前編 「残・酷・世・界」
僕は、ずっと部屋の中で悩みながら…ある決意をしていた。
財布の中にお金もある、これで何とかしなければ…。
『…僕がしっかりしないと、愛生ちゃんが狙われちゃう!』
『しっかりしないと…今度が僕が守る番だから』
僕の名前は、朝比奈 瑞樹、高校1年生。
冴えない男子高校生。人見知りが激しくて他人との
コミュニケーション上手く取れない…所謂、コミュ障ってやつで。
そんな僕をいつも優しく接してくれる、幼馴染の和泉 愛生ちゃん。
同じ高校1年生。僕と違って明るく誰とでも仲良くなれる女子高校生。
そんな愛生ちゃんに危険が迫っている…。
小さい時から男らしくなく、女の子の様になよなよしている僕は
どこに行っても、イジメのターゲットだった…。
そんな僕をいつも助けてくれるのが、男勝りの愛生ちゃん。
高校生にもなって、いつまでも助けてもらう訳にはいかない!
今度は…僕が守るんだ!男として。
明日の為に、寝ることにした…。
『おやすみ…愛生ちゃん』
〇5時間前、学校屋上
「おい!おかま野郎、お金は持ってきたんだろうな?」
そう、怒声で語りかけるのは、クラスメートの矢城 龍兵くん…。
中学の時からのクラスメートで、僕が男らしくないのが気に入らないらしく
ずっとイジメられてきた…怖くて逆らうことが出来ない。
「…あの、その、お金…を下しに…いけなくて…その」
「はぁ!?何言ってるか分かんねーんだよ!大きな声で喋れ!!」
もう1人…同じく怒声で語りかけるのは、クラスメートの葦原 虎次郎くん…。
矢城くんと同じ中学のクラスメートで、いつも2人でつるんでいる。
この2人からずっと目を付けられ、イジメの対象となっていた。
「ひぃ~!?…お金は…ないです」
「何だと!?俺たちはな~遊ぶ金が無いんだよ!遊ぶお金が!!」
「今日の放課後、どうしてくれるんだよ!何処へも行けねぇーじゃないか!!」
そう言って2人から見下ろすように睨んでくる…。
僕の身長は160cmと少し小さい上に、自分に自信がなく猫背気味…。
2人とも170cm越えのため、よけいに恐怖が煽ってくる。
「…そっそんなこと…言われても…その」
「言い訳は良いんだよ!お前の意見なんかどうでも良いんだよ!!」
「そうそう、俺たちはな~?お前から融資を頼んでるんじゃねーかよ!」
そう言って、矢城くんが僕の顔を目掛けて殴りかかってきた!?
ヤバイ!顔は避けないと…咄嗟に両腕で顔をかばう。
「…あう!…ぐぅ」
思いっきり殴られ、後ろに吹き飛ばされてしまった…かばった両腕がすごく痛む…。
良かった…顔を傷つけられると痕が残り、愛生ちゃんや家族にバレてしまう。
僕がイジメられていることが…。
「今日はもういいや…今日は勘弁してやる!」
「明日持ってこなかったら…分かってるんだろうな?」
「えっ!?」
矢城くんがそう言うと、2人が僕を見下しながらニヤニヤと笑っている。
え!?それって、もしかして…。
「…和泉だったかな~いつも一緒にいる男女!」
「あいつが、どうなっても…良いんだな?」
嘉原くんがニヤニヤしながらそう言い放つ…。
愛生ちゃんが危ない!そんなことはさせない!!
「え!?まっ待ってください!何とか…何とかしますから!!」
「愛生ちゃんには手を出さないでください!!」
懇願するように…嘉原くんの右足を掴んでお願いをした。
絶対に愛生ちゃんを守るんだ!
「うざいな!、さっさと離れろ!」
「…んぐっ」
嘉原くんに蹴り飛ばされる。すごく痛いけど…そんな事では負けられない!
