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「おれ達ぁ、アキレギア団だ! 大人しくしなぁ!」
そうわざわざ名乗った、賊のリーダーと思しき人物は、手足の長い砂球人には珍しく、でっぷりとした体格の、いかにも力自慢といった風貌をしていた。瞬きする間に、ライラックは、好みじゃないと判断した。アルスは震えあがってコックピットに縋りつくスミラに、慣れてるから多分大丈夫だと言いながら、この程度で怯えるようじゃスミラに旅はやはり無理だと思った。
「手付を管理人に渡しといてよかったぜぇ。当たりだな。お前らだろ、記録の在処の“ログ”持ってるって噂の旅人は」
記録の在処と聞いて、え、と動揺するスミラをよそに、この程度のことは日常茶飯事であるライラックとアルスは、いつもの通り、まずはしらばっくれることにした。
「サァ、何ノ事デショウ」
「ココロアタリ無イナァ」
「とぼけんな! 図体のデカい珍妙な風体の野郎とガキの2人で旅してるおかしな船なんざ、そうねぇだろうが!」
「ちっ。やっぱり、あんた目立つのよ」
「断言するけど、絶対ボクのせいじゃない」
3人が言い合いをしているうちに、アキレギア団の仲間が5人ほどぞろぞろと船室に乗り込んできた。どいつもこいつも好みじゃない、とライラックは思い、燃料代を請求してやる、とアルスは思った。
「おら、さっさと出しなぁ! でないと頭を吹き飛ばすぞ!」
そうすごんで見せるリーダーに、ライラックは言った。
「それで?」
「それで? なんだ?」
「そっちのメンツはそろったのかしら?」
「おうよ、腕っぷしは強いぜ、覚悟しろ!」
げらげらと下品な笑い声をたてながら、賊はライラックに襲い掛かろうとした、が。
「デカい口叩く前に美丈夫を用意しろ、このすっとこどっこいがぁぁ!」
スミラとアルスの口喧嘩を聞かされる前から溜まりに溜まった鬱憤を、ライラックはとうとう爆発させた。
「覚悟しろ、だぁ? こちとら最強の身体と最強の心を兼ね備えてんのよ、控えめに言っても最強でしょうが!」
その豊かな筋肉を存分に発揮して踊るように拳と膝を食らわせながらも、ライラックはまったく容赦なく、拳銃やらマシンガンやらクナイやらピコピコハンマーやらをめちゃくちゃに繰り出し、賊を叩きのめし始めた。もはや、賊にとっての地獄絵図である。
その時、船内のスピーカーから、あー、あー、あー、てす、てす、てす、あー、という間抜けな声がした。アルスがあまりの騒音のためにコックピットからマイクでライラックに話しかけているのだ。
「ライラック、あんまり船内で飛び道具使わないで」
「壊しやしないし、直せばいいのよ!」
「だから言ってるの。どうせ直すのボクでしょ? あと、船を操縦するこっちの身にもなってくれる? 風穴あいた船体で加減を間違えて宇宙に飛び出したりしたら、ライラックでもさすがに死ぬから」
その言葉通り、アルスは船を自動運転から手動に切り替え、数多のボタン、レバー、タッチパネルを光速で操作していた。暴れまわる賊とライラックの衝撃に、本来であれば激しく揺れるであろう旧式の小船は、まるで地上に停めているかのように全く揺れていない。弾の欠片や何かの破片がアルスを襲うが、いつの間にか身に着けたヘルメットやゴーグル、グローブにより負傷を免れている。
スミラは、少し冷静になった。今、アルスはものすごい勢いで船を操縦している。口ぶりは余裕そうだが、ものすごく集中しているのだろう。今のうちにアルスを人質にとって、賊を片付けた後のライラックに、記録の在処について問いただそう、そしてそのまま連れて行ってもらおう、とスミラは考えて、懐からナイフを取り出し、アルスに向けた。
しかし、鋭い金属音をたてて、そのナイフは吹っ飛ばされた。スミラは何が起こったのかわからずにアルスを凝視すると、左手のグローブが小さく切れていて、その下に金属の板が仕込まれているのに気付いた。そんなものを身に着けているうえにこのスピードで船を操り、さらには一瞬でナイフを弾き飛ばしたのだと気づいて、スミラは再び震え上がった。
「言ったよね? 慣れてるって」
スミラの方を向きもせずに、アルスは言う。相変わらず、手元は正確に船を操縦し続けていた。
「ボクはライラックほど優しくない。……船ごと落とされたくなかったら、大人しくしてて」
アルスの言葉をきちんと理解する前に、スミラは床にへたり込んだ。