とはろくに会話も無く、たまに廊下で家族に会えば嫌味を一方的に言われる生活を送ったのだが、しかし、そんな事ぐらいでは俺の心は折れなかった。


なぜなら、前世でもっと酷い状態を経験していたからだ。


どうやって前世での最期を迎えたかすら思い出せないが、終始クソみたいな日々を不自由な体のまま大半の人生を耐えた記憶がある。


なので、多少もやしっ子ではあるが今の自由に歩けて走れる上に何処の痛みにも悩まされる事がない体で、前世では自宅に引きこもり誰とも話さなかったが今回はナッツが毎日話し相手になってくれるので他人とも関われているし、この世界の大概の知識は屋敷の書庫で手に入ってしまうし、更に離れに軟禁状態ではあるが父の計らいで15までは飯まで付いてくる事を考えれば前世よりもかなりの好条件である。


まぁ、不満が有るとすれば飯のお味が前世より微妙にアレな事ぐらいであるが、それも家をもらって独り立ちすれば自炊になるので後の人生の楽しみとしてこの際目をつむる事にしているのである。


そして俺はこの家を出たらなるべく目立たず一般的な生活を謳歌する予定でいる。


可能な限り厄介事とは無縁なのんびりした生活を送り、自宅にて前世の記憶で美味しい物を作りひっそりと楽しむ人生の為に今は知識を蓄えて、独立したら小さくても良いから食べていける様に何かの商売を始めるか、はたまた最悪でも冒険者になればギリギリその日暮らしぐらいは出来るだろうし、


『可能であれば、可愛いお嫁さんを貰えたら最高かな?…』


などと今後の人生を軽く考えていたある日、ナッツが慌てながら父と兄の訃報を持ってきたのが俺の14歳の誕生日の翌日だった。


勿論、俺の誕生日など誰からも祝われる事もなく、ひっそりと14歳になったわけだが…


『そろそろ独りで生活するための準備と15歳で貰える予定の家の手入れや畑の開墾をしなければ…すぐに自給自足は難しいかな?』


などと俺が呑気に考えていた矢先に戦死した父に代わり二歳年下の弟〈マイア〉がナルガ子爵家の当主になったのだ。


後継ぎである兄も戦死し、病気で亡くなった母の実家から兄を当主にするべく働いていた古参の家臣達の多くも戦地にていっぺんに失い、この家の権力がマイアを当主に据えたい勢力に流れたのだからそれについて何ら不思議ではない。


そして、父と兄の葬儀や家のゴタゴタが一段落した日にマイアが俺を呼び出し、


「父上が出来損ないのお前と交わした約束など知らない…今日というのは余りにも可哀想なので、明日の日暮れまで猶予をやるから出ていけ!」


と言われたのだった。


急な話に俺は、


「15まではと父上が仰っておりましたし、家も、領地の端の畑付きを…」


と抗議しようとするとマイアは、


「えぇい!父上との約束など知らんと言っている!!

せめてもの情だから、あの奴隷は連れていけ!二人で冒険者でもすれば飢え死にはしないだろう」


と俺の抗議を遮り一方的な追放が宣言されてしまったのだった。


俺は困り果てながらも父が愛用していた椅子に座るマイアを見ると、弟の周りには今まで父や兄一派ではなく第二夫人の周りの面々が、クスクスと追放宣告を受ける俺を笑っていたのだった。


しかし、この瞬間に俺は、


『多分彼らは第一夫人の息子の俺が煙たいのだろうな…』


と妙に納得してしまったのだった。


多分この急な追放は数は少なくなったとはいえまだ屋敷に残っている兄の一派が俺を担ぎ上げないようにしたい意図がみえみえである。


『もう、跡目争いからは脱落している俺を警戒してご丁寧に…何ともご苦労な事だな』


と呆れながらも、この状況になった事を理解した俺は大人しく弟の指示に従う事にしたのだった。


そうして、この日俺は住む場所すらも無くしてしまったのだが、正直な感想としては追放に関して驚く程に無念な思いは無くて、ただ本人的には少し予定が早まったぐらいの感覚である。


いや、むしろ畑付きの家が貰えない事の方にガッカリしたくらいで、それどころか追放されるというのに、


『元気な体があるので何とか出来る…というか、色々やってみたい!』


という気持ちが勝ってしまっていた。


そして、見回しても特に持ち出す物も無い牢獄の様な薄暗い屋敷の離れから翌日の朝一番にナッツと二人で旅支度も何もない状態で出て行くことになったのだ。


朝の静けさの中で俺は門の所で振り返り長年住んだお屋敷に形ばかりの一礼をして門の横の通用口をくぐる。


先ほど一瞬であるが屋敷の二階にマイアの小さな影が見えたような気がしたが、


『多分見間違いだろう…』


と一人で納得してからナッツと並んでトボトボと小高い丘の上に建つ屋敷から下の街を目指して二人で歩き始めた。


少し歩き、あまりの静寂に耐えるられなかった俺はナッツに、


「ナッツ…俺が15歳で家を貰えたら正式に解放してあげる予定だったけど、解放が早くなって良かった…のかな…ナッツはこれからどうするの?」


と彼の今後の予定を聞くとナッツは、


「水くさいですねキース様…

昨日マイア様に奴隷解放の手続きをしてもらい、兄を頼むと言われておりますので一緒についていきますよ」


と言いニコニコしながら歩いている。


一緒に来てくれるという内容に喜ぶべきなのだろうが、その前段階のナッツの台詞が気になり、


「えっ、マイアが!?」


と、驚いている俺に彼は、


「これを」


とだけ言って手紙を差し出してきたのだった。


俺は足を止めてその手紙を受け取り読み始めると、そこには、


『兄上へ、


兄上、この度は何も持たせずに追放してしまい申し訳ありません…兄上に家を用意する事を母上やその側近達に納得させられなかった僕の力の無さが原因です。

これで、何とか生き抜いて下さい。

あのまま家に居れば兄上は命を狙われていたでしょう…こうするしか僕には兄上を守れる手段が思い浮かびませんでした。

しかし、数年後に僕がこの屋敷で力をつけて周りを黙らせる事が出来るようになれば、必ず兄上を探して全力で支えます。

この屋敷で第二夫人の子供でも分け隔てなく接してくれたのは兄上だけでした…兄上が離に幽閉されてからは、母上の言い付けもあり会いに行くことも許されませんでしたが、兄上には感謝しているのです。

それなのに…ごめんなさい…また会える日を楽しみにしています。


貴方の弟、マイア・ツー・ナルガより』


との内容の便箋とマイアの貯めたお小遣いなのか小金貨一枚と大銀貨二枚が入っていた。


俺は、


「あの時の二階の窓の影は…見間違いじゃなかったのか…」


と呟き、隣に立つナッツを見ると、


「だからいつも私が言ってたでしょ?あの家でキース様を心配してる人間が私以外にも居るって…」


と言ってニッコっと笑いかけている。


俺はその手紙を大切にポケットに入れた後、微笑むナッツと二人でもう一度遠くに見える屋敷を眺め、そしてまた歩きだしたのだった。

読んでいただき有り難うございます。

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[良い点] まーたいつものパターンか、と思ったら違った! [一言] 1話から良い話でほっこり…
[気になる点] 〈〉がやたら多い……何かの消し忘れかな?って思うくらいわからんところにたくさんついてる……
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