何としても許してもらうんだ!!僕は土下座をした。
「…本当に頼みます!…愛生ちゃんには手を出さないでー!!」
「やかましいわ!俺たちに命令する権利なんて…ないんだよ!!」
「お前は、何も言わずに…お金を持ってくればいいんだよー!」
「そうすれば、あの男女には一切、手を出さねーよ!」
土下座している僕に、2人が蹴り込んでくる…痛い…痛いよーもうやめてー!
でも…負けるもんか!愛生ちゃんは守るんだ!!
蹴られても僕が土下座を止めなかったのが気に入らなかったのか…。
「気持ちわりーやつだな、もう良いわ!」
「仕方ねーな、今日は勘弁してやるよ…明日はきっちり用意するんだな!」
「アハハ!あばよーおかまちゃん!」
そう言いながら、土下座する僕を置いて2人は去って行った…。
すごく痛い思いはしたけど…何とか愛生ちゃんを守ることが出来た。
良かった…。
「…愛生ちゃん、僕、頑張ったよ」
そう言って僕は…屋上の床に大の字で寝転がるのであった。
「…ただいまー」
「おかえり~お兄ちゃん、今日は遅かったよね?何かあったの?」
そう言いながら、玄関まで迎えに来てくれる僕の妹、朝比奈 來海。
2歳年下の中学2年生。僕と違って明るく活発的な女の子だ。
運動も得意で、陸上部に所属している…自慢の妹だ。
「えっ!?そっそかな?…担任の先生に、その…用事頼まれて…それで」
「そうなんだ~偉いね、さすがお兄ちゃん!」
イジメられていることは家族には誰一人に相談はしていない。
僕以外は誰も知らない…知る必要が無いからだ、僕が我慢すればいいだけ。
お金下しに行くのに時間かかったてのもあるんだけど…まぁいっか。
來海はすぐ誉めてくれる…そんな出来た兄ではないのに…。
妹の方が数段偉いと思うよ、でも嬉しいから…ありがとう來海。
「お風呂沸いちゃってるから、お先にどうぞ~」
「うん、分かった」
お風呂に入るのも注意が必要だ…。全身痣だらけでイジメられているのが一目でわかる。
バレる訳にはいかない…僕がうまくやればいいだけのこと…家族に心配をかけたくなかった。
熱いお湯につかると、今日殴られた痕がすごく痛む…。いつまでこんな日が続くんだろう?
でも…愛生ちゃんとの日常を守るためだ!僕が頑張らないと…。
お風呂に上がり、着替えをすます。裸を見られるわけにはいかないからね!
それから、母さんと僕と來海で夕食をすます。
僕の父さんの朝比奈 和樹は、ただいま単身赴任中…あと2年は帰れないそうだ。
車販売の営業マンで、地方の支店を任されているそうだ、父さん…1人で大丈夫かな?
よく電話がかかってきて、來海と話をしている、父さん…來海の事がすごく気にかけているから。
僕の母さんは朝比奈 良海、すごく優しくて何でも相談に乗ってくれる。
僕は良く母さんに気をかけてもらっている、食事中によく尋問のように話しかけてくるから…。
それがすごく嬉しくて、心の支えとなっています、ありがとう母さん。
家族の団欒が終わり、自分の部屋に戻る…。
1人になると、今日あったことを思い返してしまう…。
家族や…特に愛生ちゃんにバレる訳にはいかない…心配をかけたくない。
自分で解決するんだ、僕だけがイジメられるのは何とか耐えられる。
愛生ちゃんに手を向けられるのは、耐えることが出来ない…。
『お金は用意できた…もう1度…あともう1度、お願いしなきゃ…』
『愛生ちゃんは…獏が守ってみせるから!』
そう心に誓い、ベットに潜り込む…良い夢が見れますように…。
『おやすみ…愛生ちゃん』
『チュン、チュン』
スズメの鳴き声で、朝が来たことを感じる…。目を開けて目覚まし時計を見る。
午前6時45分…いつもより速めに目が覚めちゃった。
まぁいっか、このまま朝起きて、学校に行く準備をしよう…早起きは三文の徳っていうし。
