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ワンダラーズ・デイズ  作者: 渋谷 彰


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去る者と残る者

母星テスティアラに寄り添うように浮かぶ衛星メルティス。その大きさは母星の約四分の一ぐらいであるが、人々にとっては巨大なものであることは言うまでもない。そして、移民船の建造はメルティス基地で部品を組んでは打ち上げ、宇宙空間で結合していき形にしていくものだった。


通常サイズの宇宙船であればドックで事足りるのだが、宇宙空間での動力確保やインフラなど移民するために要求されるスペックに応じて、船体は巨大なものになる為こうした手法が取られたようだ。


長きにわたる作業が終わり、巨大な宇宙船の初動を助けるためのタグボートが徐々に集結を始めた。タグボートと言っても、戦争がなくなり無用の長物となった戦艦であるのだが、出港してしまえば貨物船もしくは隕石の除去役として使われ、戦闘機や機動兵器についても平和的に利用されるのだろう。


巨大な船体であるが故にタグボートの数も相当数必要であり、出航までまだ時間が必要である。そして、その最後の時間、旅立つ者と残る者はどう過ごすのだろうか。

白いパネルがグランド1つ軽く入るぐらいのドームを形成し、その中央には何本ものチューブに繋がれた卵のような鉄の塊と培養カプセルのようなものがある。それ以外は何もなくなんとも飾り気のない空間がひろがっているが、その塊の前で白衣を纏い、軽量のゴーグルを掛け仮想コンソールを操作する銀髪の少年が一人。


ひと昔前であればキーを叩く音が響いて多少は静寂を解消してくれると思うが、無音のまま静かに時が過ぎていく。そして、長時間の作業を終えた少年はゴーグルを外し胸のポケットにしまい込み、鉄の塊を愛おしく見つめながら呟いた。


「ようやく最終フェーズ終了だな、あとは皆にまかせるよ」


その言葉は誰に聞かれるもなく霧散し、少年は白い部屋を少し名残惜しそうに出ていく。部屋の扉の前には長い廊下があり等間隔にセンサーが設置され厳重な警備がしかれており、関係者以外は入れそうにない。その光景をみて安心したのか歩調を早め、ドームの扉のロック音と共にその施設を後にした。


表に出るとそこには環境制御システムのスクリーンに青空が映し出され、頬を優しく撫でる心地よい風が吹いていた。道路にでて車を捕まえようと敷地内を歩きながら辺りを見回すと、木や草花が綺麗に並び今の母星とは比べようがないほど緑が溢れている。


「さすがは先生、まるで昔のテスティアラだ」


そして、道路に辿り着こうとしたとき、一台のジープと赤髪の少年が視界に入ってくる。すると少年に気が付いたのか明るく活発なトーンで口を切った。


「よう!最後のお勤めご苦労さん、ユキト」


「ロイか、ありがとな。でも、その言い方はなんかしっくりこないな」


軽口を交わす二人は銀河航行アカデミーの同期生で、付き合いも古く親友といっても過言ではない。


「まあ、それはさておき。格納庫に行くんだろ?送ってくぜ」


「ああ、お前まさかその為に待ってたのか?」


「おやっさん達も待ってるしな。いや~パイロットやってるとな、整備班には媚びを売っておかないと後が怖えしな」


「打算的だな、俺の感動を返してくれ。3割増しでな」


「それについては送迎でチャラにしてもらえる?、ついでに言うとお前の機体のテストもしたから十分おつりが貰えるぜ?」


ユキトの視線と目を合わさず頬を搔いているロイを見て微笑み「まあ、これでチャラでいいぞ」と、許すと車に乗り込みモーターの起動音が軽快に鳴り響くと二人は格納庫に向かった。


車内では暫し無言が続いていたが、建物と植物が流れる様を見つめているユキトに声が掛かる。


「なあ、ほんとに残るのか?皆寂しがってるぞ」


先ほどとは打って変って真剣な面持ちで問いかけるロイを横目でみると、ユキトは少し胸が痛む思いがしたのか再び視線を外に向け静かに呟いた。


「昔から決めてた。これは俺の最初で最後の我儘だ、皆には関係ない」


あえて親友を突き放すように強めに放った言葉だった。そうすれば多少は気持ちも軽くなるかもしれない。


「はいはい、悪者ぶっても無駄だぞ。ガキからの付き合いなめんな? でホントの所はどうなんだよ」


無駄な努力だった、彼の言う通り付き合いの長さは伊達じゃないな。ため息交じりに「言えない」と答え、暗にこれ以上追及するなと釘をさした。


「今までならそれで諦めたがよ、今回は駄目だ。言っただろお前の機体をテストしたってな」


だが、彼は諦めてくれない。それもそうだ、この移民船が出航すれば二度と会うことはない。今この瞬間が自分を説得するラストチャンスなんだ。


「あの機体は何なんだ? とてもじゃないが、真面な人間が乗り込むもんじゃないぞ」


怒気を含めた声で問い詰めてくるが、先生と共に作り上げた機体については機密事項であるため詳細は語れない。


「はあ~、表情で解ったわ先生案件だな。まあ、おやっさんに至っては激怒ものだったみたいだぞ、最悪一発食らうかもしれん。言い訳だけでも考えとけよ」


あまり感情を表にだすタイプじゃなかったんだけど、微細な変化で悟られるとは親友とはよく言ったものだ。そう思うと自然に「すまん」一言口から零れた。


「別に謝って欲しいわけじゃねえよ。ただ……いや、お前が後悔しないんだったらそれでいい」


そう言いながらも、寂しさを無理やり抑え込んでいるのは表情から見て取れた。納得して……ないんだろうな、同い年ながら自ら折れてくれる大人びた所に俺は救われてきたんだろう。


出航時間が迫る中、再び車内に沈黙が訪れ街中を抜けた車は格納庫への直通トンネルに消えていった。

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