閑話 : 少女達の追想-ルナ-
ボクの名前はカトウ=ルナ
アームズの町で見習い冒険者をしています。
名字があるのはお父さんが異世界人だからで貴族という訳ではないんだよ。
ボクのお父さんは人族なんだけど、お母さんは狼の獣人、ボクはこの世界では珍しいハーフ獣人なんだ。
まあ珍しいと言っても今はそこら中で見ることが出来る位には存在するけどね。
ただ昔はこの世界にハーフ獣人は存在しなかったみたい、理由は単純で種族が違うため生態や嗜好が全く合わないから、かわりにエルフやドワーフは人族と近いためか昔からハーフエルフやハーフドワーフ等が存在していたんだ。
ハーフ獣人が現れだしたのは異世界人がこちらの世界に現れるようになってからだと言われてる。
彼、彼女らはこの世界の人達とは考え方が多少違っていて、種族間の壁を簡単に越える人が多数存在していたみたい。
ボクのお父さんもまた種族の壁を簡単に越える人で種族の違うお母さんに熱烈なアプローチを繰り返して最後にお母さんを根負けさせてしまったのだから凄い。
結果として今まで交わる事のなかった種族が交わるようになりこの世界にハーフが多数存在するようになったんだって。
その頃から種族間の対立も少しずつ考えられるようになり共存するにはどうするか?法は?設備は?と整えられていった、その中心にいたのが異世界人らしいんだ。
彼、彼女らの世界はこの世界よりも発展している世界ばかりで新しい考え方や魔法とは違う力等で次々と便利な物や設備、法を作っていったみたい。
そんな感じでこの世界には異世界人が昔から根付いているんだ。
現につい最近にも異世界人がこの世界に来たみたいでアームズの町は大騒ぎ、特に今回は凄く沢山の人が転移して来たそうで周りの人に聞く限りでは数十年ぶりの規模だってはなし。
そのせいで異世界課の人達は大忙しみたいで常に走り回っている。
でもまあ、ボクにはあまり関係ない話なので『ふ~ん』っていう感じだったんだ。
彼に出会うまでは
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彼と初めて会った場所は冒険者学校の教室の中、彼は教室の端っこの席で身を縮めて座っていたんだ。
最初ボクは教室を間違えたのかな?って思い話し掛けたんだけど、彼の持っていたプリントには確かに3組と書かれていた。
普通の人はそこで案内所に行って説明を求めるところなんだろうけど彼は『まあ、良いや』という態度でボクに自己紹介をして来たんだ。
最初はビクビクしてた彼だけど、数日もすると色々な種族の人達と大きな声で笑い合ってたり、ふざけ合ってたりする姿を良く見るようになった。
ボクは1番初めに声をかけた関係からか彼とは誰よりも話をしていたように思う。
彼はとにかく明るく、そして変な人だった。
良く分からない事をブツブツと言っていたかと思うと急にバッと動き出す。
そういう印象が強かったかな。
その印象が壊れたのは入学して暫くたったある日の事だった。
その日ボクは依頼の事で相談をしようと朝早くから冒険者ギルドに向かっていた。
そして到着したボクが見たものは凄く怖い顔をしながら受付の女性と話をしている彼の姿、そしてそれ以上に印象的だったのがギルド職員の足に泣きながらしがみついているボロボロの青年の姿だった。
彼の冷たく鋭い眼差し、彼が発している重い雰囲気、全てが普段の彼からかけ離れていた為かボクはその場で固まってしまった。
用事が終わったのか彼が(おそらく)仲間の人達と共にこっちに歩いて来た。
ボクは何故か咄嗟に隠れてしまった、多分だけど怖かったんだと思う。
だけど彼があんなに怖い顔をする事なんて今までなかったし想像も出来なかったんだ。
だからボクは勇気を出して何があったのかを受付のお姉さんに聞いてみる事にしたんだ。
お姉さんは少し悩んだ後『まあ、隠すことじゃないか』と呟いてボクに教えてくれた。
話を聞いていくうちにボクの顔が強ばっていくのが分かった。
ヒドイ。
何故そんな残酷な事が出来るのだろうか?
被害にあった動物達の事を思うとボクの胸がキュっと痛んだ。
お姉さんの話によると彼等は色々な方面から調べて犯人を捕まえたらしい。
しかし捕まえ方がかなり乱暴だった為に一歩間違えれば彼等の方が罪に問われるかもしれなかったとお姉さんは言う。
犯人の青年は余程怖い思いをしたのか過去の犯行についてかなり素直に白状したらしい。
お姉さんによると今回のような事件はターゲットが人間ではなくペットだった事もあり、あまり大きな事件として扱われないらしい。
しかも今回はペットの飼い主が金銭的に余裕がない家庭ばかり狙う犯行だったらしく捜索依頼がされない事もあり、依頼されたとしても報酬が低い為スルーされる事が多いんだと言う。
ただ今回の事件は悪質なので犯人にはそれなりに重い罰が与えられるだろうとお姉さんは言っていた。
たとえ犯人に重い罰が与えられたとしても飼い主達の悲しみは癒えないだろうと思うとボクは何とも言えない気分になった。
そんなボクの顔を見てお姉さんは『でもね』と今回の事件の結末を教えてくれた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
は~ん、何で仔猫ってこんなに可愛いんだろう?
ボクはギルドの片隅に体を隠しながら助かったと聞いた白い仔猫を見て悶えていた。
女の子に抱かれてウトウトしているその姿のなんと可愛い事よ。
ちなみに何でこんな所にいるかというと前回と同じく条件反射で隠れてしまったため今に至る。
今回の依頼は失敗扱いになってしまったと聞いているが、何故か依頼人の母親と話をしている彼の姿が。
どうしたのかな?と思ってついダメだとは分かっていても聞き耳を立ててしまった。
話を聞くとどうやら仔猫のお礼をしにギルドまで来たようだ。
しかし母親は今回の犯人の事と依頼について聞かされているらしく、彼等に頭を下げながらせめて依頼料と病院代だけは受け取って欲しいと言っていた。
彼は困った表情をしながらスッと手を伸ばすと銀貨を1枚手に取り『依頼料はたしかに受け取りました』と言ってギルドから颯爽と去っていった。
カッコいい!
ボクもいつかあんな風な冒険者になりたい。
颯爽とギルドを去って行ってみたい!ドキドキする胸の鼓動を聞きながら彼の背中を見る。
後で知るのだがフミヤはこの時カッコつけて金貨を受け取らなかった事を後悔していたそうだ。