制服に着替えて、2階の自分の部屋から階段降りて、1階の手洗い所まで向かう。
母さんは、もう起きていて朝食の準備をしていた。僕に気付き声をかけてきた。
「あら、瑞樹、おはよう~今日は早く起きたのね」
「うん、ちょっと目が覚めちゃって…そのまま起きようと思って」
「あら、そうなの?早起きは良いわよ~頭も冴えて体も元気になるわよ」
「じゃあ…朝食早めに作っておくから、顔洗ってらっしゃい」
「うん」
母さんはいつも元気だ。優しくて…頼りがいがあって…つい甘えたくなる。
さすがに高校生だから、もう恥ずかしくて、そう言うことはできないけどね。
顔を洗って、用意された朝食を食べる。お昼の弁当を渡されて、少し早いけど
学校に行くことにした。妹の來海は部活の朝練で、もう先に出ちゃったけど…。
ホント…來海は部活、頑張ってるな~すごく偉いと思う。良く出来た妹だよ。
そう思いながら、学校に向かっていると聞き覚えのある声が飛んできた。
「み~ずき、おはよー!」
「あ!愛生ちゃん、おはよう~」
「今日は珍しく…早起きじゃない?なんかあった?」
「えっ!?そっそんなことないよ?あの…目が覚めちゃっただけで…」
「ふ~ん、ホントかな~?」
「え!?なんで、その…そう思うの?」
「ボクの何か知らないセンサーが、ピンピンするんだけどな~」
「ほっほんと、その…何でもないよ?…ぐーぜんだよ、ぐーぜん…」
何か知らないセンサーとか何!?愛生ちゃんはたまにおかしなこと言うから。
でも…愛生ちゃん鋭いから…たまに怖い。イジメの事は隠し通さないと!
「う~ん気になるけど…まぁいっか!ホント、瑞樹は抜けてるところがあるから…」
「ボクがいないとダメだね!」
そう言いながら背中を叩いてくる、痛いんですけど!ちょっとは加減してよー!!
「痛い!分かった、分かったからー!叩くのやめてよ~」
「ほら!男なんだからシャキッとしなさい!」
何回も背中を叩いてくる、ホント痛いから!マジでやめてー!!
…でも、この何気ない日常が大好きで…いつまでも続けばいいな~と思う。
愛生ちゃんが隣にいて、楽しくて嬉しくて…ずっとずーっと一緒にいたい。
その日常を守るため…負けてたまるか!僕が守るんだ!!
授業が始まり、昼休み、放課後へと時間が進む…。
2人が待つ、屋上へと向かった…。
屋上の扉を開けると、転落防止ネットの近くに2人がいて、扉の開く音でこちらに気付いた。
「よぉー遅かったじゃねーか?待たせるとは…いい度胸してるな?おかま野郎!」
「あの…担任の先生に、その…頼まれ事が、あって…」
鋭い目でこちらを睨んでくる…怖い…。矢城くんがそのまま殴りに来そうな雰囲気だったけど、
嘉原くんが手を出して遮った…あぶなかった…。
「それよりも…今度は持ってきたんだろうな~?俺たちのお金を」
「うっうん…その、これ…」
僕のお金が入った封筒を渡す…。お年玉やお小遣いで貯めた大事なお金…。
そのほとんどをこの2人に渡している、今回のこのお金で僕は貯金が無くなってしまった…。
「さすがは、おかまちゃんだ!また頼むぜ?」
「これでまた遊びに行けるぜ!早速行くか!!」
「おうーよ、どこ行くよ?」
「誰だっけな?隣のクラスの可愛い子いるじゃんよ?あいつ誘わね?」
「それ良いな!隣のクラスの誰か捕まえて、名前聞こうぜ!」
お金を貰ってテンションが上がったのか…僕の事なんかお構いなしで
遊びの相談をしている…ダメだ、言わなきゃ!このままじゃダメなんだ!!
怖いけど…勇気を振り絞って声を出す。
「…あっあの!」
「あん?…何だ、またいたのか?もう用がないからさっさと帰んな!」
矢城くんが向こうへ行け!と言わんばかりに手を振る。
すぐさま、さっきの話に戻ろうとする…今度こそ…はっきり言わなきゃ!
手をグーにして強く握りしめ…よし、大きな声ではっきりと伝えるんだ!!
