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ワンダラーズ・デイズ  作者: 渋谷 彰


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3/3

平穏と災いの芽吹き

船体の組み上げ建造が終わり、インフラ施設の調整及び整備にエンジニア達が忙しなく動いている。その中で格納庫の管制室に戦艦や機動兵器の受け入れを指揮を執り、感慨深くそれらを見つめる老人がいた。


「こいつらもお役御免ってわけだ、役目は変わるがこれからも頼むぜ」


そう呟き視線をコンソールに向け操作していると、宇宙服を着た作業員が慌てて管制室に駆け込んできた。


「おやっさん! 今ロールアウトされた機体が受け入れの許可を申請してます!」


「ん? ちょっと待ってろ。………これだな、予定にはなかったもんだが誰かがねじ込んだか?」


「どうします? まだ立て込んでて受け入れしようにも、人員がぶっちゃけ足りないですよ?」


そういやそうだったな。インフラ整備にかなりの人員回したからな、しょうがあんめえよ。ただよ、この歳になるとな宇宙服着るのはしんどいんだよ。「たく、誰だこんな面倒なことしやがったのは」そう心底だるそうな表情を浮かべながら呟き、軽快にコンソールを操作すると申請者のデータに辿り着いた。


「ユキトか……てことは、あのマッドサイエンティスト関連だな。下らねえ機体ならすぐに捨てちまうからよ、五十三番ゲートに入れとけ」


まるで唾を吐きかける勢いで嫌悪感を隠さずに言い放つと、ぐぬぬと唸りながら作業員に受け入れの指示をだした。


「ああ、いやそっすね、そうなりますね、了解です」


以前に共同で開発プロジェクトを行った際、とある出来事がきっかけでその科学者に対し相当な怒りを覚えたらしいんですが。おやっさんはユキトに対してはお孫さんの様に甘々だからなかなりの葛藤が……


「ああ?何してんだ、すぐに行くからとっとと受け入れ完了しとけ」


怒りを堪える表情に恐怖を感じた作業員は、思わず「ヒィッ」と零すと格納ゲートに全力で走っていった。


「この時期にロールアウトたあ、どういう了見だってんだ」


そう呟きながらロッカーの宇宙服に着替え、管制室を後にした。

船体の環境制御システムの整備が完了したという報告がブリッジの通信機に届いた。その知らせに場にいた皆が歓声を上げ、航行プログラムの調整をしていたオペレータの一人が口を開く。


「マジかぁ~、クリスチーフ~ちょっと外の空気すってきていいですかぁ?」


「奈々子さん、その気持ちは分かるわ私もそう思う。でもね、こっちも予定が遅れてるから我慢しようか」


現在ここでの作業は宇宙服を着て行うこととなっており、場所的に船外に近いという事もあって事故防止の意味合いが高い。


「え~ちょっとぐらい良いじゃないですかぁ、もう服とか汗でびしょびしょですよ~、マジで気持ちわるいんですけど~」


「皆も同じ気持ちだけど、我慢してね。あと少しで調整段階に移行できるから」


通常の戦艦と違い超長期航行を想定している為、運航やそれに伴う業務等々に必要な人員が数十人規模で必要になり、彼女たちは人員削減の為プログラムの統合などを行っている。船体の中央にある居住区や医療機関では、ここと違って快適に作業を進めていると思うとクリスも愚痴の一つも零したくなる。


「でもでも~」と、まだ食い下がろうとした奈々子のヘルメットに衝撃が走り、「痛った!誰よ!」と振り向いた。


「チーフを困らせんじゃないよ、あんたは腕は良いんだけど、喋り方は鬱陶しいんだから」


「酷い!」とショックを受けながら視線をクリスに向けると、苦笑いで返されたことに更に落ち込んだ。そんな彼女の肩に手を置き「まあまあ、何時ものことだしドンマイな」そう言った後、クリスの方に歩み寄り口を切る。


「インフラ整備終了しました、ドック船による外装の特殊コーティングも先ほど完了致しました」


「朗報ね、報告ありがとう茜さん」


「ということは……」と、奈々子は茜に目を輝かせながら視線を送り、彼女はニヤリと笑みを浮かべた。


「宇宙服はもう脱いでも大丈夫。物資の搬入が終わってないから制限はかかるけど、風呂もシャワーも洗濯も出来るよ」


本日二度目の歓声が響き、他のオペレータ達も目じりに涙を滲ませるほど喜んでいた。宇宙服がいかに高機能だったとしても実際これには敵わないのだろう。だが、もう一点重要案件がある事は皆も理解していた、奈々子は意を決して問いかけようとしたが、それを察したのか茜はさらに続ける。


「もちろん、食堂もバッチリだよ、あんたの好きなカプチーノもあるからね」


ウインクしながら言葉を返すと、本日三……と言うまでもなくクリスを除いた全員がブリッジからダッシュで出ていく事態となった。


「あ~あ~、気持ちは分かるよ。でもね場所くらい聞いてから行きなよ、ねえチーフ?」


「ああ、貴方は女神様なの」と彼女も相当嬉しかったのか、若干トリップしていた。一つ咳を払い強めに再び問いかけ、クリスは体を少し跳ねさせ我に返ると口を切った。


「大丈夫、彼らなら辿り着けるわ。ちょっと失礼するわね」そう告げると足早に皆の後を追いかけていく。


「いや、ちょっとチーフ? はぁ、誰もいなくなっちゃったよ……しょうがない留守番しときますかね」


普段は人当たりもよく冷静で的確な判断を下せる彼女を知っているだけに、茜は申し訳なさを感じるとともに少々笑いが込み上げてきた。頼りがいのある彼女も、年相応な感情を持っているんだと。

移民船のタグボートの中で通常艦と違い、一回りも二回りもの大きさの戦艦。このブリッジの艦長席に腰を掛け深々とキャップを被る男がおり、電子機器が並ぶデスクに貼り付けられた古い写真に懐かしさと愛おしさを滲ませた視線を向け語り掛ける。


「隊長、もう三十年経ちましたよ。俺達「野良犬」も歳を取りましたが、ようやく牙を捨てる事ができそうです」


そして、徐にデスクの引き出しからワインとグラス二つを取り出し、栓を抜き注ぎ始め片方を写真の前に置き乾杯をしようとした。その時ドアの開く音と共に一人の乗組員が入ってくる。


「失礼します。っと、取り込み中でしたか。では、また後程伺いま……」


「いや、大丈夫だ」そう答えると、彼の手に抱えられたタブレットに目をやり、視線を合わせると要件を促し、啓礼と共に乗組員は口を切った。


「はっ、観測班の方からの報告ですが、地表での地殻変動に少々気になる点があるという事です。詳細はこちらのタブレットに入っております。」


「ありがとう、すぐに目を通させてもらう。が、我々軍人はもうお払い箱だ、啓礼はいらんぞ」


「はは、ですね。分かってはおりますが、なかなか抜けてくれないんですよ。それに新人パイロット連中に至っては、未だに手柄をたてる事を夢見るものもいるぐらいですし」


「ふっ、気持ちは分からんでもないな。まあ、そこは時間が解決してくれると思うが」


「では、私はこれで失礼いたします」と共に敬礼をすると乗組員はブリッジから退出した。それを見届けた男はタブレットを操作すると地殻変動について詳細なデータが表示され、一瞬驚きながらも少し目を細め、視線をスクリーンに映る静かな宇宙と星々の光に向けた。そして、目を瞑りワインを飲み干しながらこの平穏を味わいキャップを一層深くかぶり力なく呟く。


「これは随分と懐かしい地名が出てきたな……隊長、乾杯はもう少し後になりそうです」

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