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蟻だけど意志を持って生まれてしまった私は死に場所を探し始めた

作者: かき風来

この世で一番働き者の小さい生き物は蟻なのではないか。


働き蟻は女王制蟻社会の元、ひたすら休まずに生き続ける。

大きさはもちろん小さい。人間のまつ毛程度に小さい生物にとって、地球の世界は大きすぎる。


全ての物体が自分を遥かに超えていて、巨人なんていう次元を超えているのだ。



・・・ドスンッ・・・・・・・・・・・・ドスンッ・・・・・・・・ドスンッ・・・・・・・・・・




目の前に広がる世界は全て自分より大きい。蟻からしたら、公園の椅子は人間社会にある都会の高層ビルだ。ジャングルジムはもはや天辺を確認出来ないバベルの塔になる。


そして、この世に動きのあるほぼ全ての物体が蟻を破壊可能な対象となる。


そんな小さき世界を生きる蟻は超低質量の身軽ボディーを持っている。

身軽ボディーは、まず可動性が非常に広い。


くびれたウェストは90度以上反転できるし、自慢の顎はサイズから想像する以上に怪力なホールド力を発揮する。


見かけによらず高性能なボディーを持っているのだ。





・・・ドスンッ・・・・・・・ドスンッ・・・・・・・ドスンッ・・・




何も考え無しに歩いているあの「人間」は、蟻からしたら巨大破壊兵器に匹敵する。



人が予想出来るあらゆる脅威を超越している。



蟻からしたらただ歩いてる人間すら、災害なのだ。








気が付けば、私は蟻だった。








しかも、「人間」として生きた前世の記憶を持ったまま、蟻として生まれていた。








・・・ドスンッ・・・ドスンッ・・・ドスンッ・・・





それに気付いたとき、私はごく自然と一つの考えにたどり着いた。




まるで天気の良い日に家を出たら、つい空を見上げ雲模様を眺めるように自然と行き着いた到達点。







蟻として新たな生を受けた私は、死ぬことにした。







・・・ドスンッ・・ドスンッ・・ドスンッ・・・プチッ














・・・・・・・・・・・。










これで9度目の死だった。





人間の靴底に潰され、


車のタイヤに轢かれ、


豪雨に飲まれて流され、


とにかく自ら死にに行く行動を繰り返していた。



通常の昆虫と同様痛覚はないけれど、なぜか自分の姿を俯瞰視している映像は見えている。


信じられないが、前世の記憶を保持している私は蟻になった自分の姿を、上から見下ろす形で映像を見ている状態なのだ。


人魂のようにぼんやりと燃える小さな炎が蟻のすぐ近くにある感覚に近かった。



前世での私は平均寿命に比べて早死だった。

東京の高校を卒業後、進学はせずアルバイトを転々としながら何をする訳でもなく自堕落に過ごしていた。


実家から追い出されたのは二十歳になる前だ。


行き場に困り、急遽外国人のいるルームシェアに住み始めてからは必死にアルバイトをこなすようになっていった。

その後友人の立ち上げた企業に10年近く勤め、独り身特有の仕事に邁進する日々を過ごし、32回目の誕生日を過ぎた頃に過労死して人生を終えたところまで鮮明に思い出せる。


蟻になり死に続けても蟻として生まれ直すというこの謎な現象を自覚し始めてからは、前世の記憶を保持したまま生きている理不尽を責める思考はとっくに消えていた。

好物のチョコチップクッキーと炭酸水をたらふく飲む妄想は続けてしまうが・・・。


単純に前世の記憶について考えるのが辛かった。蟻からしたら人間は神に等しい存在だからだ。


なまじ人間の生態について詳しい私にとっては、余計に精神ダメージを受ける。



「今度は蟻として、しかも永遠に、働くのか・・・?」



行き場のないわだかまりは声に出すことすら出来ない。ただ自問自答する他ないが、叫ばずにはいられなかった・・・。



「なんでだよ・・・・」



「なんでなんでなんでなんでなんで!!なんで蟻なんだよォォーーーーーー!!!」




蟻としての短い一生を終えた後すぐに別の蟻として転生する。




死に続けているのが何も関係ない。ただひたすら蟻に生れる・・・。



「死んでも潰されても殺されても蟻!ずっと蟻!蟻!蟻ぃぃぃ!!!・・・・・意味・・わからねえよ・・・・・」



群がる蟻達に支配された真っ黒な「蟻生」・・・、ただ虚しく精神は擦り切れ、気持ちは動転し、ドス黒い感情に支配されていく・・・。


前世で疲れていたらつい女性のスカートを目で追ってしまうダメな大人だった私はいまや、蟻の美脚とくびればかり見るハメになっている。

昆虫化し人様への配慮や遠慮など気にする事が不要になってからは、蟻の個体によってお尻部分にあるシマシマ模様の微妙な違いまで見分けられる始末だ。


そんな狂った蟻である私は、気付けば女王蟻の居住巣付近で女王蟻親衛隊である親衛蟻に取り囲まれていた。



顎には別の蟻の足を3本を加えていた。つい先程特徴的なシマシマ模様のお尻を持つ蟻めがけて食い破ったのだ。



弱った蟻を護るように親衛蟻が立ち塞がっている。今までにないパターンだった。


私は女王部屋の目の前で暴れまわっていた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 昆虫の擬人化(正確には違いますが)ということで「風の中のマリア」を思い出しました。 文章、とても読みやすかったです。 [気になる点] ただ悲観してからのバッドエンドなのが残念です [一言…
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