「あのその…これで、愛生ちゃんには…その…手を出しませんよね?」
その言葉を聞いて、少しキョトンとしていたが、大きく笑い出し、こう言い放つ。
「ああ、そうだな~お金があるうちは、手を出さないでおくかな~」
「またお金が無くなったら声かけるよ、その時は…よろしく頼むぜ!」
え!?どういう事??この間の話とは全然違う。
「はっ話が…違うじゃないですか!一切、手を出さないと…言ったじゃないですか!!」
「何を勘違いをしてる?お金がある場合だけの話だ」
「そうそう!俺らは、男女には手を出さねーよ」
そっそんな…こんなことって…ないよ…僕の努力は何だったのか…。
そんな僕の気持ちを裏切るように2人はその場から去ろうとしている。
「んじゃまたな、おかまちゃん」
「また融資してくれよーおかまちゃん」
…ダメだ、引き止めなくては、このままじゃ愛生ちゃんが狙われる、それだけは守らないと!
去って行く2人を追いかけて、矢城くんにしがみつく。
「まっ待ってください…話は…その、終わってません!」
「なんだよ!おかま野郎、気持ち悪いんだよ、離れろや!!」
僕はすぐさま手を離し、その場で…2人の前で土下座をした。
「約束してください…僕は…その、僕はー!どうなっても良いんです!!」
「愛生ちゃんだけは…彼女には一切、手を出さないでください!お願いします!!」
僕の事はどうでも良い…愛生ちゃんだけは…誰にも手出しさせない!
そんな僕の願い事は、力強い蹴りを受けることにより儚く散っていく…。
「お前が人に頼める立場か、あー?」
「あうっ!」
「おかま野郎が!いつからそんな偉い立場になったんだ?ごらっ!」
「んぐっ!」
顔やお腹やあらゆるところに何回も…何回も…蹴りが飛んでくる。
痛い…すごく痛い…でも、彼女を守らねば!
「あう!…おっおね…がいします…ううっ…愛生ちゃ…んには…手をださ…ないで」
「躾がなってないようだな…分からしてやるよ、お前の立場ってものよなー!」
「俺たちの言うことだけ、聞いてればいいんだよ!おらー!!」
さっきより多く蹴り飛ばされる…それでも挫けず、お願い続けた…。
愛生ちゃんを守らねば…その思いは届くはずがなかった…。
「気持ちわりーやつだな!おい、こんな奴ほっといて帰るぞ!!」
「そうだな、気持ち悪いんだよ、このおかま野郎が!!」
「ううっ…まっ待って…」
僕のお願いなどあの2人には届かない…愛生ちゃんを守ることが出来ない…。
僕なんか生まれてこなければよかったのかな…僕じゃ…だめ、なのかな…。
泣きながら、痛みが酷くその場で気を失ってしまった…。
目が覚めたら…すっかり夜になっていた。誰もいない学校の屋上…。
惨めな僕をあざ笑うように、すごく静かだった。
小さいときから、ずっとイジメられてきて…僕と言う存在が否定され続けてきた…。
愛生ちゃんの存在が…僕の生きていける理由だった…それすらも奪われてしまう。
「…もう、生きていく自信がないよ…」
「僕のような…頼りない男が生まれてきてはいけない…」
不思議なものだ…人は絶望を迎えると…どんな事も出来る気がする…。
いつの間にか転落防止ネットを乗り越え、外壁の端に立つ。
こんなこと…怖くてできるはずもないのに…不思議だ。
「…ごめんね、父さん、母さん、來海…こんな僕で」
「…ごめんね、愛生ちゃん…大好きだよ…」
さようならみんな…。僕は宙を舞った…。
「…ボクをお嫁さんにして」の話を書くきっかけになったお話しです。
連載終わってからすぐに、掲載したかったのですが…書き起こすことが出来ず、
ずっと頭の片隅に追いやっていました。
久しぶりに小説を描いて投稿し、ようやく書きだして投稿することが出来ました。
話の構成は、前編と後編の2部作で書いていくつもりです。
前編は瑞樹パートで、後編は愛生パートで書いていきます。
よろしかったら読んでいただければ幸いです。




