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2人を乗せた宇宙船は、「黄色い」星こと砂球の宇宙船用の港に着陸した。砂球はその名の通り、星の3分の2を砂が覆っている星である。砂と言っても各地で違いがあり、空港を覆っているのはスポンジのように柔らかい砂だった。着陸した感触で言えば水よりもソフトなくらいかもしれないとアルスは思った。
着陸したのが他の星との外交がある星であれば、2人はそれまでの旅で手に入れた珍品や情報などと引き換えに、食料品などを手に入れるのが常だった。長くその星に滞在するようなら通貨を手に入れたり、仕事をすることもある。幸い、砂球は外交が盛んな星だったため、2人は順調に食料や水を補充することができた。
順調でないのは、もう長いこと無遠慮に通行人を眺めまわしているライラックである。
砂球人はたしかに人型だったが地球人より手足が長く、肌は色が緑寄りで、砂の影響か硬質だった。背はライラックより高い人もいるし、筋肉もありそうなのに何をそんなに悩んでいるのかと、砂球の珍品の物色及び値切り交渉を終え戦果を抱えたアルスはライラックに声をかけた。
「恋人候補は見つからないの」
「うーん、肌がねぇ、もっとこう、こってりしたのが好きなんだけど」
「そこなんだ。……本当に面食いだよね」
「生き物は宇宙に腐るほどいるのよ、ふるいにかける基準を外見にして何が悪いの」
「それでどれくらい恋人いないんだっけ」
「おだまりクソガキ」
「どうする、可能性ありなら、いつかみたいに星一周してみる? 探せばこってりさんもいるんじゃない」
「星一周ねぇ、だいぶ時間がかかりそうだし、船はここにしか置けなさそうだしねぇ」
星の中を一周するには、地球での世界一周と同じくらいの時間がかかる。自分の恋人候補がいるかどうかピンとこないライラックは悩んだ。他に停める場所がないなら船で移動するわけにもいかない。普段はたった2人きりしか乗らない小さな旅の船が、主の目の届かないところに長いこと置いてあるとなると、賊に目をつけられる可能性が高まる。しかも、旧式の船には、メンテナンスが必要だ。
ふと、ライラックが空を見上げると、星が見え始めているのがわかった。今自分たちがいる場所が、砂球の恒星範囲(地球でいうところの、太陽に照らされている範囲)から外れようとしているのだ。スポンジ状とはいえやはり砂だからなのだろう、急速に空気が冷え込んでいくのがわかった。
見え方は異なるものの、暗闇に星がきらきら輝いているという、大体の星で共通の夜空をしばし眺めてから、ライラックは言った。
「まあ、しばらくここに泊まって考えようかしら。たまには重力があるところで眠りたいわよね」
アルスは、了解、と答えてから、荷物をもって船に戻った。