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 事件は、夜を3回超えた日に起こった。メンテナンスを終え、試運転をしていた時、普段より船が重いことにアルスが気付いたのだ。船内を捜索した結果、物置の隅にある飲料水のボトルの隙間に1人、砂球人が隠れていた。砂球人はアルスに見つかった当初はどんな目にあわされるかとびくびくしていたが、ライラックを見ると別の意味で怯え始めた。

「ライラック、鍵は」

「かけ忘れてたかしら」

「もー、恋人探しをするなとは言わないけど、防犯くらいちゃんとしなよ」

「アルスも、ちゃんと見張りなさいよ」

 責任を擦り付け合う2人のやりとりに、少し緊張がほぐれた様子で、ライラックに名前を尋ねられた砂球人はスミラと名乗った。声は高く、気の強そうな目をしていた。試運転中でよかった、でないと星から出るところだったと言うライラックに、逆にスミラは気落ちしたようだった。しかし気を取り直したように、ライラックをまっすぐに見て、スミラは言った。

「ねぇ、あなたたち、旅人でしょ? 悪いんだけどさ、船に乗せてってくれない?」

「乗せるって、どこまでかしら?」

「どこまでっていうのは分からないけど、とりあえず乗せてって」

 その無謀な依頼に、ライラックとアルスは顔を見合わせた。ライラックはスミラを改めて見たが、服装は砂球人の庶民のもので宇宙を巡る為のものではなく、荷物はあったが目的地の定まっていない宇宙の旅に出るにはあまりに軽装である。特徴的な長い手足は砂球人の平均よりも細く、ライラックのように身体能力が特別に高いというわけでもなさそうだった。宇宙の旅を舐めてんのかとりあえずってなんだ勝手に乗り込んでおいて今更頼むのか家出か家出なのかそうなのかあたしたちを巻き込むなと怒鳴りたい気持ちをぐっとこらえるライラックに、何を勘違いしたのか、スミラは「掃除とか洗濯とか、あと食事とか作るし!」とまくしたてた。それに「掃除も洗濯も船の人工知能がしてくれるし、料理も自分たちでできるから要らないんだけど」とアルスが冷静に返す。その声にライラックは少し冷静になった。

「2人なのに人手は足りてるのよねぇ」

「むしろ人手を増やすとやることは増えるし荷物も増えるから燃料代もかさむしね」

「そこを、なんとかっ」

「よしときなさいよ、とりあえず、って言って出て楽に渡れるわけじゃないわよ宇宙は」

「ボク等はそんな感じだったけどね」

「それを今言うのはやめなさい。まあ確かになんとかなっちゃってるけど」

「でも、だって、どうしても、どうしてもどうしてもどうしても、「記録の在処」に行きたいの」

 必死で言うスミラの「記録の在処」という言葉に、2人はきょとんとした表情になった。それを見たスミラが不安そうに問いかける。

「記録の在処、知らないの?」

「知ってるよ。今からおよそ、地球の年で40年前、科学者ドクター・コルチが唱えた説。ちなみに、コルチは7年前に亡くなってる」

 アルスの言葉に、スミラは「なんだ、知ってるんじゃない」と言って胸をなでおろしたが、同時にその口ぶりから、アルス達もやはり記録の在処の場所までは知らないのだと、落胆した。侵入した船に乗っていた少年が伝説の場所を知っているなんて都合のいいことがあるわけは無いとはスミラも思っていたが、そんな幸運にも縋りたい気持ちはどこかにあったのだろう。そんなスミラの安堵と失望を見て取ったのか否か、アルスもスミラに言った。

「キミだって知ってるはずだ。記録の在処はまだ発見されてない。どこにあるかもわからない。それに、賊が狙ってる。記録の在処があるとしたら、そこは今頃、賊のたまり場だ」

「どんな賊だって、まだ見つけていないのかもしれないでしょう? まだ見つかってないってことも知ってるわよ。どこまで乗せてもらうかは分からないって言ったでしょう」

「誰も見つけてないものを、キミが見つけられるっていう根拠はあるわけ?」

「ないけど、探してみないとわからないじゃない」

「そんなことするくらいなら他のことした方がいいって」

「他に、死んだ人を生き返らせる方法があるっていうの!?」

 スミラはとうとう、泣きながら怒り出した。

「ヒューを、幼馴染を、生き返らせる方法が他にあるっていうなら、とっくにやってるわよ! あなた、私みたいなのをどこかで馬鹿にしてるんでしょ! 私がこうやってるのも、金目当ての奴らなんかと一緒にして。金で買えるんなら買うわよ、買えないから必死なんじゃない。そもそも、金目当ての人だって、金を出す人がいるから記録の在処を探すのよ!」

「馬鹿になんかしないよ。でもとりあえず、キミには意味がないとは思うけど」

「どういう意味よ!」

 スミラが叫んだその時、船を強い衝撃が襲った。ライラックが慌てて周囲を確認すると、ちょうど窓の死角で、中くらいの飛行船から賊が無理に乗り込んで来ようとしているのが見えた。

 アルスは、キミのせいで気付くのが遅れた、と舌打ちをして、コックピットに飛び込んだ。

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